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アイデアノートでは、課題解決に役立つ当社の受注事例やソリューションを織り交ぜ、独自の視点で編集した注目コンテンツをピックアップしてまとめています。

2022.04.11

“セルフメディケーション” と “テクノロジー”で命と健康を守る

#健康・ライフサイエンス#SDGs
町井 恵理 さん (まちい えり)
認定NPO法人 AfriMedico
代表理事 (Founder/CEO)、薬剤師。青年海外協力隊としてアフリカのニジェール共和国で2年間、感染症対策のボランティア活動に従事。ニジェールでの経験から、どうすればアフリカの医療を改善できるかを考え続け、グロービス経営大学院へ進学。「違いがあるからこそともに学ぶものがある。アフリカと日本の両方を良くしたい」という想いから、2014年にNPO「AfriMedico」設立に至る。
三大感染症の一つ「マラリア」。世界保健機関(WHO)によると、2020年世界での全死亡者数は約62万7千人に上りました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを機に、さらに人々の命と健康を脅かす地球規模の課題として指摘されています。認定NPO法人AfriMedico(アフリメディコ)は、「医療を通じてアフリカと日本をつなぎ健康と笑顔を届ける」をミッションに、2016年からアフリカ・タンザニアで、日本発祥の「置き薬」をビジネスモデルとして、医療問題の解決に取り組んでいます。代表理事であり、2016年9月、Forbes JAPANの世界で闘う「日本の女性」55に選出された、薬剤師の町井恵理さんに最新の支援状況と今後の医療について伺いました。

置き薬を通して、セルフメディケーションの重要性を伝えていく

アフリカの人々の命を救う、 現代版「OKIGUSURI」

アフリカでは医療資源が不足しており、病気にかかっても容易に医療サービスを受けることができません。特に農村地域では病院へのアクセスが悪く、行けたとしても待ち時間は長く、薬不足のうえ、偽薬も出回っています。治療費も庶民にとっては非常に高額です。そのため、病院に行かずにいる間に病気が重症化して、最悪の場合は死に至ることもあります。このような状況を少しでも改善するために私たちに何ができるだろうかと考えたとき、思い付いたのが「置き薬」の活用でした。
 
置き薬は、江戸時代に全国へ広まったものです。実は、当時の「インフラが未整備」「大家族が多い」「皆保険制度がない」という特徴は、現在のアフリカ農村部にそのまま当てはまるのです。また、置き薬は「先用後利」といって、先に使って後から代金を支払うシステムです。これは、収入を得るタイミングが作物の収穫期に限られるアフリカの農村部の人々にも、喜ばれるだろうと考えました。
 
「OKIGUSURI」の内容は、現地で調達した解熱剤、ばんそうこう、下痢止めなどの一般的な常備薬です。よく「置き薬で命を救えるのか?」と言われることがありますが、農村地域は水環境がかなり悪く、実際に下痢で人が亡くなることがあるのです。「OKIGUSURI」の配置件数は、ここ数年、200世帯ぐらいで推移しています。現地の人々の間では「子どもが夜中に熱を出してもすぐに使える」「後払いなので手持ちのお金がなくても使える」と好評です。薬の値段は、現地の薬局で手に入る値段とほぼ同じに設定しています。安すぎると転売の問題が出てしまい、反対に高すぎると使ってもらえません。現在は、地方だけに薬を置いているので輸送費などのコストが響いていますが、持続可能な体制にしていくために収益化を目指し、今後は街の中心部にも「OKIGUSURI」を広め、そこで得た利益を地方の輸送費として補填する——そんなやり方を模索中です。

現在、タンザニアで本当に置き薬が功を奏しているのか、きちんと裏付けを取ることに注力していきたいと考えています。現地のムヒンビリ大学の薬学部と共同研究を進めており、置き薬を置いた群と置いていない群に分け、その効果を比較検討しています。統計学的に置き薬の利点がはっきりしたら、タンザニアに限らず、アフリカ中の医療が不足している地域に置き薬を広げていきたいですね。アフリカは全部で54カ国あるので、それぞれ現地に合うかたちで展開していきたいと考えています。
 
