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パネルディスカッション おもてなしコミュニケーションのかたち。

2015年4月の訪日観光客が170万人を超え単月での最高となり、続く5月も約164万人で前年比150%増を記録しました。皆さんは、実際に外国人の方が増えたという実感をお持ちでしょうか。また、それぞれの業界における訪日観光客の受け入れ、多言語対応の現状についてお聞かせください。―安井

隅田氏

情報通信研究機構(NICT)の研究所がある京都から東京に来る機会は増えましたが、最近はなかなかホテルの予約が取れません。4月初めはビジネスホテルの1泊の宿泊料金は3万円にもなっていました。
仕事の関係では、2020年に向けて訪日外国人の増加に対応しなくてはという、皆さんからの強い思いを感じます。鉄道やタクシー関係、病院関係などいろいろな業界の方から、ご相談をいただいています。すぐにでも使いたいから、早く音声翻訳を実用化したものを作ってほしいと要望も多く、責任の重さを感じます。

栗原氏

各博物館の多言語対応に関しては、東京国立博物館では、展示品のキャプション(解説)すべてに対応することは現実的ではありませんが、大きな部分(タイトルや概要など)では日本語と英語、中国語、韓国語は併記するようになっています。当館のパンフレットは7言語を用意していますが、多言語化の要望は強くなっていますね。そのため、先ほど(Seminar1)紹介した携帯用アプリを利用して多言語に対応しています。
現在の課題は、専門的な用語をどう翻訳するか。観光庁が中心になって表記統一する動きがあるのですが、基準づくりは大変です。ルールがない中で、各博物館が独自の判断で対応している状況です。英語はある程度スタンダードができていますが、中国語や韓国語はバラバラなのが現状です。

波多野氏

本社が秋葉原にあり、いつも外国人観光客の方が家電を爆買いする様子を目の当たりにしています。担当セクションに聞くと、ホテルの予約が取れない、ガイドが不足している、移動用の車両もなかなか確保できない、といいます。今はアジア、特に中国の比較的富裕層が中心ですが、これが中間層に広がるとさらに対応に苦慮すると思われます。 今の日本の経済状況ではホテルがどんどん建つようなことは期待できません。そこで、規制緩和という部分で、例えば空き家やアパート・マンションを外国人観光客向けに利用できないか、また通訳ガイドも国家資格保持者に限らず間口を広げてもらえないかと、関係方面に提案しています。

隅田氏

旅行業界では観光地や駅、病院など施設のデータベースをお持ちですが、それを外国語に訳す場合の標準化も必要ですね。例えば、駅名をどう訳すか。同じ鉄道会社の中でさえ違うことがあります。博物館でも同様のお話がありましたが、統一して業界・社会全体でシェアするのは重要なことですし、各業界単独では難しい部分もあります。そこで、日本人が得意な「みんなで一致団結してやる」精神で取り組めばいいシステムができるのではないでしょうか。NICTは国立の研究所なので(旗振り役には)いいポジションにいるのかなと思い、各方面の皆さんに一緒に協力してやりましょうとお話しているところです。

栗原氏

多言語対応での課題としては、中国語は大陸で簡体字、台湾では繁体字を使うことへの対応があります。当館は簡体字しかなく、昨年「台北 國立故宮博物院展」の際に慌てて繁体字のパンフレットを作りました。台湾から訪れるお客さまも多く、今後は繁体字表示も考えていかなければなりません。
その点、NICTのアプリはアメリカ英語にもイギリス英語にも対応され、さすがだなぁと思いました。また、北京の故宮博物院は音声サービスが40カ国語くらいあり、日本でもトヨタ博物館では16カ国語のリーフレットを用意しています。当館も国立の施設として多言語対応を急がなければと思います。

これまで皆さんが取り組んできた中で、さらに見えて来た課題、解決しなければいけない問題点には、どのようなものがあるでしょうか。―安井

波多野氏

スマートツーリズムに関しては、官公庁や自治体の方と話すと、日本の文化を正しく紹介できるガイドの人材が少なく、訪日観光客に対する統一的なプロモーションができていないといいます。こうした部分を、例えばスマートグラスを使ったARを利用すれば、日本の文化や風習を正しく伝えられ多言語化にも対応できます。特に地方の観光における人材不足に対するサポートにもなるし、課題解決につながるのではないでしょうか。

