あなたが最後に虫の音色を聴いたのはいつでしょうか?夢中になって虫を追いかけたことがある方も多くいらっしゃるかもしれません。今回は、虫の音色で聞くことの楽しさを体験する企画のご紹介です。

 きっかけは、メガネやコンタクトレンズの他、補聴器の販売を行っている眼鏡市場さんからの、「聞くことの大切さへの気づきとなる取り組みを行いたい」とのオーダーでした。年齢と共に徐々に進行する加齢性難聴は、放置すると認知症へも繋がると言われています。こうした問題に対し、まずは聞くことへの気づきを広めていくことを目指しました。
 企画制作に携わったのは、これまでにカレンダーやカタログ、プロモーションなど数多くの企画実績を持つクリエイティブディレクター山本剛久と、国内外のデザインアワードを数多く受賞しているアートディレクター澤田翔平の二人。眼鏡市場さんとアイデアを検証しながら企画を具体化していきました。

 聞くことへの気づきを広める企画ということから、アイデアのベースとして音に焦点をあてた二人。スピーカー内臓のプロダクトなど足し算のアイデアを多く出す一方で、「もっとシンプルなものの方が手に取ってもらえるのでは?」と、引き算のアイデアも出した結果、「夜の美しい虫の音色がスマートフォンで聞ける真っ黒な絵本」という結論にたどり着きました。

「よるのむしのねずかん」冊子全体

 作品を絵本にした理由について、山本は次のように語りました。「子供向けと思われるかもしれませんが、メインターゲットは加齢性難聴の兆候が現れる中高年の方々です。どんな大人にも子供の時代があり、その記憶を懐かしんでもらいたくて。もちろん私も夢中で虫を追いかけたひとりです。(笑)」
 絵本を開くとそれぞれのページにQRコードがあり、スマートフォンをかざすと様々な虫の音色が聞こえる仕掛け。ページを読み進めると、より高い声で鳴く虫が次々と現れます。加齢性難聴は高い波長の音ほど聞き取りにくく感じるそうです。そこから聞くことの大切さに気付いてもらえるようなストーリーに仕立てました。

「よるのむしのねずかん」リフレクトインキが光る前

フラッシュをあてていない状態

「よるのむしのねずかん」リフレクトインキが光った状態

フラッシュをあてた状態

 仕掛けはそれだけではありません。真っ暗なページにうっすら見える影にフラッシュをあてると音色の正体が浮かび上がりました!これはリフレクトインキという特殊インキによるもの。「リフレクトインキが美しく光り、そして光らないときはできるだけ見えなくなるように、様々な黒い紙を試しました。最も効果的だったのがこのディープマットの黒。質感もよく、好きな紙のひとつです。」と語る澤田からは、仕上がりへのこだわりの強さが感じられました。

 まずは聞こえに興味を持ってもらうために創り上げた「よるのむしのねずかん」。眼鏡市場さんの特設サイトでも楽しむことができますので、チェックしてみてくださいね。

「よるのむしのねずかん」特設サイト

PRODUCT INFORMATION

よるのむしのねずかん
メガネトップ
プロモーション/2020年

クリエイティブディレクター:山本剛久
アートディレクター:澤田翔平
イラストレーター:三村晴子

STAFF’S COMMENTS

クリエイティブディレクター 山本剛久

懐中電灯をかざして、夜の虫たちを探した経験。そんな記憶を思い起こしながら、聞こえや加齢性難聴への気づきとなる絵本を、眼鏡市場さまと制作させていただき大変勉強になりました。この活動がさらに広がるように、引き続き取り組んでいきたいと思います。

アートディレクター 澤田翔平

夜に鳴く虫たちの世界をどう表現するかがポイントだと感じました。虫が見えそうで、見えなかったり、虫の声を聴くことで姿を想像できるような絵本にするために、様々なアプローチを試みました。結果、ビジュアルと音が共存する新しい絵本が完成したと感じております。