コラム

CXマネジメントの注意点|
よくわかる!顧客体験のはなし

小野 譲司(おのじょうじ)さん
  • 青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授
  • 小野 譲司さん

顧客ロイヤルティの向上に向けて重要となるのが、まずはどのように組織をつくるか。その上で、具体的なアクションへの考え方を青山学院大学経営学部マーケティング学科教授 小野譲司先生に解説いただきます。


ideanote vol.148 CX よくわかる!顧客体験のはなし


CXを向上させたいのですが、何から始めれば良いのでしょうか?

統括する司令塔の存在と関連部門の密接な距離感が重要

顧客にシームレスかつ最適な体験を提供するには、企業の部門間連携は必須です。商品と接している時、顧客はその企業を営業部、サービス部、製造部といった縦割り組織の部門で見ているわけではありません。しかしながら、連携不足によりCXがうまく機能していないケースは少なくないようです。さらには、一つの企業でも、社員、派遣社員、アルバイト、あるいはパートナー企業の社員など、さまざまな価値観を持った人が働いています。特に、本社の目が行き届きにくいパートナー企業にまで価値観の統一を図ることは想像以上に難しいものです。

カスタマージャーニーに沿った素晴らしい顧客体験CXを実現するサービスをデザインしたとしても実行できなければ「絵に描いた餅」に終わってしまいかねません。それゆえ、組織をどうつくるかが重要です。CX部門の新規立ち上げや部門機能の改善には、本社かつ社長の直轄に近い部門や、全体を見渡せるような場所に部署を配置することが大切です。CX統括の司令塔を設けて、部署横断のチームを設けるのも良いでしょう。CXに関わる部署が密に連携できるよう、物理的に近い距離での配置や、IoTを活用したネットワーク構築などが有効です。

顧客視点から全体をマネジメントする人材の必要性

パーソナルに対応する体験を提供することが大事

昨今のCXの議論において、実際に企業で行うマネジメントの多くは、ペインポイント(顧客にとっての痛点、つまり、不便、不快、面倒、苦痛なこと)をできるだけ排除していく動きが多くなります。改善の効果が出やすいものもペインポイント潰しだと思います。顧客経験の観点からすると、心地よい、効率的で、流れるような体験となる一方、良くも悪くも感情が動かないフラットな体験を提供することになります。機能的な価値を提供する商品やサービスでは、ベストなオペレーションかもしれません。

一方、情緒的な価値を訴求する商品やサービスでは、感情が伴う経験を提供できないため、企業の商品やサービスが記憶に残りにくくなってしまいます。ペインポイントとは逆に、ゲインポイントをどうつくるか、何かしらの楽しみやサプライズを加えていく必要があるというわけです。感動やサプライズというと、少し大げさな仕掛けをイメージしがちかもしれませんが、それは決して非日常である必要はなく、些細なことでも、顧客の印象に残ったり、ポジティブな感情を生み出しうることを指摘する研究もあります。

例えば毎日行くコーヒーショップで、いつもする注文を店員さんが覚えてくれて「豆乳に変更ですね」と声をかけることも立派な情緒的価値を生む体験です。顧客に小さな喜びを感じてもらうことで、それまではカフェラテしか頼まなかった人が時々ドーナツを購入するなど、徐々に客単価が上がります。このような小さな積み重ねが優良客に育てるための上昇スパイラルを生みます。

ただし、人はそれぞれに感動のツボが違うということも理解しておきたい点です。例えば、経験の少ない顧客(=新規客)には、ちょっとしたサプライズで感動を与えることができても、経験豊富な顧客(=常連客)にはそれが当たり前となり、容易に感動を与えられなくなります。むしろ常連客にとっては、従業員の知識が豊富であるとか、とっさのときに即座に対応してくれたことが感動ポイントになりやすいということも研究の結果、分かっています。

何よりも、顧客は常に真新しい経験を求めているわけではありません。時と場所によって変化するので判断が難しいところです。それらを見極めるには観察力が必要で、これをAIに置きかえることは容易ではありません。人の観察力や臨機応変な対応が必要な場面や顧客層に対しては、スキルの高いスタッフが対応にあたることは、優れたサービスを提供している企業では、以前から行われていることで、その原則は変わらないのかもしれません。

小野 譲司(おのじょうじ)さん
青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授

明治大学商学部、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得後、2000年、博士(経営学)。明治学院大学経済学部などで教鞭を執り、2011年より現職。サービス産業生産性協議会JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査。著書に『顧客満足[CS]の知識』(日本経済新聞出版)、小野譲司・小川孔輔編著『サービスエクセレンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』(生産性出版)。

関連コラム

2022.06.27

新着記事 LATEST ARTICLE
    人気記事 POPULAR ARTICLE