【人が創るソリューション VOL.4】 “IoA 存在の拡張”が実現する遠隔ビジネス IoA対談・暦本純一

2020.04.01

フューチャーギャラリー

撮影:宇野恵教(凸版印刷クリエイティブ本部ビジュアルクリエイティブ部)

いよいよ2020年に本格導入が開始した第五世代移動通信システム「5G」。高速大容量、低遅延性などといった飛躍的な通信環境の向上に伴い、近年では5G関連の事業開発が急がれているが、なかでもその動向が注視されているのが「遠隔ビジネス」だ。
遠隔ビジネスとはつまるところ何を意味するのか?そんな問いに対しIoAの生みの親、暦本純一教授にお話を伺った。

「IoA仮想テレポーテーション®」が可能にする遠隔体験

そもそもIoA=”能力のネットワーク”とは何か?

暦本純一

トッパンではIoA(Internet of Abilities)を提唱する東京大学大学院情報学環教授、暦本純一氏と共に共創・開発に取り組んでいる「IoA仮想テレポーテーション®技術を根幹に据えた遠隔ビジネスを推進している。

IoAとはInternet of Abilitiesの略。直訳すると”能力のネットワーク”となるが、人間がネットワークを介してテクノロジーと融合し、その意識や能力を拡張するという未来社会基盤発想のこと。
提唱者である暦本教授は言う。

暦本:Ability=人間の持つ能力をテクノロジーによって向上させたり拡大させる、という考え方からIoAはスタートしています。似たような聞こえ方がするAIとはまったく別で、AIはテクノロジーと人間を置き換える概念ですが、IoAの考え方の中心には必ず人間が存在します。
テクノロジーはあくまでも人間の能力を拡張する為の介在物。ヒューマンオーグメンテーションも同様の考え方になりますが、例えばAIでも能力拡張の為のアタッチメントとして活用することでテクノロジーと人間の能力の相乗効果を生み出せる。それがIoAの基本的概念となります。


IoAサービス図

IoAには体験の拡張、存在の拡張、知覚の拡張、認知の拡張など様々な拡張要素があるが、その中の「存在の拡張」を中心に実現へと動き出した成果がトッパンのソリューション「IoA仮想テレポーテーション®だ。

では遠隔ビジネスの重要なプロトタイプの一つとして大きな注目を集めているこの技術がどのようにして実現化されつつあるのか? 暦本教授に加え、一緒に遠隔ビジネスに携わるトッパンの情報コミュニケーション事業本部事業創発本部課長 名塚一郎とSIC先端表現技術開発本部係長 荻野孝士にも加わって頂き、紐解いて行きたい。

TOPICS話題の”IoA”を特集「SOCIAL INNOVATION NEWS Vol.4」


~時空を超えて能力を共有する~


IoAの概念から可能性までを提唱者、暦本純一教授へのインタビューから紐解く他、トッパンのIoA仮想テレポーテーション実証事例の取り組みなども紹介。

暦本純一教授とトッパンのIoA共創の出発点とは?

まずは、暦本教授とトッパンが共創してプロジェクトを進めることになった経緯と、凸版印刷という企業に何を期待していたか?を改めて伺ってみた。

暦本教授・凸版印刷 名塚・荻野

名塚:もともとトッパン側で5G時代を見据え、新しいソリューションができないか、と検討していたタイミングで暦本教授にお会いできる機会がありました。教授が提唱されているIoAの事は存じ上げていましたので、ぜひ暦本教授にトライアルをご相談できないかとご協力を仰ぎました。それがきっかけで、VRシアターなどトッパンの印刷以外の取り組みなども理解していただき、その時にそれぞれのリソースをどう活用してIoAという新しい世界を実現していくか、という共創の方向性がうっすらとですが見えていましたね。

暦本:この研究は約5年ほど前からスタートしているのですが、”ジャックイン”と呼んでいて、ドローンと人間を繋ぐ実験から始まり、続いて人の体験に遠隔で入り込むという研究まで進んでいました。しかしそれは単に技術的観点からの研究で、どういった場所でどう展開するか、どう活用できるか、という具体的な部分はこれからという状態でした。そんな時にタイミング良くトッパンさんにお声を掛けていただいて(笑)。
ビジネス展開が可能な企業さんをパートナーとすることで研究成果をどう社会に役立てることができるか、というビジョンをより具体的に描くことができると考えたのです。当初よりアイデアレベルですが、遠隔で観光体験やショッピングをしましょう、などといった具体的なご相談も頂いていて。そういった事例を現実化していくことも研究上での重要な蓄積にもなってゆくので、それを実現できる力を持ったトッパンさんに期待していましたね。

暦本教授は、利用環境や活用手段といった部分を具体的に提示できるトッパンとの共創に意味を見出したのだという。

※ジャックインとは人間がほかの人間やロボットに入り込み、感覚・体験へ”没入”すること。

なぜ今“存在の拡張”から遠隔ビジネスなのか?

