2013/06/12

大腸がんの最適抗がん剤選択に向け、KRAS遺伝子変異解析システムを開発
凸版印刷株式会社
株式会社理研ジェネシス

 凸版印刷株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:金子 眞吾、以下 凸版印刷)と株式会社理研ジェネシス(本社:神奈川県横浜市鶴見区、代表取締役社長:塚原祐輔、以下 理研ジェネシス)は、新たにKRAS遺伝子の体細胞変異(*1)を迅速、簡便に検出できる遺伝子解析システムを開発しました。

 理研ジェネシスは、このKRAS遺伝子変異解析システムを研究用途向けに2013年度中に販売を開始していきます。また欧州における体外診断薬販売に向けて98/79/EC指令をクリアーし(CEマーク(*2)を貼付)、欧州でも販売する予定です。

■背景とねらい
 大腸がんに使用する抗がん剤の中でもセツキシマブ、パニツムマブは分子標的薬と呼ばれ、がん細胞の表面に有るEGF(上皮細胞増殖因子)の受容体に結合することで、がんの増殖を抑える働きをします。ところが、KRASと呼ばれる遺伝子に変異があるとこれらの抗がん剤の効果がとても薄くなることが判明し、学会の定める大腸がんの治療ガイドラインでもKRAS遺伝子変異の認められる患者には、これらの抗がん剤の投与は推奨されない、となっています。
 そのため、これらの抗がん剤の投与に先立ってKRAS遺伝子の変異を確認することは、とても重要な検査になります。一方で、この遺伝子検査は手間もかかり、検査センターを介した解析結果が出るまでには2週間程度の時間を要しました。患者の心理を考慮すれば、院内にて迅速に治療方針を決定できることには意義があり、延いては医療の「質」の向上にも寄与するものと期待しています。
 凸版印刷および理研ジェネシスでは、かねてより独立行政法人理化学研究所(所在地:埼玉県和光市、理事長:野依良治 以下 理研)ゲノム医科学研究センター(2013年4月1日より統合生命医科学研究センターに組織改組、小安 重夫センター長代行)とともに全自動で遺伝子解析の可能なシステムを開発してきました。このシステムは血液100マイクロリットル(一万分の1リットル)から、全自動で、なおかつ約90分という短時間で遺伝子多型(*3)を検査できるシステムです。2011年10月には、経口抗血液凝固剤であるワルファリンの適正投与量予測を支援する目的で、血液から遺伝子多型を検査するシステムを日本国内で薬事申請しています。
 今回、開発したKRAS遺伝子の変異を検出する遺伝子解析システムは、使用する試料は血液ではなく、精製されたゲノムDNAです。このゲノムDNAを付属の前処理カセットに入れ、解析チップおよびピペットチップとともに装置にセットし、検査をスタートすると、60分以内でKRAS遺伝子内のコドン12、および13の位置にある7種類の遺伝子変異を検出することができます。
07.画像1
<写真キャプション:右)解析チップ、前処理カセット、及びピペットチップ、左)システム外観>

KRAS遺伝子変異検出システムの特長

・コドン12,13に出現する7種類の変異を検出
KRAS遺伝子変異はコドン12と13に集中しており、特にコドン12番目のアミノ酸がグリシンからアラニン、シスチン、アスパラギン酸、アルギニン、セリン、バリンに、またコドン13番目のアミノ酸がグリシンからアスパラギン酸に変化する、7種類の変異は最も発生頻度の高い変異で、KRAS変異全体の95%以上を占めています。
・10%以上の検出感度
現在、最も代表的なKRAS遺伝子変異検査法であるダイレクトシーケンスでは、検査対象の細胞の約30%以上が変異を持っていないと検出できません。癌組織の中にはがん細胞だけではなく、正常細胞も多く含まれているため、特に初期の癌では組織の中でのがん細胞が30%未満のものもあります。今回開発したシステムでは、10%のがん細胞が含まれていれば、KRAS遺伝子変異を検出することが可能です。
・早い検査時間
本システムは、サンプルをセットしてから60分以内で検査可能です。
・簡便かつ安定な検査システム
検査に必要な操作は精製したDNAを一定量前処理カセットに注入し、その他の消耗品とともに解析装置にセットし、解析をスタートするだけです。誰が行っても高い品質の検査結果をお返しすることが可能です。又、検査結果は、独自のアルゴリズムを用いて、変異の有無を検査できます。
さらに変異があった場合は7つの変異のうちのどれか、を明確に表示しますので、グラフや表から経験によって読み取る必要がありません。 

 

 ■今後の展開
 凸版印刷および理研ジェネシスは、このKRAS遺伝子変異解析システムを研究用途向けに2013年度中に販売開始する予定です。また、理研ジェネシスは、近日中に欧州における体外診断薬販売の要求事項である98/79/EC指令をクリアーし、CEマークを貼付して欧州で販売を可能にする予定です。
 今後は遺伝子解析システムの更なる高機能化を図り、患者にとって低侵襲な検査を目指して参ります。

(*1) 体細胞変異:生殖細胞以外の体細胞に起こる突然変異のことをいい、がん化の原因ともなります。

(*2)CEマーク:すべてのEU加盟国の基準を満たす商品に付けられるマークで、EEA(欧州経済領域)やトルコ、スイスで販売する際には取得が必要となります。
(*3) 遺伝子多型:一塩基多型、あるいはSNP (Single Nucleotide Polymorphism)とも呼ばれ、1個の細胞 に含まれる全DNAの配列中の特定箇所に生物種集団内で1%以上の頻度で見られる多様性をいいます。1%よりも頻度が低い場合には、「変異」と呼ばれます。

 

以上

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