トッパンは2020年に創立120周年を迎え、翌年2021年に『Change is Our Challenge トッパンの120年』(以下『120年史』)を刊行しました。社史の刊行は、創業100周年時の『凸版百年』以来20年ぶり。100周年後に入社した社員の割合が多くなり、さらにグローバル化の進展によって多くのグループ社員が加わったことから、「改めて社員自身が120年の歴史を振り返り、トッパンDNAを感じとって、未来に向けた活動の糧にしてほしい」との当社広報本部トッパンアーカイブ室の想いが込められた一冊です。今回は、その想いを一つの作品に昇華させた澤田翔平、藏野捺子の「クリエイティブストーリー」をご紹介します。

誰に何を伝えるのか。
熟考の末、辿り着いたアイデアとは

 『120年史』の制作が始まったのは、発刊から遡ること5年。「主な読者層を2000年以降に入社した従業員とし、120年という長い歴史をなるべくコンパクトにまとめ、読みやすい社史を目指す」という方針のもと、広報本部トッパンアーカイブ室のメンバーに年史センターのメンバーも加わって準備が進められました。

 クリエイティブディレクターの澤田に声が掛かったのは、全体の構成が固まった2020年12月のこと。それまでさまざまな企画・制作にアートディレクターとして携わり、企業の課題解決をサポートしてきた澤田。今回求められたのは、“トッパンが社会に果たしてきた歴史的意義”と“変革・挑戦のDNA”を若い世代に発信するための、年史一冊を貫くコンセプト開発およびキービジュアルの立案でした。

 「限られた時間のなか、まずはこのプロジェクトに関わるメンバーの想いを一つの方向に束ねる指針づくりに注力しました」と振り返る澤田。端的な言葉でコンセプトを整理し、それをいかにインパクトのあるビジュアルに落とし込めるか……。考えを巡らす過程で思い至ったのは、“有機的に蠢(うごめ)く球体”――変革を続ける企業を一つの生命体に見立てるアイデアでした。

澤田がイメージをつかむために描いたラフスケッチ(左の写真の手前)。藏野が形状を整え(左の写真の右上)、さらに「アート彩紋®」を効果的に用いるための調整を重ね、思い描いたビジュアルに結実した

当社独自技術「アート彩紋®」で、“トッパンDNA”のきらめきを描く

 トッパンのDNAを象徴するモチーフとして辿り着いた “有機的に蠢く球体”。そのビジュアル化に際し、澤田は「“有機的に蠢く球体”というアイデアを考えたとき、表現方法として『アート彩紋®』が凄くマッチすると、同時に考えていました」と語ります。

 「アート彩紋®」とは、トッパン独自の表現技術の一つ。偽造防止技術として長年培ってきた紋様表現やマイクロ文字などの微細製版技術を応用し、一般的なデザイン制作ソフトでは表現できない独特の奥行や濃淡、動きを感じるグラフィックを実現する技術です。澤田は、同じチームでこの「アート彩紋®」の表現開発に携わるアートディレクターの藏野に、自らが思い描いた構想を共有。藏野が学生時代に書体設計や造本を学び、タイポグラフィからエディトリアルデザインに至るまで造詣が深いことから、具体的なデザイン設計を藏野に託しました。こうして全体の舵取りを澤田が、デザインのつくり込みを藏野が担い、役割を分担しながら制作を進めていきました。

実制作にあたり藏野が作成したフォーマットのラフ。「DTPオペレーターへの依頼書であるとともに、イメージの共有を図れるよう、背景にビジュアル要素も盛り込みました」(藏野)

細部に宿る“挑戦心”が、
歴史を未来へとつないでいく

 「今回、“有機的な球体”を理想に近づけるため、『アート彩紋®』の代名詞である極細線の表現に箔押し加工を掛け合わせたということは、一つの挑戦でした」と語る藏野。日の出前、鮮やかに色づき始める空に浮かぶ球体。朝日が放つ光を受けてさまざまな色彩を帯び、輝きを発しながら、同じ形状を留めることなく変化し続ける――。その繊細な様を表現するため、藏野は熟練の技を持つ技術スタッフと連携し、理想の表現を追い求めました。そうして完成したのは、まるで生き物のように蠢き輝く球体が、夜明けの世界にすっと姿を現す繊細かつ印象的なデザイン。澤田が導き出したコンセプトコピー「Change is Our Challenge」と見事に共鳴する、新たな歴史の始まりを想起させる装幀になりました。

極細線を用いる「アート彩紋®」を、箔押しでどこまで再現できるのかを事前に検証。「アート彩紋®が持つ繊細な魅力が、箔押し加工によって、よりいっそう輝きました」(藏野)

 完成した『120年史』を前に、澤田はこう振り返ります。「今回のプロジェクトにおいて、私は終始、主管である広報本部トッパンアーカイブ室と、多くの対話をすることを心掛けました。メンバーたちの想いを言語化・視覚化する上で最も重視したのは、ターゲットである若い社員にその想いがちゃんと伝わるのか、ちゃんと響くのかということ。本文の書体のサイズ一つを決めるときでも、これでメッセージが感覚的に伝わるだろうかと何度も問いかけ、コンセプトがブレないよう心掛けました」。藏野もまた、同じ信念を共有し、現場の技術者たちと粘り強いやりとりを重ねながら隅々までこだわりを貫きました。『120年史』を印象づける、深く、鮮やかなグラデーションもその一つ。「グラデーションをなめらかに美しく印刷するのは、実は難易度が高く、印刷表現における知識や経験値が求められます。今回、思い描いたように仕上がったのも、プリンティングディレクターをはじめとする現場の尽力の賜物です」と藏野。

 制作に携わった一人ひとりの挑戦は、まさに“トッパンDNA”そのもの。細部に宿るそれらDNAが、『120年史』に、よりいっそうの輝きと可能性を与えているのです。

PRODUCT INFORMATION

「Change is Our Challenge
トッパンの120年」

凸版印刷 広報本部 サスティナビリティ推進部
トッパンアーカイブ室
社史/2021年

クリエイティブディレクション:澤田翔平
アートディレクション:藏野捺子
アート彩紋®デザイン:小川稔
プリンティングディレクション:田中一也

STAFF’S COMMENTS

クリエイティブディレクター 澤田翔平

本来、社史は主に長い歴史をアーカイブするという目的が強いですが、今回は未来に向けたメッセージとして、どう伝えるかを考えてコンセプトを企てました。企業理念や歴史というテーマに対して、抽象度を上げて、トッパンならではの表現を探り、試みたのが今回のトッパン120年史になります。この社史を手にとられた方々に、企業としての歴史や先進性・未来を感じてもらえたら、とても嬉しく思います。

アートディレクター 藏野捺子

120年の歴史を持つ自社の社史制作に携われたことを嬉しく思っています。自分自身が今回のターゲット層であることもあり、この社史を手に取った社員一人ひとりが、自分の会社により誇りを持ってくれたら嬉しいなと思いながら制作しました。今後も、細部までこだわった丁寧な提案をしていけたらと思っています。