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14-3 モノトーン印刷特集 トリプルトーン

14-3 モノトーン印刷特集 トリプルトーン

 トリプルトーンは調子が異なる3版を使用することで、モノクロ写真をもっとも階調豊かに表現できる手法です。基本的には、スミ版で原稿の基調を表現し、特色版でライト部の調子と中間部のボリューム、シメ版(骨版)でシャドウ部の強さとディテールを表現します。ダブルトーンでは表現しきれないようなボリューム感のある写真や、シャドウ部の調子が豊かな写真の表現に向いています。また、特色版の色味を調整することで、写真を様々な色調に仕上げることができます。

一般的な仕様とその特徴

  • 製版方法
    スミ版を基調とし、ライト部の調子や写真のボリューム、全体の色味を出す特色版(グレーやセピアなど)と最シャドウ部の強さと調子を出すシメ版(スミや高濃度スミ)による設計が主流
  • インキ/紙の選び方
    スミ、特色(グレーやセピアなど。原稿の色に合わせる)、特色(シメ版。高濃度スミなど)
  • 適した原稿の特徴
    ボリューム感があり、階調が豊かなもの
    ライト側だけではなくシャドウ側の調子も豊かなフルトーンの写真
  • 効果
    幅広い階調表現が可能で、特にシャドウ部のディテールを出しやすい

CASE 井津建郎「アジアの聖地:石造遺跡-光と影」

トリプルトーンを駆使し、プラチナ・プリント(※コラム参照)という特殊な焼付けの原稿を再現した事例として、写真家井津建郎氏の展覧会図録をピックアップ。担当のプリンティングディレクター十文字氏と都甲氏にその設計について伺った。

この図録は、2001年に山梨県の清里フォトアートミュージアムで、井津建郎氏の写真展開催時に制作された。 1993年から2000年にかけて、井津氏がアジアの各地で撮影した石造遺跡の写真などの、プラチナ・プリントによる作品で構成されている。
 図録の制作にあたり、先方からの要望は、原稿である写真そのままの印刷表現。「今回のポイントは、プラチナ・プリントの再現。つまり、シャドウ部のディテールや全体の柔らかな階調を滑らかに出すこと、そしてプラチナ・プリントのマット感を再現することが重要でした」(十文字)。

版設計とそのねらい

 プラチナ・プリントの豊かな階調を出すための、各版の設計とねらいは以下のようなものだった。

  • スミ版と特色版:できるだけコントラストを抑え全体の柔らかさを表現
  • シメ版:コントラストをつけつつ、ライト部の調子は生かしてディテールを再現

 通常、網点の入っていないようなハイライト部にも飛ばすことなく網点を入れ、最シャドウ部でも、ベタ並の強さを出しつつ網点で表現することによって、写真の隅々まで調子を出し、原稿にある遺跡の細かな表現を可能とした。
また、遺跡の細かい部分を表現する際にも網点を肉眼で見えづらく、連続調のプリントに近いものとするために、スクリーン線数は300線が採用された。「この原稿のよさを出すためには300〜400線が最適です。アナログの原稿に対してこれ以上の線数やフェアドット(※)を使うと、逆にデジタルっぽく見えてしまう可能性があります」(十文字)。
使用したマット系の紙は、乾燥後に色の濃度や光沢が沈むドライダウンが大きいため、しまりを出しにくい。だからといってインキを盛り過ぎると調子がつぶれるため、トリプルトーンを採用し、シメ版の効果を出すことが重要だった。「全体的に柔らかいトーンでありながら、しっかりシャドウ部の強さが出ている独特な井津さんの写真の雰囲気をこの紙で表現するには、トリプルトーンが最適でした」(都甲)。

  • ※フェアドット…FMスクリーンとAMスクリーンの長所を生かしたハイブリッドスクリーンで、画像の濃淡によってアミ点を使い分け、絵柄のあらゆる部分で最適な表現が可能。

柔らかな階調の中にディテールが表現されている(「アジアの聖地:石造遺跡‐光と影」井津建朗、清里フォトアートミュージアム 刊、2001、p53:アンコール♯79、バイヨン、カンボジア、1994年)
カーソルを乗せると画像が切り替わります

カーソルを乗せると細部の画像に切り替わります

スミ版
ハイライト部からシャドウ部まで全体の調子を出している。特色を生かすためにソフトに入っている。

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特色版
ハイライト部からシャドウ部まで全体の調子を出している。原稿の雰囲気に合わせた色味となっている。

