2022.09.30

史跡のデジタル想定復元の魅力

東京ビッグサイトにて行われた「自治体・公共Week2022」で、トッパンはブース出展およびセミナーを開催しました。2022年6月30日、広島大学名誉教授の三浦 正幸先生とお城インスタグラマーのKaoriをゲストに迎え開催した「史跡のデジタル想定復元の魅力」のセミナーをレポートします。

史跡のデジタル想定復元の魅力

デジタル想定復元の特徴やメリット

デジタル想定復元には、「失われたものの復元」と「現存するもののアーカイブ保存」の2つの側面を持つという特徴があります。今は跡形も無くなった、あるいは一部しか残っていないような史跡も、当時の完璧な姿の復元が可能です。
学者の先生に監修いただきながら、史実や文献をもとに高繊細なCGを作成します。史跡の情報を後世に伝え、災害で損壊した場合の修復に役立つ技術なのです。そして下記のようなメリットが得られます。

さまざまな仮説を検証し、新たな事実や魅力の発見につながる

デジタル想定復元は新たな事実や魅力の発見に役立ちます。史跡に関する伝説は多く残っていますが、事実と証明されたものばかりではありません。デジタル想定復元によって事実が証明されれば、史跡の価値や魅力が増します。

VRやメタバースを活用すれば観光客誘致などができる

デジタル想定復元によって得られた情報から、VRやメタバースを制作するのもオススメです。たとえば観光客誘致にVRやメタバースを活用できます。戦国時代や江戸時代などの今では行き来ができない時空の史跡を、当時の現地にいるのと同じような感覚で案内できます。

VRやメタバースで城郭を体感したユーザーは、実際に現地を訪れて見比べたくなるだけでなく、メタバースで城郭を撮影したものと同じ構図で写真を撮るといった新たな方法で現地の史跡を楽しんでくれるでしょう。

デジタル想定復元の基本的な行程(島根県津和野城の実例)

史跡のデジタル想定復元の魅力

津和野城(島根県)の実例をもとに、デジタル想定復元からVR化までの基本的な流れをまとめました。

(1)制作依頼
天守閣が300年前に落雷で焼け、現在の津和野城は台座と石垣しか残っていないため、「デジタル復元してほしい」と津和野町からご依頼をいただく。

(2)資料収集
現在の実測図面に加えて、津和野町が保存していた絵図と新たに発見した絵図を使用しデジタル想定復元を実施。しかし資料収集の段階では怪しい点が続出。屋根が傾いており絵図の書き損じの可能性が指摘されたり、「本丸の一番高いところではなく、裏側の低い箇所に天守閣があった」との伝説があったにもかかわらず懐疑的に捉えられたりしていた。

史跡のデジタル想定復元の魅力

(3)三浦先生が作図
実測図面をもとに三浦先生が復元図を手書き。書き損じが疑われていた屋根のゆがみは、台座が台形でゆがんでいたことによる必然的なもので、史実的に正しいと実証された。

史跡のデジタル想定復元の魅力

(4)VR制作
三浦先生の復元図の情報をもとにVRを制作。中央に天守閣がそびえ立つ見事な津和野城のVRが完成。城郭建築の知識を駆使し写真と同じようなクオリティを実現した。

史跡のデジタル想定復元の魅力

(5)資料などと照らし合わせ
疑われていた天守閣の位置も正しいと実証された。城門から本丸に入城するとすぐに天守閣がそびえ立ち、侵入してきた敵を圧倒できる配置だとVRにして初めてわかった。

デジタル想定復元した史跡の実例

三浦先生とトッパンでデジタル想定復元をした史跡の実例をほかにもご紹介します。

三春城(福島県)

現在の三春城跡地は、石垣も何もないただの空地です。しかも残された資料は天守閣(三階櫓)の存在や城を囲む石垣の形状と寸法がわかる資料が1枚と、城の形を描いた絵図が1枚だけでした。そのような状況でありながらも屋根瓦の本数まで完璧に復元を行うことができた実例です。

【デジタル想定復元をして判明した史実】
・国内において、最も高い断崖絶壁に立っていた城。
・72畳敷きの大部屋に1本も柱がなかった(江戸時代の木造建築の中で、柱がない大空間で日本一)。
・江戸城本丸御殿にもなかった蒸気サウナ(風呂)があった。加えて日本で1番高いところにあるサウナ風呂だった。

