コラム

顧客中心の体験デザインへと変わる
顧客体験(CX)

いわゆる「新しい生活様式」が求められる今、私たちの生活は大きく変化しています。企業もそれは同じこと。ビジネスの継続を支援していくために私たちができることとは何か。トッパンのマーケティング事業部の2人に話を聞きました。

※本コラムは2021年1月13日に発行したideanote vol.140の内容に基づき作成しております。


ideanote vol.140 CX 変わる、顧客体験

(左)梅川 健児/凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 コミュニケーションデザイン本部 兼 エンゲージメントサービス本部 本部長<br>(右)山下 薫/凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 エクスペリエンスデザイン本部 本部長
(左)梅川 健児/凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 コミュニケーションデザイン本部 兼 エンゲージメントサービス本部 本部長
(右)山下 薫/凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 エクスペリエンスデザイン本部 本部長


顧客中心で、サスティナブルな体験をデザインするために

ーまず、各本部の主な事業内容から聞かせてください。

梅川 コミュニケーションデザイン本部とエンゲージメントサービス本部という2つの部門が担っているのは、デジタルマーケティングの推進です。例えば、便利なデジタルサービスを提供し、それをご利用いただくことで、顧客からデータを預かる。これを統合・解析してニーズを先読みし、さらにサービスを改善して、継続的に使い続けていただく。そんな、サスティナブルで顧客中心主義のサービスの実現を支援しています。

山下 エクスペリエンスデザイン本部は、昨年までは店頭や販売促進などのセールスプロモーション領域において、キャンペーンやイベント実施などで力を発揮してきた部隊です。しかし、今般のビジネス環境の変化に伴い、事業部の「Beyond Sales Promotion」という宣言のもと、企業と顧客のすべての接点で生まれる価値をエクスペリエンスと捉えて、継続的な顧客体験価値の創出支援を行うことを目指しています。つまり、目的は梅川さんのところと一緒ですね。

ー2020年はどのような状況でしたか?

山下 リアルイベントは低迷状態ですが、ライブ配信などのオンライン系は好調です。オフィスにオンライン配信専用スタジオをつくるお手伝いなども請け負っています。イベントの場合、リアルからオンラインになって、例えば1,000人しか見られなかったものが一気に100万人が視聴可能になるなど、新たな可能性を秘めていると感じています。

梅川 オンラインによって、距離や空間の限界が取り払われ、確実に同じ体験を共有する人数は増えましたよね。

山下 そうなんです。トッパングループの社内運動会も、「eSPORTS FESTIVAL 2021」としてリアルとオンラインを組み合わせた形で開催することで、全国の従業員が参加できるようになります。今までにない新たな体験価値が生まれてくる可能性を感じています。

(左)梅川 健児/(右)山下 薫

リアルのデータを可視化することは企業や生活者にとって価値になる

ー実際に、デジタルマーケティングが顧客体験を支えている例を挙げてください。

梅川 株式会社講談社様、株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)様とで、「株式会社コンテンツデータマーケティング」を設立しました。データとテクノロジーを使って、コンテンツの届け方を再構築し、生活者と最適なコンテンツの出会いを飛躍的に増やすことで、ビジネス機会を拡大する事業を昨年、開始しました。多くのコンテンツ事業者と連携し、コンテンツ事業のDXを推進する取り組みです。

山下 我々は、ギグワークス株式会社様と、「AIリモート接客」システムを共同開発し、2021年1月にサービス提供を開始予定です。AIカメラで顧客の反応を可視化し、そのデータをもとにAIで接客用スクリプトを自動生成したり、店頭での行動や会話、リアクションを収集し、購買特性を分析して、顧客体験の向上施策に反映させることを目指しています。

ーそうした流れの中で、どのように顧客データを顧客体験の向上に活かしていくべきだと考えていますか?

梅川 コンビニの店内のようなリアルの場でも、ECと同じように顧客の行動を読み取り、それに合わせて、最適なレコメンドができる仕組みをつくるなどの技術開発を進めています。

山下 AIカメラの活用以外にも、感情センシングやアンケート調査のようなものを発展させるなど、いろいろなやり方を探っているところです。

梅川 例えば、自動車ディーラーで営業マンと商談したお客さまのSMSに、退店後すぐに、接客についてのアンケートを送って回答をもらいます。その課題点を店舗にフィードバックすると、顧客体験は大きく改善されます。

山下 ほとんどの人は常にスマホを持って過ごしているので、移動中も家にいるときも、スマホを通してデジタルの世界とつながっているわけです。そこからデータとして得られることはいろいろある気がします。個人的には勝手にデータをとられるのは嫌だなと感じることはありますが(笑)。

梅川 そうなんです。だから、ユーザーに「嫌だな」と感じられてしまうようなデータのとり方ではだめなのです。例えば、僕が愛用している大手通販サイトは、いつも本当に僕が欲しいと思う情報や商品をいいタイミングで教えてくれます。そうしたメリットでしっかり返してくれるから、こちらもデータを共有してもいいですよ、という気持ちになれるのだと思います。