栗原氏

現在、ホームページで主に日本語と英語で情報発信をしていますが、若い人たちはホームページではなく、もっぱらフェイスブックなどSNSを見ています。ですから広報室では、必死になってフェイスブックやらツイッターでこまめに発信しています。それを日本語だけでなく、英語やその他の言語でも発信するとなると、対応できる人材が足りません。とはいえ、世界にPRするためには、今後そういった努力も必要なのかなと考えています。

隅田氏

翻訳システムは登録されていない言葉は翻訳できませんので、膨大な日本各地の観光地名の全部を入力する必要があります。そして、どういう仕組みでどこがコストを負担するかも考慮しなければなりません。
入力システムは提供できますが、実際の入力作業には、地方活性化を志すような方がボランタリーで協力してくださるような仕組みができないものでしょうか。翻訳自体は比較的簡単ですが、どの地名が重要かはその地方の人じゃないとわかりませんので、日本人みんなで協力していけたらと思っています。

今回のテーマは「魅せるチカラ×伝えるチカラ」ということで、コミュニケーションにおける情報の可視化について、取り組みやご経験等がございましたら教えていただきたいと思います。―安井

隅田氏

音声翻訳装置のログデータによって、ある言葉がどこで何時に話されたかというデータベースを作っています。世界地図にマッピングすると、この辺では旅行関係の言葉が喋られているなとか、あちらでは男性が女性に声をかけているとか(笑)、行動がわかってくるんです。
その時にわかったことは、皆さんが携帯電話のGPSによる位置情報をあまり発信していないということです。プライバシーの問題や、電池が消耗するという理由でオフにする人が多いんですね。そこで、GPSをオンにすると得になる仕組みを作れないものかと。私が考えたのは、忘れ物、落とし物を発見するのをお手伝いするアプリで、1日の行動経路を記録しておくことができるというアイデア。すると、落とし物は経路上のどこかにあるわけですから、GPSをオンにしてくれるのではと考えたのですが、まだ手伝ってくれる人がおらず実現のめどは立っていません。

栗原氏

博物館で千年以上前の日本の文化財が、なぜ今も奇麗な状態で見られるかというと、大体50~100年おきに修理、補修をしてきたからなんです。長年営々と修理を重ねて保存してきたからこそ、今に受け継がれていることを伝えたいですね。それで、修理の現場を見てもらう企画を当館でやろうとしたら、バックヤードが狭くて見学ルートが確保できず、あまり人を入れられないんです。年間100人の目標を立てたんですが、20人を2回やっただけで終わりました。そこで、現場に来ないまでも、「トーハクなび」などで修理の様子の映像が見られるようにできないかと考えています。

波多野氏

2002年ワールドカップ関係の仕事をした時に、居酒屋に外国人の方を連れて行ったんです。何が好評だったかというとメニューの写真でした。可視化の最もわかりやすい例です。やはり日本の風習とか文化についても実際に見せるのが一番で、例えば温泉や銭湯では、入り方の手順やマナーをイラストで見せて案内するところも増えています。言葉ではなかなか説明できない日本の文化・風習も、ビジュアルで見せると伝わりやすいということを認識し、あらためて考えて取り組んでいるところです。

「おもてなしコミュニケーションのかたち」ということで講義も含めてお話を伺ってきました。技術だけですべて解決できる問題ではなく、人間の力もうまく組み合わせた新しい「おもてなしのかたち」が必要であり、これからできてくるのだろうと感じました。本日はどうもありがとうございました。―安井

国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT) ユニバーサルコミュニケーション研究所 副所長 隅田 英一郎(すみた えいいちろう)氏
独立行政法人 国立文化財機構本部 事務局長 東京国立博物館 総務部長 栗原 祐司(くりはら ゆうじ)氏
近畿日本ツーリスト株式会社 未来創造室 課長 波多野 貞之(はたの ただゆき)氏
凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター ビジュアルコミュニケーション開発部 安井 昌彦(やすい まさひこ)

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