「人間尊重」を基盤に、
一人ひとりがもてる力を
発揮できる職場を目指して

  • 代表取締役 副社長執行役員
    人事労政本部長
  • 大久保 伸一

多様性がイノベーションを生み、事業の発展を支えてきた

トッパンは1900年に創業して以来、印刷を通じて培ってきた独自の技術・ノウハウを活かし、事業を拡大してきました。そこには、様々な知見や経験、考え方、能力や感性を集結することで起こるイノベーションがあったと感じています。この多様性の融合が、トッパンならではのダイバーシティ&インクルージョン(D&I)であり、トッパンのイノベーションの歴史を支えてきた原動力なのです。
 トッパンは現在、2万社以上のお客さまに対して、多岐にわたる事業を展開しています。加えて、世の中の流れがさらに加速しており、トッパンが社会から必要とされるためには、その動きを先取りして事業の発展に結びつけていかなければなりません。変化に対応し多様なお客さまの信頼・期待に応えていくためには、個々の従業員が多様な力を発揮し問題解決に挑んでいく必要があります。だからこそ、トッパンにはD&Iが大切なのです。

「人間尊重」をDNAとした戦略的D&I

トッパンは、歴代の経営者が理念として「人間尊重」を掲げてきました。その実践として、人事労政本部ではこれまでも、一人ひとりが能力や知見、経験を十分に発揮できる体制を築き、「やる気・元気・本気」をもって働く環境づくりを目指してきました。また、労働組合とともに「労使働きがい推進委員会」を設置し、議論を重ねて様々な施策を進めてきました。
 こうした取り組みを通じて、従業員がお互いを認め合い、尊重し、仕事で力を発揮できるようになりました。「人間尊重」はかなり根付いているという実感があります。しかしさらなる持続的な成長のためには、これまで以上に戦略的かつ輪郭を明確にした取り組みが必要です。「人間尊重」という大きな考え方で実践してきたことをD&Iという枠組みで再整理すると、より認識が深まり、自律的に動けるようになると考えました。その考え方に基づき、2019年4月にダイバーシティ推進室を設置しました。
 専門組織ができたことで、情報発信を一元化し、D&Iの観点で整理して発表・説明することが可能にもなり、トッパンが目指すものや進むべき道筋をより明確に示すことができるようになったと感じています。社内外によりわかりやすく発信し、また活動を加速させるためにも、これからダイバーシティ推進室が担う役割はさらに大きなものになっていくと考えています。

地道な活動の積み重ねが生んだ、着実な成果

私たちはこれまでも、D&Iに先駆的に取り組んできたという自負があります。しかし、まだまだ課題や足りない部分もあり、さらに活動を強化していかなければなりません。
 今後、D&Iをより意識して経営の中に取り入れ、意思決定に反映していく必要があります。また、グローバル化の進展による外国人の雇用や、異分野でキャリアを積んできた人財の雇用も増えており、彼らが能力を最大限に発揮しトッパンで活躍できるように、土壌づくりも進めなければならないと考えています。
 障がい者雇用については、一人ひとりが「やる気・元気・本気」をもって働ける環境づくりが重要だと考えています。各自がもつ能力や強みを発揮し、周りと協力体制をとりながら積極的に仕事に取り組み、会社が求める社会的責任をともに果たしてもらうことが大切です。例えば、東京都と板橋区との共同出資で設立した東京都プリプレス・トッパン(株)は、トッパンからの様々な委託業務を受けていますが、今では彼らの働きなくして仕事が成り立たないほど活躍してもらっています。
 また、LGBT(性的マイノリティ)への対応も早くから進めてきました。皆が素晴らしい感性をもっていて、それをトッパンの仕事に活かすことも非常に大切だと考えています。約8%の人がLGBT層に該当するとも言われていますが、すべての人にとって性のあり方は緩やかなグラデーションがあります。一人ひとりの個性を尊重し、もっている能力や特徴を活かして活躍してほしいですし、すべての従業員が、多様性を認め合う環境を自分たちでつくっていくという意識をもってほしいと考えています。

