2020年11月、渋谷パルコで開催されたアートイベント「ART POSTER TRADE “2020 distance” PARCO PRINT CENTER」。このイベントは”Living with Art”をテーマに様々なジャンルのクリエイター36人を集め、こだわり抜いた紙と高い印刷技術でアートポスター作品を製作・販売するプロジェクトです。今回はこのポスター作品のプリンティングディレクションを行った冨永志津をご紹介します。

 10年以上のプリンティングディレクション経験を持つ冨永は、これまでに大手化粧品会社のキービジュアルや工夫を凝らした特殊加工を施したコミックス豪華本、アイドルの写真集など、幅広い分野で活躍しています。クリエイターの作品制作実績は数多く、トッパンが毎年企画運営しているポスター展「グラフィックトライアル」にもプリンティングディレクターとして何度も参加しています。
 今回の「PARCO PRINT CENTER」のプロジェクトが始まったのは数か月前のこと。クリエイターの作品を忠実に再現できるかどうかの印刷品質コンペが行われました。コンペに参加した冨永は、2パターンのデジタル印刷を提案しました。

テスト刷り1

デジタル印刷1:彩度の高さが特徴

テスト刷り2

デジタル印刷2:きめ細やかな色調整ができる

 一つは、7色のインキを使い分け、RGBの色再現に迫る彩度の高さが特徴のデジタル印刷。もう一つは、色数はオフセット印刷と同じ4色ながらも、きめ細やかな色調整ができ、かつ印刷可能な用紙の種類の豊富さが特徴のデジタル印刷です。クリエイターの作品や好みに合わせて方向性の違う2パターンを提案した点が高く評価され、採用が決定しました。最終的には後者のデジタル印刷で進行することとなり、36人分のクリエイターのポスター作品ひとつひとつを丁寧に制作。「PARCO PRINT CENTER」での展示販売は、好評のうちに終了しました。

※ポスター作品はオンラインストアで販売中です。詳しくはこちら。

デジタル印刷2で印刷した作品。絵の具が混ざった繊細な色やテクスチャーが丁寧に表現されている。

 印刷産業にデジタル印刷という概念が生まれておよそ30年が経ちました。デジタル印刷はスピードが速く、小回りが利くなど主に効率面での強みを発揮している印象が強いかもしれませんが、近年では再現できる色領域の広さや、階調表現の豊かさなど品質面でも様々な特徴を持つデジタル印刷機が次々と誕生しています。
 最新技術を常にチェックし、作品に対してベストな形で印刷仕様を提案、仕上がりまで支え続ける冨永のパワフルな姿勢。時代と共に進化を続ける印刷業界において、彼女のようなプリンティングディレクターが今最も求められていると言えるでしょう。

PRODUCT INFORMATION

PARCO PRINT CENTER
パルコ/グラフ
ポスター制作/2020年

アートディレクション:北川一成(GRAPH)
プリンティングディレクション:冨永志津

STAFF’S COMMENTS

プリンティングディレクター 冨永志津

総勢36名のクリエイターの持つ魅力を引き出す事を深く考え続けたプロジェクトになりました。クリエイターごとに用紙も変えているため、発色や光沢感もそれぞれに魅力があります。緻密なディティール再現も拘って作り込んだ印刷になっているので、いくつかの作品を見比べて貰えると作品のまた違った面白さが見えるのではないかと思います。