【人が創るソリューション VOL.6】 大阪・関西万博プロデューサー・石川勝さんと語る 【前編】

2020.11.16

石川 勝 様(左)
2025年日本国際博覧会 会場運営プロデューサー
株式会社シンク・コミュニケーションズ 代表取締役
大阪市立大学 客員教授

松本 洋伸 (右)
凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部
エクスペリエンスデザイン本部 イベントプロデュース部

2020年、誰も経験したことのないパンデミックはイベント業界にも多大な影響を及ぼしています。しかしこうした状況下でも、オンラインやデジタル技術の活用によるイベントの形を模索することで、新たな価値提供のチャンスと捉えるべきかもしれません。これからのイベントのあり方、ニューノーマルをどう考えていくか。多彩な官民事業のプロデュースを手がけ、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場運営プロデューサーを務める石川勝さんをお迎えし、お話を伺いました。

これからのイベントのあり方とは?

リアル+バーチャルでイベントの「時間軸・空間軸」を拡張する

松本:この約半年を振り返ると、多くのイベントが自粛や中止を決断しました。その間、私たちも企業や自治体の方々と状況を注視しながら、どういう形で何ができるのか、模索を続けてきました。


石川:新型コロナウイルスによる影響が今後どうなっていくか、神様にしか分からないという感じですよね。ただ、この経験から得たものを、これからどう活かすかだと思います。

イベント運営の危機管理という点では、大阪・関西万博の計画を進める中でも話題に出ていますが、感染症は新型コロナウイルスだけではありませんし、新たなものも出てくるかもしれない。そのときにどうするか。専門家の意見に耳を傾けながら、危機管理に感染症対策を盛り込んでいくことも必要になるでしょう。

松本 洋伸

松本:イベントのあり方という点では、セミナーや展示会などのオンライン化について、お客さまとお話しする機会が増えました。

従来の「リアル」の良さと「オンライン」や「デジタル」だからこそできることを融合させて、新しいイベントの形をいかに創っていくかという方向にシフトしてきたと感じています。

石川:昨今「デジタルツイン」という言葉を聞くと思います。少し前から「サイバーフィジカル」という言葉も使われていますが、これらが今後のイベントのあり方を考える上でポイントになるでしょう。

まず、「デジタルツイン」をイベントに置き換えると、リアル(フィジカル空間)のイベント会場をバーチャルでオンライン上(サイバー空間)に再現し、リアルの人の動きにリンクしてサイバー空間のアバターも動く——そうしたことが可能になります。出展者はサイバー空間のデータから、来場者のプロフィールとともに会場での行動履歴を捉え、その人の興味・関心を把握し、リアルの会場で相手に合わせた情報を提供する。こうした展開ができます。今では技術的に可能となり、有効で面白いのですが、コンテンツの準備やコストの制約で、まだ手軽には実施できないかもしれません。

そう考えると、「サイバーフィジカル」なイベント——バーチャルとリアルで別々のコンテンツを用意して、それぞれの特徴を活かした「体験」を来場者に提供するという手法の方がより適していますね。

リアルと同時にサイバー空間でも展開するメリットは、イベントの時間軸と空間軸を拡張できることです。従来のイベントのあり方では、「その時・その場」に来た人しか参加できませんでした。オンラインを活用することで、当日その場に行けない人も参加できますし、アーカイブとして残せば、後から追体験もできます。それぞれの良さを足し算することで、より大きな価値を提供することができるようになりますよね。


松本:以前に企画制作をご一緒させていただいたデジタルコンテンツEXPOがその例ですね。


石川:来場者には事前にスマホに専用アプリを入れてもらい、リアルの会場でブースに立ち寄ると、来場者の情報がブース出展者に届けられる。出展者はその情報をマーケティングに活用する一方で、来場者はアプリを通じて、立ち寄ったブースのオリジナルコンテンツを楽しめるという仕組みでした。まさに「サイバーフィジカル」。ここに2010年のデジタルコンテンツEXPOで取材を受けた記事が残っているのですが……。


松本:『ウェブ2.0ならぬイベント2.0』と!? 10年前に!