史跡のデジタル想定復元の魅力

三春城 絵図

史跡のデジタル想定復元の魅力

三春城 CG画像

二本松城(福島県)

二本松城は、山の頂上に天守閣の台座(石垣)が構えられた城です。東北地方には石垣が残っている城が少ない中で、東北地方五大石垣名城(二本松・盛岡・仙台・白川小峰・会津若松)にも二本松城は選定されています。二本松城のデジタル想定復元は、あまりにも膨大な量の資料が残っており、すべての資料に目を通されていなかった実例です。しかし整理してみるとすばらしい資料が多く出てきて、今後の史跡整備に活用できる特徴を示せた好例ともいえます。

【デジタル想定復元をして判明した史実】
・日本で最も大きな手習い場(書道教室)があった。
・日本でも屈指の規模を誇った城ながらも櫓はない珍しい城であった(10万石で櫓がひとつもないのは珍しい)。
・いままで城の特徴がわかっていなかったが、櫓がないため日本一平和な城だということがわかった。

史跡のデジタル想定復元の魅力

二本松城 CG画像

福山城(広島県)

天守閣が戦前に国宝建築に指定されていた福山城は、終戦の1週間前に空襲で焼失してしまいました。戦後にコンクリートで再建されたものの、焼失前とはかなり異なった外観になっています。デジタル想定復元では、焼失前の姿に正しく復元されています。
今年2022年は築城400年にあたるためVRを制作し、そのVRをもとに焼失前の姿に戻そうという機運が高まり、復旧工事が行われました(2022年8月28日にリニューアルオープン)。
現在では、福山城の跡地内にJR福山駅が存在しています。そのため多数の櫓や城門などの建物をすべて完全に再建した場合、約1兆円の費用がかかると試算されました。しかしデジタル想定復元によってそのような膨大な費用をかけずに、美しい城郭を当時の姿で復元でき、メタバースを活用すれば体験までできるのです。

【デジタル想定復元をして判明した史実】
・10万石の費用でありながら、200万石ぐらいに見える立派な城だった。
・石垣が3段構え。その上に、ひな人形のように密集して建物が並んでいた。
・天守北側には、「鉄板張り」が施されていた。

史跡のデジタル想定復元の魅力

福山城 CG画像

VR・メタバースの活用で広がる新たな魅力

史跡のデジタル想定復元の魅力

冒頭でも紹介したとおりデジタル想定復元には、「失われたものの復元」と「現存するもののアーカイブ保存」の2つの側面があります。歴史的な発見につながったり、万一消失してしまった場合にも復元するための資料として役立ったりするでしょう。さらにVRやメタバースを活用し、遠方で訪れるのが難しい場所や普段は公開していないような場所などを案内する観光客誘致のツールとして活用するのも良いでしょう。

史跡のデジタル想定復元の魅力

メタバース城郭ツアー

実際にトッパンでは、ヘッドマウントギアを装着してメタバースに入ると、彦根城(滋賀県)を観覧できる「メタバース城郭ツアー」を開催しました。現在の彦根城は、天守閣があるものの本丸御殿などが残っておらず大きさもわからない状態です。しかしデジタル想定復元のデータを基に正確に作成されたメタバースでは、高さや距離が実体験としてわかるだけでなく、自分の好きなように城内を見て廻れます。さらに城の上空にアバターを飛ばすような操作も可能で、建物を配置した意図や城主の見栄などがイメージできるといった、リアルでは味わえない体験や楽しみ方の提供もできました。

トッパンは、史跡のVR制作を20年以上行ってきました。今回ご紹介したとおり、史跡をデジタル想定復元したい、さらにVRやメタバースを制作したいという自治体様から依頼される機会が増えています。すでに2021年12月時点で80の史跡でVRを作成、VRアプリ「ストリートミュージアム」は2022年4月時点で43の史跡で利用が可能になりました。トッパンは今後も史跡の復元や保存をサポートしていきます。

PROFILE

三浦 正幸

広島大学 名誉教授

三浦 正幸

Kaori

お城インスタグラマー

Kaori

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