“人間拡張”が実現する可能性

暦本教授との共創でスタートした「IoA仮想テレポーテーション®という遠隔体験ソリューションは今まさに具現化しつつある。では様々な可能性がある中でなぜ”存在の拡張”をトッパンとの共創の出発点としたのだろうか?

凸版印刷 名塚・荻野

名塚:これに関してはトッパン側からのご提案でした。まず「5G」という新しい通信技術を普及させたいというタイミングであったのと、そのなかでも遠隔体験といったものが普及するのでは、という仮説が我々にはあったのです。そこで暦本教授にご相談したところ、IoAの中でも「存在の拡張」という領域の部分でまず遠隔技術をやってみましょう、とスタートしたわけです。

荻野:需要があるのでは、という仮説の部分とロボットを使った遠隔体験というのは、外から見た時に絵面としてとても理解しやすい形での未来感を感じてもらえるのではという考えもありました。
実は進みすぎている概念や先端技術は理解されにくい側面があります。例えばスマホを操作している所作を50年前の人々に見せたところで間違いなく何を行なっているのか理解されないでしょう。例え企業プレゼンのような形で理論的に説明したとしてもです。なぜなら理解に必要な世の中の仕組みやシステム自体が当時は存在していないわけですから。そういった意味でも「IoA仮想テレポーテーション®はIoAそのものも理解してもらえるような枠組みとして最適だと考えたわけです。今の流れを踏まえるとビジネスとして一番具現化がしやすかったということですね。

暦本純一教授

暦本:確かにそうです。”人間の能力の拡張”という点でも非常に分かりやすいし、誰でも想像ができる。こっちに居る人がロボットに乗り移って自分が向こうにいく、向こう側の人からするとロボットの中に誰かが入ってこっちにくるという双方の体験がある、と容易に想像がつきます。それにそれぞれのインターフェースを使った様々な体験やコミュニケーションもちょっと考えただけで自由な発想が可能です。とても可能性を感じてもらえるし、今後更に面白いと思えるものになっていくはずです。

更なる“能力の拡張”を実現化していきたい

トッパンとの共創でさらに生み出されるモノがあるとすれば、それは一体どんなモノになるのか。その可能性について暦本教授にさらにお話を伺った。

暦本教授・凸版印刷 名塚・荻野

暦本:空間の限界を超える「IoA仮想テレポーテーション®は、その人がそこに居るということの代替手段というのが出発点ではあるが、ゆくゆくはそこを超えていきたいですね。例えば遠隔ならではの教育の仕方や、VR機能を使った新しい技能拡張といった可能性を模索していくと、その先には場所を超える、という事以上の新しいコミュニケーションの形が見えてきます。

例えば、現場で作業者が作業する際に、その作業のエキスパートがその作業者に“ジャックイン”して作業をレクチャーする。これは近い遠い、というだけの問題ではなくて、その人間の感覚を全て取り込むという事なのです。
どういうことかというと、現実ではそのエキスパートが横にいたとしても作業動作そのものをトレースすることはできないですよね。しかし”ジャックイン”すればアタッチメントなどを介して動作そのものをトレースさせることが可能になります。この発想を突き詰めていくと、こういった技能伝承や教育の他、身体的なリハビリテーションや高齢者、体の不自由な方々のサポートなどにも活用できる技術が実現可能になるわけです。

名塚:高齢者や体の不自由な方々の能力をどう拡張していくか、可能性を広げていくか、そういった部分をテクノロジーがサポートできる社会を実現できるよう、ビジネスという視点からトッパンがお手伝いできればと思っています。今はパラリンピックなども非常に注目されていますし、今後はそういう面でも気づかされる機会や活用できることなどがより多くなってくるではないかと考えていますね。

“社会がどう受け止め、我々がどう伝え発展させていくか”

ありとあらゆる可能性が考えられるIoAだが、それだけにこの概念をインフラレベルにまで発展、普及させるのは非常に困難であることは想像に難くない。この概念、世界観を現実のものにするために必要不可欠なものとは一体なんなのだろうか。

暦本教授・凸版印刷 名塚・荻野

暦本:技術革新はもちろんですし、我々の発想力も大切なのですが、今後最も大きな指針となってくるのは、社会がどう受け止めるか、そしてそれに対してこちら側がどう伝え発展させていくか、です。
「IoA仮想テレポーテーション®にしても、遠距離での通信手段そのものは今までにもあったので、それとどう違うかを伝えることは課題の一つです。
そして社会の受け止め方にしても、今の所はこれが日常的に使えるか否か、という単純な視点で判断している状況でしょう。ですが徐々にこの技術が日常で活かされていくのに従って、フェーズが上がっていくかのように意識も変化していくはずです。
毎日満員電車に乗って通勤しなくてもいい、接触しなくてもこれで仕事ができる、と理解して納得してもらえれば、じゃあ大好きな沖縄に住もう、となってもいいはずです。
仕事の仕方、人生の楽しみ方、そして生き方そのものをIoAがどんどん変化させていくのはないか。そう考えると社会がどう受け止め、それに対して我々がどう使い方を考えて発展させていくかは考え方の一つの指標になると思います。