トッパンのD&Iを、社会全体のD&Iへ

新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワーク導入が進み、コミュニケーションの形も変化しています。例えばトッパンはWeb会議を積極的に導入していますが、肩書きを気にせず議論ができるので、役職に関係なくフラットに話せるというインクルージョンも生まれてきました。
こうしたコロナ禍での経験も含め、企業としてのD&Iの経験、実践、成果を積極的に世の中に発信・共有していきたいと考えています。なぜなら、自社だけでなく、社会全体のD&Iが進んでいくことこそが、トッパンのD&Iの目指す姿だからです。これからもトッパンはD&Iの取り組みを通じて、多様性をもった持続的な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

障がいの有無にかかわらず、共生し合える職場づくり

トッパンでは、D&Iの一環として障がい者の活躍支援に力を入れています。トッパンで働く障がい者一人ひとりを戦力と捉え、個性や特性を伸ばし、ともに社会的価値を創出できるよう、職域の開拓や環境支援を進めています。

障がい者活躍の現場 1

(株)トッパンエレクトロニクスプロダクツ 滋賀工場

福永(左)と平松(右)は、現場で他のメンバーにも目を配りながら、
円滑に作業が進むよう逐次コミュニケーションをとっている

工場の業務に不可欠な、障がい者4名のチーム

トッパングループのエレクトロニクス事業の製造部門を担う(株)トッパンエレクトロニクスプロダクツ。その滋賀工場では、2001年より障がい者雇用をスタートさせました。
 「当時は、受け入れ側の理解が不足していてコミュニケーションがとりにくい、本人がなかなか仕事を覚えられないなどの課題がありました。2008年以降、一時障がい者採用を見送っていたのですが、ハローワークや地元の高等養護学校との連携を図り、2015年から採用を再開しました。受け入れにあたっては、まずは就労体験で職場の雰囲気や仕事を知ってもらうようにしています。受け入れ側も、個人の意欲や適性の見極めを事前に行うことができるので、従来よりもスムーズに入社できるようになりました」(総務部 課長 吉田 真弓)
 当初は、大型カラーフィルター原版の梱包作業を行う職場で受け入れを開始。その後、反射防止フィルムのコア再生作業の現場へと職場が拡大しています。
 「コア再生とは、反射防止フィルムを巻き取るコアとなる筒を、使用後に汚れを拭き取ったり傷を補正したりする作業です。当初は他にもメンバーが所属していましたが、現在は障がい者雇用の4名のみで現場が稼働しています。作業の中では、汚れをどの程度きれいにすればよいか、あるいはもう再生できないコアなのかといった見極めが必要ですが、彼らは経験を重ねて実践できるようになりました。月間約700本のコア処理を内製化できており、費用削減にも大きく寄与しています」(滋賀工場長 小椋 徹)

丁寧なコミュニケーションが、お互いの信頼につながる

コア再生作業の現場では、障がい者受け入れにあたって様々な配慮を行ってきました。現場を監督する福永 修と、障がい者雇用で採用された平松 芳規は、現在までを振り返ってこう語ります。
 「作業を行う場所は倉庫内なので、当初は照明や空調が不十分な面もありました。そこで、設備を更新して作業性に配慮したり、運搬時の台車を増やすなど、働く環境を少しずつ整えてきました。最初に平松が現場に入ってきたとき、障がい者と接するのが初めてだったので、自分自身対応に悩んだのは確かです。でも、一人ひとりの個性を見つめ、コミュニケーションのとり方など工夫してきました。従来は私が作業の段取りや工程管理を指示していましたが、現在は平松がリーダーになり、現場の管理を100%引き継いでいます」(福永)
 「入社当時は人と接することが怖い面もありましたが、福永さんがコミュニケーションをよくとってくれたこともあり、半年くらいで仕事が楽しくなりました。リーダーを任せられる前は、指示に従って仕事をすればいいと思っていましたが、自分がリーダーになったことで考えが変わりました。上司がどのように指示をしていたかや、他の人がどんな仕事をしているかを改めて確認したり、動きを見て勉強しています。また、新しく後輩が入ってきたときは緊張していることがわかるので、コミュニケーションを重視して、休憩時間に積極的に話をしたり、失敗しても次に頑張れるように声をかけたりして、職場になじんでもらえるようにと考えてきました」(平松)
 「今働いている4名は、それぞれに、個性や特性が違いますし、仕事にかかる時間も異なります。それでも、平松を中心にレベルアップを図り、徐々にでも作業の効率を上げていけるようになればと考えています」(福永)
 「仕事は月ごとに忙しさが変わりますが、リーダーとして予定の確認やメンバーへの指示を行う中で、忙しくてもがんばれる、くじけずにやれるということが少しずつ自信になってきました。求められている基準を着実に満たすことが、自分にとってのやりがいになっています。周りには技術的にも人間的にも見習いたい人たちがいるので、その姿を目指し近づいていきたいと思っています」(平松)
 全国の工場の中でも、障がい者雇用のモデルケースとなっている滋賀工場。今後も受け入れを着実に進めていく考えです。
 「障がいをもっている人が働く職場が、工場の中で特別な環境ということはありません。チームのミーティングや、工場イベントにも皆で参加し、お互いアイデアを出し合い相乗効果を生み出しています。今後も、働きやすい職場、工場にしていきたいと考えています」(小椋)

