実践的会社史論 -年史・社史づくりの楽しみ- 第4回 準備する[3]-役割分担- 東京大学大学院経済学研究科 教授 武田晴人

担当者は多忙です

書き手選びの参考になるように、会社史づくりの仕事の全体を見渡して、どのような仕事があり、どのような分担が可能かを考えてみましょう。

原稿が完成し、印刷のためのレイアウトをし、初稿刷りをつくり、校正するという年史づくりの「後工程」のことはここでは別にして、原稿をつくるまでのことを中心に考えると、次のような仕事があります。

  • (1)
    企画  本の体裁・部数・読者対象・編纂体制、目次構想
  • (2)
    編集  頁構成、写真・図版、文章校正
  • (3)
    調査  資料調査・収集、ヒアリング
  • (4)
    執筆
  • (5)
    調整  原稿点検、加筆修正
  • (6)
    交渉  社内も社外も

1つ1つ説明することもないでしょうが、このすべての仕事に、担当者は関係することになります。この6役をすべてこなすのはなかなか大変なことです。それをどのように分担することができるでしょうか。

1人でやるのは時間がかかる

もちろん、すべてを自分でやる、つまり原稿も自分1人で書くというケースがまずあります。たとえば、住友電気工業の『社史 住友電気工業株式会社』は、社史の担当者となった鈴江幸太郎さんが1人でつくられたものです。同書のあとがきによると、1946年10月に社史編纂の命を受け、15年かかって1961年に1200頁を超える大部の社史が完成しています。内容的にも高い評価を得ている、個人の著作といっても良いものです。

こうした人材が得られれば1人でやることもできるかもしれませんが、ごらんいただいた通り、長い時間がかかっています。会社史に詳しい村橋勝子さんの『社史の研究』(ダイヤモンド社、2002年)によると、編纂期間は社歴10年につき1年といわれていましたが、最近ではこれが短期化しているということです(同書、173-5頁)。短くするのであれば、1人でやるのはかなり無理な相談と思います。

チームの役割分担

これまでの話でも出てきているように、分担する場合の最も標準的なケースは、執筆を分担することです。それには、前回書いたように社内と社外の執筆者が考えられますから、これをいくつかのケースに分けてみましょう。表は、執筆を「社内」でやる場合、「社外の専門業者」にまかせる場合、社外の大学の先生などの研究者と直接共同でやる場合、そして最後に、監修者として研究者を据える場合というようなことを考え、それぞれの場合に、上の6つの仕事がどの程度分担できるかを示しています。大まかなイメージですから、それほど厳密には区分できるものではありません。




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「社内」の場合には、担当者は執筆の部分だけ負担が軽くなり、企画や調査、調整過程に社内執筆者の協力・役割分担を期待できます。ただ、この場合、多くの執筆者は歴史の編纂には素人ですから、古い資料を探したりすることはあまり期待できませんし、他の部分との原稿調整には目が届かずに自分の狭い視野だけで書いていくことが多いので、調整が担当者の大きな役割になります。

「社外の専門業者」にまかせる場合には、その経験などを生かせますし、企画の段階から他社の事例などの参考意見を聞くこともできます。執筆は、社史ライターのケースも研究者のケースもあります。その長短はすでにふれた通りです。交渉や調整の一部もゆだねることができますから、担当者の負担はかなり軽くなりますが、その分、会社を代表して、アウトソーシングした仕事の管理をきちっとやらなければなりません。

このやり方が最善のように思いますが、会社の方のお話を伺うと、コストがかかるという印象を持っているようです。これには多少誤解もあります。企画編集や調整、あるいは執筆者との連絡などソフトなノウハウはなかなかその意味がつかみにくく、計算しにくいために見逃されがちだということです。外部の知恵を借りるコストの適正さを決めるのは難しいと思いますが、それなりにしっかりとした仕事をしていると思います。

この問題を少し軽くするのが、外部の執筆者と直接契約することです。私はこの2番目のケースと3番目のケースをともに経験していますが、これは書き手からいうと一長一短です。直接の方が話が早い面がありますが、事務的な仕事をこちらでもやる必要が生じるために、負担が大きくなるという面があるからです。担当者も執筆者の管理を専門業者にゆだねられないなどのデメリットもあります。

最後の監修者を依頼するケースは、第一のケースとセットになる場合が多く、社内の執筆を前提にして、その内容の適正さを外部審査にゆだねるようなものです。

どのケースをとるかは期間の設定や予定した経費額などとも関係していますから、一概にはいえないでしょう。考えどころだということでしょう。