vol. 3「スペシャル鼎談 師匠と弟子」 vol. 3「スペシャル鼎談 師匠と弟子」
vol. 3
「スペシャル鼎談 師匠と弟子」

技能五輪国際大会の開催まであとわずかとなりました。大会に向けた意気込みや、トレーニングについて、今大会の日本代表である湯地 龍也(ゆじ りゅうや)選手と、エキスパート(技能教育担当者)の佐藤 晴雄(さとう はるお)さん、鈴木 恵冶(すずき けいじ)さんにお話を伺いました。
上:佐藤さん・中央:湯地選手・下:鈴木さん左:鈴木さん・中央:湯地選手・右:佐藤さん
:鈴木 恵冶さん
1976年、凸版印刷㈱入社。入社以来オフセット枚葉印刷をメインで担当する。2014年に技能士認定を受けた後、川口工場勤務となる。現在はオフセット印刷の技能保全教育、技能五輪教育の指導者。
中央:湯地 龍也さん
:佐藤 晴雄さん
1976年、凸版印刷㈱入社。板橋工場でオフセット輪転印刷に携わり、1989年に川口工場勤務となる。2013年に技能士認定を受ける。2015年のブラジル・サンパウロ大会にも同行し、今回で2度目のエキスパートとなる。

師匠と弟子で、メダルへの道を目指す
師匠と弟子で、
メダルへの道を目指す

お二人はどのように湯地選手への指導を行っているのですか?

佐藤
佐藤
技能面での指導に加え、メンタル面のサポートもしています。技能面に関しては、私が主に調色などを担当し、印刷全般に関することは鈴木さんにお願いしています。ただ、明確に分けているわけではなく、臨機応変に、といった感じですね。
湯地
湯地
印刷に関しては答えが一つとは限らないので、エキスパートのお二人からアドバイスを受けられることはとてもありがたいです。いただいた意見を自分なりに噛み砕いて、より良い答えを見つけ出すようにしています。
佐藤さんインタビュー風景 佐藤さんインタビュー風景

指導者のお二人から見て、湯地選手はどんな選手ですか?

佐藤
佐藤
良いところは、何でも覚えようとする積極的な姿勢ですね。吸収したことを自分なりに考えて、様々な方法で試して、より良いものを追求していく向上心があります。また、自分の意思をしっかりと持っていて、根性もありますね。
鈴木
鈴木
一方で、今後の課題でもあるのですが、「自分をコントロールする力」を養っていってほしいと思います。競技中はトラブルが起こっても、一つひとつ慌てずに対処しなければなりません。大会当日は私たちが選手の傍にいられる時間も限られているため、自分との戦いになります。自分で考えて落ち着いて行動できるようになっていってほしいです。
湯地
湯地
私もそこが課題だと感じています。トレーニング中に想定外のことが起こると、焦ってしまう時があります。高いパフォーマンスを発揮するためには、いかに冷静さを保つかが重要になってくると思うので、トレーニングで慣らしていきたいです。
鈴木
鈴木
繰り返しトレーニングをすることで、良くなってきてはいます。最近は、ギャラリーの多い公開トレーニングもありますが、緊張することが少なくなり、だんだんと頼もしい姿になってきているように感じます。
トレーニング風景 トレーニング風景

トッパンの優れた技術力の秘密は、
「組織力&コミュニケーション力の高さ」

鈴木さんインタビュー風景 鈴木さんインタビュー風景

トッパンは、2007年から技能五輪へ多くの選手を送り出していて、今回で5人目となります。トッパンの印刷技術は、どのような点に強みがあると感じますか?

湯地
湯地
「組織力の高さ」が一番の強みであると考えています。実は入社するまでは、印刷物は印刷機を扱う人が一人でつくっているものだと思っていました。しかし、実際に現場に入ってみると、一つの印刷物にも多くの関係者がいることを知りました。それぞれが仕事をつないでいき、ようやく一つの作品となります。連携することで、品質の高いものをつくっているのだなと感じます。
鈴木
鈴木
湯地が言った「組織力の高さ」に通ずる部分がありますが、私は「コミュニケーション能力の高さ」も強みであると考えています。印刷の現場では、お客さまの要望に応えて刷り物を制作しています。中には抽象的な要望も多く、それらをコミュニケーションの中で引き出してくみ取っていくことが、より良いものをつくる上で重要です。そういった部分が優れているからこそ、トッパンは高く評価されているのだと思います。

大会当日のパフォーマンスを左右するカギは、
「メンタル面の強化」

他国の選手を見て、感じることはありますか?

