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2021.09.01

【前編】スマートワークの社会実装はどうあるべきか

#組織・人材・働き方改革#非対面・非接触
経済学博士(D.Phil.) 慶應義塾大学大学院商学研究科教授 (独)経済産業研究所(RIETI)プログラムディレクター/ファカルティフェロー 鶴 光太郎さん
私たちの働き方は、「テレワーク(在宅勤務)」を筆頭に確実に多様化し、場所を問わないワークスタイルや勤務時間に自由度がある働き方が現れています。この他、複業(副業)の導入や雇用形態の選択制の取り組みも徐々に加速。企業にとっては、働き手が望む選択肢を用意できるかどうかが、従業員エンゲージメントや人材獲得競争において、非常に重要になっています。時間と場所を問わないワークスタイル「スマートワーク」は、私たちの働き方のスタンダードになり得るのか? また、この働き方を社会実装するために私たちにできることは何か? 今回、日本型雇用について経済学の視点で研究されている鶴 光太郎さん(慶應義塾大学大学院商学研究科教授)にお話を伺いました。

インフラ整備はテレワークの生産性を上げる鍵

ICT革命以前の1980年代、ビジネスにおける連絡手段は電話かファクスしかありませんでした。パソコンも身近な存在ではなく、ワープロを使う程度でしたが、欧米では、その頃からテレワークが行われていました。通勤しなくて済む、家のこともいろいろできるといったメリットはあるものの、コーディネーションやコミュニケーションがとりづらいといったことは、当時から言われていました。その後、90年代に入ると、インターネットの普及によりメールやファイル共有などが可能になり、状況は変わっていきました。私の印象ですと、2010年前後には、テクノロジー的にテレワークの制約はほぼなくなっていたと思います。その頃にはバーチャルオフィスの仕組みがすでにできていて、職場と同じような働き方をテレワークで行うことは可能であり、あとは職場の人たち次第だと感じていました。
 
ですから現在、オフィスワーカーと呼ばれる人たちは、 基本的にテレワークは可能だと思います。少なくとも、一般的な会議や打ち合わせは、まったく問題ないでしょう。実は私自身、以前は微妙なニュアンスや暗黙知、表情などは、リモートでは伝わらないと思っていたのですが、コロナ禍以降、毎日のようにテレビ会議をするようになって、そうした先入観はことごとく崩れ去りました。話しづらいどころか、お互いが自宅などリラックス環境にいることで、対面よりも、違和感や緊張感なく話せています。
 
さらに、工場や店舗など、いわゆる現業部門であっても、例えば建設機械の操作や、工場でのさまざまな検査なども、新たなテクノロジーにより、リモートでコントロールできるようになってきました。IoTやAI、ICTなどが、我々が「これはテレワークではできない」と思っていた限界を切り崩しつつあると言えるでしょう。
 
ここで、興味深いデータをご紹介しましょう。テレワークのメリットは、ホワイトカラーの人たちを中心に考えると、 自立的な働き方をすることで集中力・生産性が上がる、ということになると思いますが、現段階で、日本における調査では、「テレワークの結果、生産性が落ちた」という結果が出ているのです。ただし注目すべきは、コロナ前からテレワークをやっている企業は、コロナ後に始めた企業に比べて約15%、「生産性が上がった」と回答している点です。コロナ禍でやむを得ずテレワークを始めた企業はインフラが整っていない環境でやっているので、生産性が下がるのは当然なのです。お金と時間をかけてインフラを整え、皆が使うことに慣れてくれば、生産性も満足度も上がってくるでしょう。
 
実際、日本生産性本部が、コロナ流行以降、6回ほどアンケートを実施しているのですが、「テレワークで仕事の効率が上がった」という回答は、第5回までは回を追うごとに高まっています(右図参照)。やはり、“慣れ”の問題が大きいのでしょう。過渡期と考えれば、仕方がない部分もあると思います。 
なお、テレワークについて、欧米などの研究結果などを見ると、いくつか留意すべき点があります。まず、労働時間が長くなる可能性があるということ。自分としては非常に生産性が上がったと感じている場合でも、実際は単純に労働時間が長くなっているだけだったというケースがあり得ます。日経のスマートワーク経営調査でも、上場企業600~700社の方々を対象に、「在宅勤務をしている人はそうでない人に比べて労働時間が増えましたか」という問いに対して、管理職については、労働時間が増えたという結果が出ました。
 
もう1つは、プライベートとの切り分けの難しさです。例えばお母さんたち。皆さん、コロナ禍でも経験されたと思いますが、子どもと一緒に家にいたら仕事にならなかったとか、職場に行ったほうがよほど生産性が上がると感じた方は多かったようです。
 
さらに、新人など若い人たちのソーシャリゼーション※がテレワークでは育ちにくい、とも言えるでしょう。新しい組織の文化にふれ、慣れ親しんでいくには、やはりその中に入る必要があるため、リモートではなかなか難しいのです。これらは、テレワークの今後の課題と言えるでしょう。

※ソーシャリゼーション 社会の規範や価値観を学び、社会における自らの位置を確立すること。 
出典:「第2〜6回働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」(公益財団法人 日本生産性本部) 
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鶴 光太郎さん
経済学博士(D.Phil.)慶應義塾大学大学院商学研究科教授 (独)経済産業研究所(RIETI)プログラムディレクター/ファカルティフェロー
1960年東京生まれ。84年東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学経済学博士号取得、経済企画庁入庁、OECD経済総局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012年より現職。経済産業研究所プログラムディレクター/ファカルティフェローを兼務。内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013~16年)などを歴任。
主な著書に、『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)、『雇用システムの再構築に向けて—日本の働き方をいかに変えるか』(編著、日本評論社)などがある。2021年春に『AIの経済学』(日本評論社)を上梓。
【後編】スマートワークの社会実装はどうあるべきか
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