暦本教授・凸版印刷 名塚・荻野

名塚:暦本教授との活動を通して、観光であったり教育、工場見学など様々な分野や事例を通して少しずつですが遠隔という体験はこういうものなんだ、と浸透してきているのを実感しています。まだまだ始まったばかりですが。

荻野:これをサービスとして積み重ねていくと、若い世代になるにつれてそれが当たり前の日常になっていくと思います。例えば今の小中学生は物心ついた時からタブレットが当然のようにそこにあって、理屈じゃなく使いこなしている。社会全体の意識が変化していく過程で我々もそれに合わせたアプローチをしていければ良いと思います。

意識の変化、それは実体(現実)に対する価値観の変革

社会の捉え方、意識の変化とは一体どのような変化であるのか。IoAが具現化した暁に描かれる未来像を暦本教授はどう捉えているのだろうか。

暦本教授・凸版印刷 名塚・荻野

暦本:先ほどの意識の変化の話と繋がるのですが、バーチャル、遠隔でオンライン、というIoA世界が実現した場合、現実の持つ価値がガラリと変化しているのではないかと思います。
この場所に行きたい、この人と会いたい、というその現実の瞬間の大切さと、どこでどういう働き方をして自分の生活を形成していくか、この2つのバランスが今とはまったく変わってくると私は考えています。
つまり、私はこの場所の空気を吸っているんだ、という実体感そのものをより重要視するようになってくるのではないかと。

荻野:現実の捉え方、価値基準がまったく変わってくるというわけですね。

暦本:現実により大きな価値を求めるようになる。なぜなら仕事そのものはIoAのバーチャルインフラを使えばどこに居ても関係なくこなせるようになるとすると、じゃあ今自分はどこに居たいのか、だれと会いたいのか、というのを優先するようになりますよね。現実にあるこの場所この時間、実体のあるものに対してより価値を求めるようになる。
そんな風に、IoAは人々の暮らしの幸せを底上げしてくれるものだと信じています。

暦本教授・凸版印刷 名塚・荻野

確かに現在の社会で仕事を持っている大多数の人々は、“仕事の存在”そのものが自分の居る場所、行く場所を決定づける大きなファクターとなっている。例えば3日間休みがあったとしたら、4日目の朝にオフィスに出勤することを想定して予定を組む。少々残念なことではあるがそれが現実だ。
 
私たちの生活には時間と場所という2つが必ず存在する。特に働き盛りのビジネスマンの場合、この2つに縛られて生きているといっても過言ではない。
しかしそのうちの一つ、場所に縛られない生き方ができるとすれば、それはなんと幸せなことではないだろうか。
そしてそれは政府が今推進している働き方改革の一つの究極の形とも言えるし、そもそもIoAが実現した未来で育った若い世代にとっては働き方改革なんて言葉自体も意味のないものになっているのではないだろうか。

そんな未来に向けての大きな一歩となる「IoA仮想テレポーテーション®。次回はその遠隔体験技術の仕組みを解説しつつ、現時点で、また、次のフェーズで、誰がどのようなシーンで活用することができるのかという疑問に対しビジネスモデルとしての視点から解析していきたい。



【ソリューションが創る可能性 VOL.3】コラム

暦本 純一(れきもと じゅんいち)

東京大学大学院情報学環
教授
理学博士

1961年東京都生まれ。1986年に東京工業大学大学院理工学研究科 情報科学科 修士課程を修了し、日本電気(NEC)に入社。現在は東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピューターサイエンス研究所副所長を務める。
インタラクション/ヒューマンオーグメンテーション研究の第一人者にしてIoAの提唱者。

 


 

 

名塚 一郎(なづか いちろう)

凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部 事業創発本部
課長

凸版印刷山本

1999年凸版印刷株式会社入社。金融系WEBサイト、通販システム、ビッグデータ分析基盤など幅広いシステム開発のプロジェクトマネージャを経て、ICT戦略部門でAI・IoT・ブロックチェーンなどを活用したビジネス開発リーダーを担当。現在は、IoA/人間拡張やデジタルツイン、ゲノム編集などの最先端テクノロジーと地域活性化や観光などの社会課題解決を組み合わせた次世代事業の創出に取り組む。


 

 

荻野 孝士(おぎの たかし)

凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 
先端表現技術開発本部 ビジネス開発部
係長

凸版印刷山本

2001年凸版印刷株式会社入社。ICT部門で得意先の業務システムの受託開発や凸版社内の製造ならびにセキュリティ系ネットワークインフラの構築および運用を担当。その後、IoAを用いた研究開発に従事。「IoA仮想テレポーテーション®」の研究開発、社会実装、事業化を担当。5Gに向けた遠隔体験を支援するウェラブルデバイス「IoANeckTM」や遠隔地と学校をつなぐIoA遠隔校外学習サービス「IoA学園TM」を2019年度リリースに携わる。


 

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