障がい者活躍の現場 2

特例子会社
東京都プリプレス・トッパン(株)

特例子会社 東京都プリプレス・トッパンでは、トッパン各事業所のオフィス業務代行事業などを行っています。障がい者(ふれんどりースタッフ)が事業所内で活躍することで職場に多様な感性が育まれ、働き方改革の推進にもつながっています。

秋葉原分室では、社内便やシュレッダー、各種データ入力、配布物の仕分け発送、資料の電子化等の様々なオフィスサポート業務を担っています。

棟方 輝彦
  • 取締役 総務部長
  • 棟方 輝彦

当社は、1993年にトッパンと東京都・板橋区との共同出資で設立された、重度障がい者雇用モデル企業です。オフィスサポートを担う秋葉原分室には現在、知的・発達障がいを持つ社員13名が所属しています。
 私は長年トッパンで労務に携わってきましたが、特に精神障がいをもつ社員はどこまで心の中に踏み込んで労務管理すべきか、非常に難しさを感じています。しかし、働く一人ひとりが少しずつ歩みを積み重ね、自立するための仕組みをつくっていくことが私たちの使命です。これからも、障がいをもつ方が働く場として、オンリーワンかつナンバーワンの企業になることを目指してます。

  • 人財開発室 室長
    社会福祉士・精神保健福祉士
  • 堀 千枝美

秋葉原分室は凸版印刷本社に隣接しているため、全社の障がい者雇用モデルケースとなるよう取り組みを進めています。
 育成を促すなかで心掛けているのは、チーム全体でメンタルモデルを共有することです。例えば、一つの課題を通じて社会性を研鑽するグループディスカッション、行動に直接的に働きかけるソーシャルスキルトレーニングを定期的に実施し、分室間のベクトル合わせを行っています。また、「業務」と「社会性」を切り分け細分化し、すべて合わせて『仕事』と認識をする習慣を身につけ、毎週振り返りを行うことにより、本人たちの無限の力にアプローチをしていきます。それは本人たちの成長への一つの指標となり、そのひたむきなチャレンジ精神は会社の財産です。
 今後は、私たちの育んだ障がい者雇用のノウハウを、トッパングループ内、そして広く社会にも発信していきたいと考えています。

  • 製造部 業務サポート
    オフィスサービス秋葉原グループ
    企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)
  • 伏木 豊

秋葉原分室には私を含め2名の指導員が在籍しています。知的・発達障がいの社員はとても素直で、その分、指導員が彼らに与える影響は非常に大きいものがあります。私たち指導員の成長やスキルなくして社員一人ひとりの成長はないと考えると、非常にやりがいのある仕事です。
 業務においては、一人ひとりの自主性を重んじるとともに、一人の社会人として接し、かつ彼らとの距離感を保つことを大切にしています。例えば、仕事はお膳立てをせず、事前準備から本人にやらせる。わからないことがあった時、以前は手を挙げれば指導員のほうから近づいていきましたが、今は、質問をしたい指導員の席に行って質問をするようにする。そのようにして、仕事をするためのスキルや経験のステップアップを図ってきました。
 今後は、トッパングループ内で障がい者についての理解をより深め、指導員となる人財を育成することも重要になると考えています。