WHOでは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」を“セルフメディケーション”と定義していますが、置き薬の役割はまさにそこにあります。置き薬を通して、セルフメディケーションの重要性を伝えていくこと。そして、置き薬を使わないで済むように正しい予防知識を広めていくことが、私たちの大事な役割だと考えています。

課題を解決するために、 現地の環境に合わせてテクノロジーを活用する

置き薬は日本発祥で300年前の江戸時代からある仕組みです。アフリカで進めるにあたり、置き薬の重要なポイントは残しつつ、“アフリカ版”“現代版”に改変していく必要があり、その“現代版”にはテクノロジーの活用が必須だと考えています。
 
また、団体内でのテクノロジーの活用としては、ビデオ会議ツールをよく使うようになりました。現在、コロナにより渡航ができないため、現地スタッフとのやりとりは、オンラインがほとんどです。以前は渡航しないとコミュニケーションが深まらないと言っていたのですが、コロナ以降、オンラインで気軽に何度もやりとりをするようになって、かえってコミュニケーションの質は上がったと感じており、今では欠かせないツールです。
 
薬代の支払いには、「M-Pesa(エムペサ)」というモバイルマネーのサービスを活用しています。タンザニアでは銀行口座をつくるのはとても難しいですが、携帯電話を持つことは比較的容易で、1家庭に1台は必ずあります。このサービスなら、携帯電話さえあれば、誰でも簡単に送金ができるので、現地の実情に適しています。結果的に、薬代回収の手間も省け、盗難に遭う危険性も減らすことができました。
 
薬の在庫管理については、もともと紙への記入式によるオペレーションでした。しかし利用者の情報のほか、どの薬を誰が、いつ、どれだけ使ったかを把握するために、2年ほど前からリアルタイムで更新されるスマートフォン向け専用アプリを新たに構築しているところです。AfriMedicoのITチームを中心に、UIの最適化に向け、何度もオンラインミーティングで話し合い、マニュアルの改訂を重ねている段階で、現地テストを実施しています。以前、薬が使用された前後の画像を比較し、どの薬が使われたかを判断する画像認識技術の導入やICタグによる商品管理も検討しましたが、ネットワーク環境やコストの観点から現地の環境に最も適した、アプリでの運用に決めました。現地の人に受け入れられやすいかたちで、運営に必要なテクノロジーを順次取り入れている状況です。 
私たちの活動以外でもテクノロジーの活用は進んでおり、ルワンダの医療業界では、すでにドローンが使われています。アメリカのZipline社が、ルワンダの政府とタイアップして、血液などをドローンで運んでいるのです。血液製剤など、すぐに必要なものを基地から現地に飛ばし、以前は数時間かかっていたのが、30分以内に現地に届くようになっています。ドローンの活用法としては、とても意義ある事業だと感じています。このように、タイムリーに飛ばす必要があるもの、現地で保管できないものの運搬についてはドローンを活用し、それ以外は通常の運搬方法を使うなど、うまく組み合わせていくべきでしょう。
 
今後、タンザニアでは、遠隔医療や個人のデータ化なども、日本より早く進む可能性もあると思います。アフリカにおける医療テクノロジーの一環として、「OKIGUSURI」を確立できれば、 日本の遠隔医療としても活用していけるはずです。リバース・イノベーション※のようなかたちで、いつか「OKIGUSURI」を日本の地方の遠隔医療に改めて役立て、日本国内の医療にも貢献できる日がくるかもしれません。また、そのようにテクノロジーは、医療格差や貧困、人材不足といったさまざまな課題を克服し、多くの人々の命と健康を守ってくれるのではないでしょうか。もちろんそこには、医療教育・予防啓発といった部分も抜けてはいけないと考えています。
 
※リバース・イノベーション:新興国で生まれた技術革新(イノベーション)や、新興国市場向けに開発した製品、経営のアイデアなどを、先進国に導入して世界に普及させるという概念。 
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