カーソルを乗せると細部の画像に切り替わります

シメ版
最シャドウ部のディテールを出しつつ、全体を引き締めている。

トリプルトーンの印刷とマット感の表現

 トリプルトーンでは、印刷時にスミ版と特色版の強弱のバランスを変えることで、全体の見え方の方向性を調整することができる。「印刷時には、原稿を見たプリンティングディレクターやオペレーターの感性が重要となってきます。よい版ができていれば、あとはどの版をどれだけ調整すれば頭に描いたものを表現できるかと考えながら刷っていきます」(十文字)。
 また、プラチナ・プリントのマット感を表現するために、マット系の用紙を使用するだけでなく、3色それぞれにマットニスを半々で配合するという手法をとった。「マットニスは乾燥後にその効果があらわれるため、印刷時での見極めが重要です。また、マット感を十分に出すこと、マットニスの配合で薄くなっているインキやドライダウンのことを考慮し、調子がつぶれないギリギリまでインキを盛る必要がありました。それぞれを考慮することで、プラチナ・プリントの持つマット感や豊富な階調、そしてシャドウの深さを出すことができました」(都甲)。「マット系のインキを使用したマット感の表現には何パターンかありますが、これまでの経験上、インキに直接マットニスを配合する方法が、調子を殺さずにマット感を表現できる方法だと思います」(十文字)。

プラチナ・プリントのマット感がしっかり再現されている(「アジアの聖地:石造遺跡‐光と影」井津建朗、清里フォトアートミュージアム 刊、2001、p28:アジャンター石窟院♯65、インド、1996年)
カーソルを乗せると細部の画像に切り替わります

 今回の図録の制作について両氏はこう語る。「モノトーン印刷に関しては面白くて、のめり込んでしまうところがあります。特にトリプルトーンでは、製版の設計テストから印刷時の3版のバランスを決める醍醐味まで、ある程度自由に調整し、表現できるところが魅力です」(十文字)。「井津さんのプラチナ・プリントの凄さをきちんと表現できたと思います。改めてこの図録をみても、いいなぁ、よくやったなぁと思います」(都甲)。また、この図録を見た井津氏からも「日本にもまだ“クラフトマンシップ”があること、とてもうれしく思いました」と喜びの感想が届いている。プラチナ・プリントという繊細な表現を必要とする原稿に対して、トリプルトーンの効果を存分に発揮した力作と言えるだろう。

プラチナ・プリント

  プラチナ・プリントとは、「銀塩の代わりに鉄塩の感光性を利用し、塩化白金と鉄塩の感光液を水彩画用紙等に塗布した印画紙を、乾燥後、太陽光か紫外線灯光でネガを密着焼き付けて画像を得るタイプ」の技法です。表現の特徴としては「黒のしまりが良く、階調の幅が広く、グレーの調子がほとんど無限に表現でき、耐久性が優れている」という点です。フィルムと紙の密着焼きにより、「精緻で微妙なトーン、銅版画のようなきめ細かさ」が可能となり、今回作品を紹介した井津建郎氏は100キロにもなる特注の大型カメラと大判フィルム、同サイズのネガにより14×20インチの密着焼きプリントを可能としたそうです。
実際に原稿である井津氏の作品を見たプリンティングディレクターの十文字氏と都甲氏は、以下のような感想を述べています。「作品を拝見して、その階調の豊富さに驚きました。どこか懐かしく、自然なトーンの美しさがある写真でした」(十文字)。「ほれぼれとしてしまうような素晴らしい作品でした。今までに見たことのないインパクトがあり、感動してしまいました」(都甲)。さまざまな作品に接してきた印刷のプロフェッショナルをも唸らせるプラチナ・プリントは、銀塩、更にはデジタルが主流となった現代でも人々を魅了する美しい印画法のようです。

参考文献:「アジアの聖地:石造遺跡-光と影」井津建郎、清里フォトアートミュージアム 刊、2001、p132M
取材協力:十文字義美/都甲美博(凸版印刷株式会社 グラフィック・アーツ・センター)

井津建郎
「アジアの聖地:石造遺跡-光と影」

サイズ
250mm×260mm/134ページ/左アジロ綴並製

インキ
本文:スミ(女神インキ工業株式会社)/マットニス(東洋インキ製造株式会社)

用紙
本文:ヴァンヌーボAR/四六判135kg(日清紡ペーパープロダクツ株式会社)

スクリーン線数
300線

デザイン
馬淵晃(マブチデザインオフィス)

プリンティングディレクター
十文字義美(凸版印刷)
都甲美博(凸版印刷)

クライアント
清里フォトアートミュージアム

制作年
2001年

【取材協力】
十文字義美
都甲美博
凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部
グラフィック・アーツ・センター

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