石川:そう、10年前から同じようなことを言っていますね(笑)。このときはさらに、当時日本で広がり始めたUstreamを使ってリアルタイムレポートも発信しました。会場に来られない人も楽しめるし、来場者も家に帰ってからもまた観て楽しんでもらえるようにしたわけです。

 
※Ustream(ユーストリーム):ライブ動画配信サービスの先駆け。2007年に米国で誕生。日本でも2010年頃から利用が広がる。
 2017年にサービス終了。

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リアル×バーチャル イベント 体験をデザインする


「リアル×バーチャル」で、進化を遂げるイベント事業。ニューノーマル時代のイベントを成功に導く、大切なポイントこそ「体験をデザインする」という視点。トッパンのイベント制作手法や導入事例、オンラインイベントソリューションなど、新時代のイベントのヒントを紹介します。

価値観を伝え、共有するためにコンセプトやストーリーづくりが大切に

松本:デジタルテクノロジーはさらに進化していきますから、イベントの可能性ももっと広がりますね。一方で、「リアル」の重要性や価値についてはどのようにお考えですか。


石川:リアルならではの価値は、より浮き彫りになると思います。バーチャルでできることには限界があり、リアルにはバーチャルにないものが確実にある。それぞれの特徴を活かして、双方の価値を最大化させていくことを考える必要があります。


松本:これまで多くのリアルイベント制作に携わってきたからこそ、私たちも新しい手法・考え方を取り入れながら、リアルな体験価値を高めていきたいと思っています。これからのイベントづくりで、ほかにどんなことがポイントとなってくるとお考えでしょうか。

石川:より「専門店化」していくでしょう。昔のイベントはとにかく“マス”。大会場に大人数を集めることで、主催者や出展者にメリットを感じてもらい、来場者には時代の大きな流れに参加する喜びを楽しんでもらうというものでした。

一方で現代は、少数でもいいから、価値観の共有を大事にしたいという人が増えている。例えばですが、学校や会社というコミュニティーは価値観が異なる人が混在しているので、素顔を見せる場所じゃないという考え方。素顔の自分を見せるのは、価値観を共有するコミュニティーの中で、というわけです。そうするとイベントも、一つひとつは小さくても価値観を共有する人たちが集って“お茶会”をするような、濃密なコミュニティーになるでしょう。

松本:イベント主催側にとっては、価値観を丁寧に伝え、共感してもらえるように、コンセプトやストーリーづくりがさらに大切になりますね。さらにそこに、サイバーの仕掛けをどう組み合わせるか。


石川:イベントのお客さまとの継続的な交流を続けていく仕掛けが必要ですね。従来であればイベント当日が本番でありゴールでしたが、これからのイベントではひとつのマイルストーン。お客さまとの関係はイベントの前から始まり、ずっと続いていく。その場所としてオンラインは使い勝手が良いです。通常はオンライン上のコミュニティーの中で交流が行われていて、あるときリアルな交流の場としてイベントの開催が告知され、“お茶会”の楽しさを求める人々が参加してくれるという構図です。イベント前の交流とセットで実施しないと成立しません。

松本:イベントは通過点、その前後でのコミュニティー形成と維持も含めた考え方が大切ということですね。


石川:物が売れる仕組みにも同様のことがいえます。今や、テレビCMのようなメディアの大きさで売れる時代ではなくなりました。不特定多数に“投網”方式でアピールするより、興味関心の高い層にターゲットを絞り込んで“一本釣り”で訴求する方が効果は高いといえます。

イベントも同様で、大きな会場に集まる多数の来場者の中から数少ないお客さまを探すのではなく、人数は少なくても確実なターゲットを集めることが、これからのイベントで重要になっていくでしょう。また、同じ価値観を大切にするコミュニティーでは、コンテンツへの要求度が上がってきます。そのコミュニティーのイベントに対する知識を持った専門家と一緒に、コンセプトやストーリーづくり、運営体制を築いていくことが必要です。


松本:コアなターゲットを着実にねらうべく、丁寧なストーリーをつくるプロデュース力が求められますね。長年培ってきたノウハウを基に、トッパンが得意とするコンテンツ力やプロモーション力、総合的なネットワークなどを組み合わせ、新時代のイベント設計を推進していきたいと思います。

石川 勝 様(いしかわ まさる)

2025年日本国際博覧会 会場運営プロデューサー
株式会社シンク・コミュニケーションズ 代表取締役
大阪市立大学 客員教授
 

ロボット分野、コンテンツ技術分野の専門性を持ち、博覧会や展示会の事業プロデュースに数多くの実績を誇る。2005年愛知万博ではチーフプロデューサー補佐としてマスタープラン策定に従事し、ロボットプロジェクト、愛・地球広場、極小IC入場券をプロデュース。ほかにも東京大学の産学連携事業、経済産業省のデジタルコンテンツEXPO等、多彩な官民事業を手がける。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では会場運営プロデューサーを務める。

松本 洋伸(まつもと ひろのぶ)

凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 
エクスペリエンスデザイン本部 イベントプロデュース部
 
2006年凸版印刷株式会社に入社。国や自治体のプロモーションイベント等を多く手がける。2007年より10年間『デジタルコンテンツEXPO』の企画から運営・広報業務までを担当し最先端のコンテンツ技術を広く世間に発信。現在はTOKYO2020関連のパートナーアクティベーションや気運醸成事業、パラスポーツの体験プログラムや運営支援を担当している。

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