佐藤
佐藤
成績上位の国の選手は、動きがてきぱきしていて無駄がなく、作業もとても正確ですね。常に冷静で、メンタルトレーニングもしっかりとなされている印象です。どの選手もトレーニングの中で素晴らしい技術を身に付けていますから、最終的に大きなウェートを占めるのは、普段とは違う環境に左右されない、メンタル面の差なのではないかと思います。技術を磨き上げる訓練も大事ですが、本番の競技中に焦ってしまうと、今まで学んできたことを十分に発揮することができません。

メンタル面で日本の選手はどうですか?

佐藤
佐藤
これまで見てきた選手たちは、皆さん落ち着いて競技に臨んでいたと思います。競技後に話を聞くと、実は緊張していたと本音が出ることもありましたが(笑)。

湯地選手もメンタル面での強化の必要性を感じていますか?

湯地
湯地
大会当日を迎えてみないと想像できない部分はありますが、必要性を感じる瞬間はあります。7月に参加したドイツでの印刷訓練は、他国の選手も集まっていたので、本番の会場の空気や緊張感をイメージすることができ、とても良い経験でした。

普段使う印刷機とは異なる、ドイツ製印刷機の難しさ
普段使う印刷機とは異なる、
ドイツ製印刷機の難しさ

普段とは異なる環境での大会です。現在はどういった点を意識して、トレーニングを行っていますか?

佐藤
佐藤
印刷機などの設備に慣れることを意識させています。実は、現在トレーニングを行っている訓練用印刷機は、本番で使用する機械のおよそ倍のサイズのものを使用しています。大会ごとに変わる競技課題に対応できるよう、この印刷機を導入しています。本番は訓練機の半分のサイズの印刷機を使用するので、身体の入るスペースが小さく、操作しづらいと感じる場面もあるかと思います。加えて、機種によってはボタンの位置が異なったり、操作盤がタッチパネル型であったりするので、事前にある程度対策をしておかなければなりません。
湯地
湯地
操作に関しては、苦労することが多かったです。普段の業務で使用する印刷機は、それが何のボタンなのか文字で表示してあるので、操作に困ることはありませんでした。しかし、大会で使用する機械はマークでの表示しかないので、それぞれのマークの意味を覚えるところから始めました。
佐藤
佐藤
マークをよく見ると、機械の構造や機能を表現したものなので、印刷に携わっていればニュアンスは理解できます。しかしそれでも慣れるまでは大変そうでしたね。

大会当日、最大限のパフォーマンスを発揮するために
大会当日、
最大限のパフォーマンスを発揮するために

大会当日にパフォーマンスを最大限引き出すため、取り組んでいることはありますか?

湯地
湯地
寝る前のイメージトレーニングと、毎日早めに寝て睡眠時間を確保するよう心掛けています。
佐藤
佐藤
早く寝るのは眠いだけじゃないの(笑)?
湯地
湯地
(笑)。やはり頭がすっきりした状態だと、普段よりも効率よくトレーニングに取り組めるように感じますし、1日頑張ろうと思えます。

イメージトレーニングはどのように行っているのですか?

湯地
湯地
その日の失敗や翌日の課題を、頭の中で一からシミュレーションします。その際には成功するイメージを何度も思い描くことを大切にしています。失敗して落ち込むことがあっても、課題を乗り越えていくためのエネルギーやモチベーションを、イメージトレーニングで引き出しています。

当日に向けて、エキスパートのお二人からアドバイスはありますか?

鈴木
鈴木
緊張することもあるかと思いますが、今までやってきたことを信じて、焦らず取り組んでもらいたいですね。そのためにも日頃から自分なりのリズム感を持ってトレーニングを積んでいってほしいです。様々な訓練がありますが、自分なりのやり方を見つけ、身体に染み込ませることで臨機応変に対応できる力が身に着くはずです。これは必ず本番に生きてきます。
佐藤
佐藤
アドバイスではないですが、私たちエキスパートのサポートも重要なミッションです。現地入り後、私たちエキスパートは連日会議が続き、選手は現地の学校で生徒たちとの交流会があるため別行動となります。大会当日も競技の公平性を保つため、選手とコミュニケーションを取る時間は30分程度しかありません。当日になるまで競技の課題も分からないため、選手はきっと不安だと思います。少ない時間の中で課題のポイントを伝え、リラックスできるような環境をつくってあげたいです。

0.1の誤差でメダルを逃すこともある

湯地選手インタビュー風景 湯地選手インタビュー風景

競技課題は当日にならないと分からないのですか?