山下 僕は「フォートナイト」や「あつまれ どうぶつの森」といった、メタバース領域※にも注目しています。みんなリアルでは集まれないけれど、そこに集まって会話をしたり、ライブに参加したり、買い物をしたりしている。今までになかった、ここでの新たな行動データから、リアルの場で感動を生み出す新たな体験がつくれる気がしています。

※メタバース インターネット上に構築される仮想の3次元空間。利用者はアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する(コトバンクより引用)


企業活動を顧客中心主義に変換していく

ー今後、顧客体験をさらに向上させていくために、どんな点に注目していますか。

山下 今、世の中では「CX」(顧客体験)が盛んに叫ばれていますが、本来のCXは商品に興味を持って選ぶところから、購入、使用、アフターサービス、廃棄までの全工程を網羅するもの。企業は、企業活動のすべてでCXを評価していくことが必要です。オンライン上での測定は容易になってきていますが、我々の部署では、リアルでもCXの測定ができる指標づくりを進めようとしているところです。

梅川 日本では人口減少が始まり、高齢化も進み、右肩上がりの図式は描きにくい状況です。マーケティング戦略も、購入者を増やすだけの単純な販売促進ではなく、いかに顧客に使い続けてもらい、ライフタイムバリューを高めるかへ舵を切らなければなりません。そのためには、企業活動を顧客中心主義にしていく必要があります。2020年は、それがより鮮明になりましたね。

山下 その通りですね。あらゆる商品の機能が均質化した現代では、消費対象はすでにモノからサービスに移っています。もはや多くの人を一律に満足させられる体験は難しいでしょう。キーポイントはパーソナライズ化。個人のインサイトを発見することや個人の心の満足度を測ることが、重要だと感じています。

CXデザイン領域 デジタルマーケティング領域

ー2021年、トッパンとしてどのように顧客体験の向上に寄与していきたいと考えていますか。

山下 先ほど触れたリアルとオンラインのハイブリッド型の体験開発や、AIでのリモート接客システムなどをはじめ、“make experienceパートナー”として、企業様と伴走して一緒にサービス開発などを支援していけるようになりたいと考えています。そのためには、クリエイティブも非常に重要な要素だと思っていますので、部署内にクリエイティブブティックを立ち上げ、活動を始めています。

梅川 僕は顧客体験こそが、サービスだと思っています。顧客データを解析し、ニーズを先読みすることで心地良い体験を提供する。いってみれば、顧客の要望をいち早く察するホテルマンのようなイメージです。マーケティングとテクノロジーを組み合わせることで、世の中の顧客体験をホテルサービスのように向上させていきたいと思います。ただし、できる限りコストを抑え、ちゃんと利益が出て、使い続けられる形でなければ意味がないと思っています。

山下 同感です。そのためにも、今後、我々が一層連携していくことが大切ですね。

梅川 ええ。サービス開発について、山下さんのところと一緒に組んで、プロジェクト化をしています。私たちデジタルマーケティングの部隊と、山下さんのエクスペリエンスデザインの部隊が組むことで、冒頭にお話した顧客中心で、サスティナブルな体験を提供していきます。お互いがんばりましょう。


「顧客中心」を実現するトッパンのビジネスモデル

トッパンでは、顧客ごとに最適なシナリオを提供する「パフォーマンスマーケティング」、顧客の都合に合わせたサポートを提供する「カスタマーエンゲージメント」、データを統合し、顧客ニーズを把握する「データテクノロジー&プラットフォーム」の連携を通して、横断でトータルコーディネートするコンサルサービスを提供しています。

「顧客中心」を実現するトッパンのビジネスモデル

「顧客中心」の実現に向けたトッパンの取り組み

講談社と凸版印刷、CCIの3社で、コンテンツ事業のDX推進に向けた企業を設立

出版社がコンテンツビジネスで培ったデータやノウハウを、独自のAIやテクノロジーに注入。DMPに蓄積された膨大なデータを解析し、コンテンツと生活者との出会いを個別最適化するさまざまなソリューションを提供します。

データとテクノロジーを使い、生活者と最適なコンテンツをマッチング
データとテクノロジーを使い、生活者と最適なコンテンツをマッチング

ロッテ様の顧客ID統合を支援 「LOTTE Membership」

株式会社ロッテ様(以下、ロッテ)では自社オンラインショップやファンコミュニティを個別に管理・運用してきましたが、顧客の利便性向上と、データ基点のマーケティング活用を図るため、顧客IDの統合を検討されていました。

トッパンでは、各種サービスを共通の顧客IDで利用できる「ID統合プラットフォーム」を提供。顧客登録、ログイン、退会などの基本的な顧客管理の機能に加え、外部連携するAPI群を実装することで、ロッテが提供する複数のサービスへのシングルサインオンを可能にしています。さらに、共通基盤化することでデジタル広告や店頭プロモーション、DMP・MAなどの外部サービスとのデータ連携もスムーズにしています。

ロッテ様の顧客ID統合を支援 「LOTTE Membership」

2023.10.11