コラム

企業のカスタマーサクセスが重要となる
これからのCX

小野 譲司(おのじょうじ)さん
  • 青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授
  • 小野 譲司さん

テクノロジーの進化によりタッチポイントが変化しています。また、近年注目されている「カスタマーサクセス」において企業が取り組む際に留意するポイントを青山学院大学経営学部マーケティング学科教授 小野譲司先生に解説いただきます。


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これからのCX

多様なタッチポイントを戦略的に提供することが必要

これまで人がリアルで行っていたサービスに加え、テクノロジーの進化によってタッチポイントが増えています。分かりやすい例が、オンライン証券・銀行の拡大です。昨今ではメガバンクや地方銀行の口座を保有し、なおかつオンライン銀行や証券の口座を保有する人も少なくないようです。

日本のサービス産業の顧客満足度を継続的に調べているJCSI(日本版顧客満足度指数)調査によると、人による接客が中心のリアル店舗より、オンライン専業銀行の満足度の方が高い傾向にあります。都市銀行は店舗や人手をかけて金融サービスを提供しているのに、なぜオンライン専業の方がユーザーの評価が高いのか、疑問に思われる方も多いでしょう。興味深いことに、リアル店舗業態よりもオンライン専業の顧客の評価が高いのは、銀行に限ったことではなく、旅行代理店、生命保険、損害保険でも似たような傾向が見られます。

その理由の一つに、人、機械、ロボットに求める期待値はそれぞれ異なることが考えられます。人間の心理は不思議なもので、機械はできることが限られているという先入観を持っているようです。それに比べてリアル店舗では、込み入ったことでも人が何でも解決してくれるだろうという「期待」が高く、それゆえに期待はずれの経験をしてしまう人もいるため、満足度の下げ幅が大きくなる傾向にあると私は考えています。

一方で、最近はオンライン銀行利用における満足度が下降傾向にあります。その理由は、大手都市銀行をはじめ、リアル店舗が中心だった銀行がモバイルバンキングのアプリなどを充実させてきた結果、オンライン銀行自体の差別化が効きにくくなってきたこともあると思われます。また、都市銀行のATMや支店の撤廃が進む中で、高齢層を中心としたネットリテラシーが相対的に高くない人々のオンライン銀行利用が進んでいることが考えられます。リアル店舗では難なく手続きできたことでも、オンライン銀行では難易度が多少上がるからです。

このことから、オンライン化や機械化によるタッチポイントの拡大は、どんなサービスを受けられるかを熟知している顧客にとっては満足度が上がる可能性が大きく、24時間いつでもどこでも顧客の都合で活用できるサービスは今後さらに増えていくでしょう。ただ、一部の顧客の満足度を下げる可能性があることも同時に理解し、オフラインとオンラインの良さをしっかりと整理して、活用していくことが大切です。

顧客と企業のさまざまなタッチポイント

最適なチャネルからの体験がLTVの最大化につながる

顧客のLTV(顧客生涯価値)の最大化を図り、顧客を成功体験に導くために支援する「カスタマーサクセス」の活動に近年、注目が集まっています。

教育の世界ではオンライン学習が一例に挙げられます。わざわざ教室に通わなくてもAIが提供する学習の効果により「点数を上げる」という自律した学習体験を提供できます。しかしながら、「粘り強く考える力を培う」という体験を求める顧客(本人や保護者)は、実際に講師に教えてもらえるリアルな教室を求める場合もあります。

このように、顧客のニーズに合わせたインフラやチャネルの使い分けも、カスタマーサクセスには必要になってきます。また、ターゲットを絞ることも重要です。ある顧客に最適なCXは、他の顧客には最適であるかと問えば、必ずしもそうではありません。どのようなサービスを誰に提供するかを明確にしておきたいところですが、万人を対象とせざるを得ない商品を持つ企業は大変悩むところでしょう。その中でも顧客ターゲットを絞りながら、ユニークなCXの設計やサービスの検討が求められるでしょう。

小野 譲司(おのじょうじ)さん
青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授

明治大学商学部、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得後、2000年、博士(経営学)。明治学院大学経済学部などで教鞭を執り、2011年より現職。サービス産業生産性協議会JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査。著書に『顧客満足[CS]の知識』(日本経済新聞出版)、小野譲司・小川孔輔編著『サービスエクセレンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』(生産性出版)。

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2022.06.27

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