鈴木
鈴木
印刷する絵柄や用紙の量、種類、良品をどれだけ印刷しなければならないかといった条件は、当日になるまで分かりません。
湯地
湯地
本番を想定して、様々な厚みやサイズの用紙で練習はしていますが、対策はそれだけでは足りません。印刷職種ではどうしても印刷の配点が高くなってしまうのですが、中でもインキの濃度調整が特に外せないポイントです。0.1の数値の誤差で大きく得点を失ってしまうので、インキ濃度の許容値を変更して訓練を行うなど、難しい設定でも対応できるようにしています。
鈴木
鈴木
紙が変わるだけで、気を付けなければいけないポイントが大きく変わります。そこに難しい絵柄が組み合わさると、さらに緻密な調整が必要になります。ちょっとした変化で品質に影響が出るのです。これまでの大会の課題内容を参考に、予想しながらトレーニング計画を立てています。

様々な競技課題の対策を進める中で、湯地選手の好きな競技があれば教えてください。

湯地
湯地
調色や断裁、デジタル印刷ですね。6月には品川にあるハイデルベルグ・ジャパン社で、大会で使用するドイツ製の設備を用いての断裁トレーニングと、デジタル印刷のトレーニングがありました。これらは普段の業務ではやったことがなかったので、新鮮でとても楽しかったです。

大会で目指すゴール、そしてその後につなげるためには
大会で目指すゴール、
そしてその後につなげるためには

トレーニング風景

大会での最終的な目標と、この大会を通しての目標を教えてください。

湯地
湯地
最終的な目標はもちろんメダルを取ることですが、大会の後、自分に何ができるかも大事にしたいです。同期の若手社員と比べても多くのことを経験させていただいていますし、技能五輪を通じて視野がとても広がったように感じています。後工程を考えることで、「ここはこうしたほうが良かった」、「こうするともっと良くなる」など、今まで働いていて気付けなかったことにも目が向くようになりました。今はトレーニングに集中して取り組みつつ、大会後はこれまで学んだことを同期や後輩、そして先輩にも還元できるようになっていたいです。
佐藤
佐藤
この大会は彼にとって、とても価値のあるものだと思います。湯地の言うように、今後どのように経験を生かすかが大切です。技術をきわめるのもいいですが、次の世代へしっかりとつなげて、技能の伝承をしていってほしいと思います。
トレーニング風景

技能は言語化できない部分もありますが、どのように伝えていけばいいのでしょうか?

佐藤
佐藤
技能を誰かに伝えるには、「原理と原則」をしっかりと理解することが第1ステップだと思っています。基本を習得した上で応用しないと、それはごまかしでしかありません。それを理解するための経験の一つとして今回の技能五輪があると思っています。きっと今回の経験は、彼が将来壁にぶつかった時、大きな力となってくれるはずです。
鈴木
鈴木
日本代表候補のトレーニングの中では、「技能五輪教育に参加して良かった」、「成長できた」という声を多くいただいています。ここで学んだことは現場での業務と異なる点もありますが、身に着くことはそれ以上にあります。それらを現場に持ち帰り、良い影響を与えていってほしいと思います。

選手への指導を通じて、学ぶことはありますか?

佐藤
佐藤
湯地の強みとしてもお話ししましたが、彼は様々なことを試したがります。一つの作業をとっても、自分なりの最適解を見つけるため、納得のいくまで試行錯誤を繰り返します。そういった上を目指す姿勢の大切さは改めて感じました。
鈴木
鈴木
私は、部下への接し方を改めて考えるきっかけになりましたね。自らがアクションを起こし、積極的にコミュニケーションを取ることで、部下のやりたいことや興味を引き出し、上司としてそれらの能力を引き上げるサポートをしてあげなければいけないと感じています。一人ひとりの思いに共感し、しっかりと寄り添っていくことがトッパンの今後の成長にもつながっていくのではないかと考えています。

社員の皆さんへメッセージはありますか?

佐藤
佐藤
こういった企画を通じて、皆さんに技能五輪を知ってもらえることは大変ありがたく感じています。トッパンの技能五輪への取り組みは、まだ社内に完全に浸透しているわけではありませんし、社外の方々にもトッパンの技術力を伝えきれていないと感じています。特に、若い人たちにももっと興味を持ってほしいと思っています。技能五輪を通じて、印刷技術への理解を深め、興味を持っていただければとてもうれしいです。トッパン一丸となって頑張りますので、引き続き応援をよろしくお願いいたします。