2014/10/23

凸版印刷、組織標本から直接検査できる遺伝子解析システムを開発
~抗がん剤の効果予測向け、パラフィン包埋サンプルから全自動で
2時間以内にがん遺伝子変異を検出可能~

 凸版印刷株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:金子眞吾、以下 凸版印刷)は、組織標本として一般的なホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルから、全自動でがん遺伝子の変異型の検出を行う小型全自動遺伝子解析システムを開発しました。
 抗がん剤の効果予測などのために、FFPEサンプルからがんの遺伝子変異(※)の検出が行われていますが、これまでFFPEサンプルからDNAを分離し取り出す操作は、非常に煩雑であるとともに、劇物薬品の取り扱いも必要でした。このため熟練した技術が要求され、検査センターや一部の病院検査室で行われています。今回、凸版印刷はこのFFPEサンプルから直接、DNAを分離して取り出し、かつ遺伝子検査までの全工程を自動化することに成功しました。これにより、誰でも簡便に検査が行えるようになります。また、検査時間は、従来の方法と比較して約4分の1となる、約2時間と大幅に短縮されます。
 さらに凸版印刷は、がん患者検体を国内で多く保有される公益財団法人がん研究会有明病院(所在地:東京都江東区、病院長:門田守人、以下 がん研有明)と共同で、臨床検体を用いた本解析システムの実証試験を2014年10月下旬より実施します。

 本実証試験では、がん研有明が遺伝子解析を含む医学研究のために院内で使用することについて患者様より同意を得ている検体が使用されます。本実証試験における検査は、すべてがん研有明において行われますので、凸版印刷ががん研有明より検体を持ち出すことはありません。また、患者様を特定する情報を凸版印刷が入手することも一切ありません。

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右)解析チップ、前処理カセット、及びピペットチップ、左)システム外観

■ 背景
 患者が生まれつきもつ遺伝的背景を考慮し、科学的根拠に基づいて各個人に効果的な治療・投薬方法を提供する「オーダーメイド医療」によって、患者個人の「QOL(生活の質)」が向上するとともに薬剤副作用から派生する医療費の軽減が見込まれ、医療費抑制の期待が高まっています。
 オーダーメイド医療を実現するには、病院においてその場で薬剤の効果、副作用に関する遺伝子型の違い(一塩基多型:SNP(※))を判定する必要があります。このニーズに応えるため、凸版印刷は独立行政法人理化学研究所(所在地:埼玉県和光市、理事長:野依良治 以下 理研)統合生命医科学研究センターおよび、株式会社理研ジェネシス(本社:神奈川県横浜市鶴見区、代表取締役社長:塚原祐輔、以下 理研ジェネシス)と共同で小型遺伝子型解析システムを開発し、血液を入れてから全自動、1時間程度でSNPを判定することを実現しました。


 一方、先天的な遺伝子多型(※)による個人差だけではなく、がんにおいては後天的な遺伝子変異により、薬の効き方に個人差が現れることが判ってきました。同じ臓器のがんであっても、がん組織内の遺伝子変異の違いによって効果が異なることが明らかになり、現在、さまざまな臓器のがんについて、遺伝子変異と薬剤の効き目の関連を解明する研究が進行しています。
 そのため、各個人の薬の効き方を予測する手段として遺伝子解析が注目を集めています。具体的には患者のがん組織を採取し、がんの遺伝子変異を遺伝子検査で検出した上で、有効性の高い治療薬を選択することが必要となっています。しかし、がん組織の遺伝子検査は、DNA抽出や遺伝子解析の手順が複雑なため専門機関で行われ、臨床現場への普及の障壁となっていました。

 

 この課題を解決するため、凸版印刷は、理研、理研ジェネシスと共同開発してきた全自動小型遺伝子型解析システムを応用し、がん組織の一般的な保存方法であるFFPEサンプルから、がん組織細胞の遺伝子変異を全自動で検出するシステムを開発しました。
 FFPEサンプルからのDNA抽出するプロセスや試薬など前処理工程を改良し、約2時間での全自動での解析を可能としました。
 さらに今回、本解析システムの臨床現場での実証試験をがん研有明と共同で実施します。試験では、本解析システムを使用して、がん研有明が保有するがん患者のFFPEサンプルから、がん組織細胞内の遺伝子変異を検出。従来の一般的な検査方法と結果を比較して本解析システムの性能を検証するというものです。

 

■ 本解析システムの特長
 本解析システムは、FFPEサンプルからダイレクトにDNA抽出するために専用のDNA精製カートリッジを搭載し遺伝子型の判定までを全自動で行います。

 

1)簡便な準備作業と早い検査時間
検査に必要な準備作業はFFPEサンプル、専用試薬キット(消耗品)を解析装置にセットするだけです。検査開始後、ピペッティングや温度管理など必要な作業は、全て装置が全自動で実施。
検査時間は、従来の一般的な場合と比較して約4分の1となる、約2時間です。

 

2)安定した検査結果
遺伝子型の判定は独自のアルゴリズムを用いて全自動で行います。そのため、特別な知識や作業は必要なく、同じ検査を実施できます。

 

3)システムの設置環境、作業環境
本解析システムは、小型(縦:510mm、横:690mm、高さ:510mm)で一般的な実験室・検査室環境でも使用可能なため、病院内への設置も容易です。

 

4)血液と精製DNAからの検査処理も可能
血液用および、精製DNA用の消耗品を使用することにより、同じ装置で血液および精製DNAからの遺伝子解析が可能となります。

 

■ 今後の目標
 凸版印刷は、今後も臨床現場でのニーズが高まっている解析困難な遺伝子検査、たとえば、血清中に存在する極微量のがん遺伝子の変異を検出できる全自動解析システムの研究開発にも着手していきます。

(※)ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプル:患者組織検体は、通常、細胞組織が腐らない様にホルマリンで処理し、さらにパラフィン樹脂で被覆します。それにより、組織検体を室温でも長期間保管できるようになります。大半の組織検体は、この処理がなされています。

 

(※)一塩基多型(SNP):遺伝子多型、SNP (Single Nucleotide Polymorphism)とも呼ばれ、1個の細胞 に含まれる全DNAの配列中の特定箇所に生物種集団内で1%以上の頻度で見られる多様性をいいます。1%よりも頻度が低い場合には、「変異」と呼ばれます。

 

(※)遺伝子変異: 同一の遺伝子型をもつ個体間あるいは一個体内の細胞間で、遺伝子の塩基配列に物理的変化が生じることを遺伝子変異といいます。とくに一個体内で細胞分裂時のDNA複製ミスや発がん性物質などで後天的に起きる遺伝子変異は、細胞をがん化させることがあります。

 

(※)株式会社理研ジェネシス: 理研ジェネシスは、独立行政法人理化学研究所 統合生命医科学研究センターが培った遺伝子解析技術を基盤として、株式会社理研ベンチャーキャピタル(有馬朗人社長)と凸版印刷の共同出資によって2007年10月15日に設立。2014年6月にはシスメックス株式会社(本社:神戸市、代表取締役会長兼社長:家次 恒)からの出資を受け遺伝子解析・検査事業で提携しました。
理研および、シスメックスとの技術連携を図りながら、遺伝子受託解析事業、診断薬事業などを推進し、オーダーメイド医療を実現化することによって個々人のQOL向上を目指しています。
http://www.rikengenesis.jp/

以上

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