  • 取締役
  • 一瀬 逸三

当社では、DTP制作や自動組版システムの設計・開発のほか、トッパングループ内の様々な業務を受託しています。私たちが業務を請け負うことで、トッパンの社員はよりコア業務に集中できる。それは働き方改革にもつながると思います。
 大切にしていきたいのは「共存共栄」です。健常者が普通だと思っていることが、障がい者にとって普通ではない。その点を理解し、配慮していくことがなければ、健常者・障がい者の双方が立ち行かなくなります。一人ひとりが秘めた無限の可能性を開花させることができるよう、当社はこれからもチャレンジし続けていきます。

仕事と生活の両立

  •  トッパンでは、「働く意思を支援する」という考え方に基づき、仕事と生活を両立しやすい環境づくりを進めています。
     育児との両立を実現するために様々な支援制度の拡充を進めるほか、育児をしながら働く社員の心を支える仕組みとして「はぐくみプログラム」を実施しています。
     また、仕事と介護の両立支援についても、制度の拡充や社員向けの情報発信・セミナーの開催などで、不安を解消し、安心して働ける環境づくりを進めています。

  • はぐくみプログラムの一つ「はぐくみアートサロン」

LGBTへの理解を促進する取り組み

  •  トッパンでは、LGBT(性的マイノリティ)への理解を促し、誰もが働きやすい職場環境を実現するための取り組みを進めています。
     取り組みの一つとして、グループ全体に向けたLGBTオープンセミナーを開催。2018年は東 小雪氏による「職場のダイバーシティを考える」、2019年は藤原 快瑶氏による「みんなで学ぼう!多様な性の在り方(LGBT)」を開催し、社員がLGBTに対する知識を深め、対話する機会となりました。また、2020年7月1日より、配偶者関連制度の一部を改訂し、同性パートナーや事実婚パートナーにも適用を開始するなど、制度面からも従業員の多様な生き方を支えています。

  • 藤原 快瑶氏によるLGBTオープンセミナー

ダイバーシティ&インクルージョンは、
トッパン変革の原動力

  • 人事労政本部 人財開発センター 部長 兼
    ダイバーシティ推進室 室長
  • 澤田 千津子

トッパンの事業は、目に見えないもの、言葉にできない想いを感性で汲み取り形にするという、相手に対する思いやりの上に成り立つものです。そのDNAは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)と共通するものだと考えています。
トッパンではこれまでも、各部門で積極的にダイバーシティに関する取り組みを進めてきました。しかし、時代の変化や法改正などの動きを踏まえると、D&Iを「会社を変革するための原動力」と位置付け、全社で同じ目的意識をもって取り組む必要があります。そこで、2019年4月にダイバーシティ推進室が新設されました。その役割には、各部門と連携しながら活動をステップアップさせること、世の中の動きに合わせてスピードを高めることなどがあります。推進室のメンバーは3名ですが、全国の拠点にダイバーシティ推進委員を置き、相互に情報共有や連携を図りながら活動を進めています。
また、推進室ができたことで、経営層に対する直接的な提言が可能になったことも変化の一つです。経営戦略としてのダイバーシティの重要性が広く認知されることで、今後の全社的な推進に弾みがつくと考えています。
これからは、従業員一人ひとりの心理的安全性を如何に担保していくかがインクルージョンのキーになると考えています。それは、障がい者雇用やLGBT等への取り組みのみならず、テレワークなど多様な働き方が進む中で働きがいをもてる職場づくりも含みます。そのためには、従来のやり方や考え方を180度転換するくらいの、変革が必要です。違いを尊重し合い、活かすことで組織の変革は進んでいきます。変革を進めるとともに、様々な地道な取り組みを積み上げることで、トッパンのD&Iを推進し、同時に次世代のダイバーシティを担う人財も育成していきたいと考えています。