3Dプリントで和牛の“サシ”まで再現可能に

  • 国立大学法人 大阪大学
  • 凸版印刷株式会社
  • 国立大学法人 弘前大学
  • キリンホールディングス株式会社
  • 学校法人常翔学園 大阪工業大学
  • 科学技術振興機構(JST)

 国立大学法人 大阪大学大学院工学研究科(大阪府吹田市)、凸版印刷株式会社(本社:東京都文京区、以下 凸版印刷)、国立大学法人 弘前大学(青森県弘前市)、キリンホールディングス株式会社(本社:東京都中野区)と学校法人常翔学園 大阪工業大学(大阪府大阪市)は、培養肉の複雑な組織構造を自在に再現可能な3Dプリントによる「独自組織造形技術」を活用し、筋・脂肪・血管の線維組織で構成された和牛培養肉の作製に成功しました。このたび、本研究に関する論文が2021年8月24日18時(日本時間)公開の英国・Springer Nature社の科学誌『Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)』(オンライン)に掲載されました。

 『ネイチャー・コミュニケーションズ』 は、生物学、物理学、化学および地球科学のあらゆる領域の論文を扱うオープンアクセスジャーナルで、自然科学の各分野の専門家が注目している科学誌です。

論文

タイトル:“Engineered Whole Cut Meat-like Tissue by the Assembly of Cell Fibers using Tendon-Gel Integrated Bioprinting”
著者名: Dong-hee Kang, Fiona Louis, Hao Liu, Hiroshi Shimoda, Yasutaka Nishiyama, Hajime Nozawa, Makoto Kakitani, Daisuke Takagi, Daijiro Kasa, Eiji Nagamori, Shinji Irie, Shiro Kitano and Michiya Matsusaki
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-021-25236-9

なお、本研究は、JST未来社会創造事業の「持続可能な社会の実現」領域 探索研究「組織工学技術を応用した世界一安全な食肉の自動生産技術の研究開発」の一環として行われました。 

研究の背景

 世界の人口は2050年には97億人に達すると予想されており、人口増加や食生活の向上が、タンパク質の需要と供給のバランスが崩れるタンパク質危機(プロテインクライシス)を引き起こすとの予測があります。そこで、代替タンパク質として植物由来タンパク質と共に、培養肉への期待が高くなっています。培養肉とは、動物から取り出した少量の細胞を培養により人工的に増やしてつくられる肉であり、2013年頃から研究が本格化してきました。今では、大学の基礎研究だけでなく、世界中で様々なベンチャー企業がビジネス参入しています。しかし、これまで報告されている培養肉のほとんどは筋線維のみで構成されるミンチ構造であり、肉の複雑な組織構造、例えば和牛の“サシ”などを再現することは困難でした。 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、望みの構造を有する培養肉をテーラーメイドで生産できるようになるため、これまでの食肉により近い培養肉の提供を通じ、将来のタンパク質危機に対する施策になると考えられます。
 また、これまでの食肉生産では、大量の穀物や水、広大な放牧地確保のために行われる森林伐採、さらに家畜の糞尿や“ゲップ”などのメタンガスに起因するオゾン層破壊などを懸念する声があり、これらの軽減などにも貢献できます。さらに、牛の成長と比較すると極めて短時間で培養肉が得られるため、より効率的な生産が可能となります。今後、3Dプリント以外の培養プロセスも含めた自動装置を開発できれば、場所を問わず、より持続可能な培養肉の作製が可能となり、SDGsへの大きな貢献が期待されます。 

研究の概要

 和牛肉の組織構造を設計図に、3Dプリントで筋・脂肪・血管の線維組織を作製して束ねることで、複雑な和牛肉の構造を再現し、作製できる技術を開発しました。
 これまで報告されている培養肉のほとんどは筋線維のみで構成されるミンチ構造であり、肉の複雑な組織構造を再現することは困難でした。本研究では、筋・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリントで作製し、それを金太郎飴のように統合する3Dプリントによる「独自組織造形技術」を開発しました。これにより、肉の複雑な組織構造を個別の特徴に合わせた形で構築できるようになりました。
 今後技術の改善により、和牛の美しい“サシ”などさらに複雑な肉の構造の再現や、脂肪や筋成分量の制御による微妙な味・食感の調節も可能になります。また、3Dプリント以外の筋・脂肪・血管細胞の培養プロセスも含めた自動装置を開発できれば、場所を問わずどこでも培養肉の作製が可能となり、SDGsへの大きな貢献が期待されます。
 本研究成果は8月24日(火)18時(日本時間)、英国・Springer Nature社の科学誌『Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)』(オンライン)に掲載されました。

3Dプリントによる「独自組織造形技術」による和牛培養肉と作製プロセスのイメージ図
3Dプリントによる「独自組織造形技術」による和牛培養肉と作製プロセスのイメージ図

研究のグループ

研究者 研究者代表
松崎 典弥 大阪大学大学院工学研究科 教授

共同研究者
Dong-hee Kang(ドンヒー カン) 大阪大学大学院工学研究科 特任研究員(常勤)

Fiona Louis(フィオナ ルイス) 凸版印刷株式会社(先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)(※1)特任助教(常勤)

Hao Liu(ハオ リュウ) 大阪大学大学院工学研究科 博士前期課程

下田 浩 弘前大学大学院医学研究科 教授

西山 泰孝 日本ハム株式会社 中央研究所 リーダー

野澤 元 キリンホールディングス株式会社 キリン中央研究所 主任研究員

柿谷 誠 キリンホールディングス株式会社 キリン中央研究所 研究員

高木 大輔 株式会社リコー リコーフューチャーズBUバイオメディカル事業部 研究員

笠 大治郎 リコージャパン株式会社 PP事業部 グループリーダー

長森 英二 大阪工業大学工学部生命工学科 准教授

北野 史朗 凸版印刷株式会社(先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)(※1) 招へい准教授(常勤)

入江 新司 凸版印刷株式会社(先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)(※1) 招へい准教授(常勤)

サイトURL http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~matsusaki-lab/ 

松崎教授のコメント

 本研究技術は、日本が世界に誇る和牛の複雑かつ美しい“サシ”構造を再現することを目的に開発しました。3Dプリント技術を用いて筋や脂肪、血管の線維組織を安定に作製するためには、分化誘導の際に起こる収縮を抑えることが重要でした。そこで我々は、体内では“腱”が筋肉を支えていることに着目し、腱の主成分であるI型コラーゲンで“人工腱組織”を作製し、そこに各線維組織を結合させることで、線維組織が安定に作製できるようになりました。和牛培養ステーキ肉が日本の新たな産業になると期待しています。

※1 先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座
大阪大学大学院工学研究科と凸版印刷は、大阪大学大学院工学研究科に「先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座」を2017年に設置し、3D細胞培養技術に関する基礎研究を同研究科の松崎典弥教授と共同で行っています。

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以 上

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