「エンジン01(ゼロワン)」とは、日本文化のさらなる深まりと広がりを目的に、芸術・科学・文化・スポーツから経済まで、異分野の才能が“無私の志”で参集したボランティア集団です。年度に一度開催される大規模イベント「オープンカレッジ」では、日本全国から1都市の会場に100名以上の会員が集まり、3日間で100以上の講座を開催。将来にわたって展開しうる地域活性プロジェクトをも視野に入れたテーマを掲げ、地域の方々と「知」の交流を行っています。10月初旬に予定されていた『エンジン01 in 岐阜』は、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、開催延期となりました。「この状況はナンヤローネ?でもこの経験を生かしてナンカヤローネ!」―5月に発表された公式ポスターのメッセージを胸に、現地での対面交流ができる日を待ち望む日々です。今回は、その公式ポスターの撮影を手がけた、木津直紀の「クリエイティブストーリー」をご紹介します。

制約の多い撮影を数多く経験—その実績を買われて

 フォトグラファーとしてキャリアをスタートさせた木津は、静止画から動画へ、徐々に自身の活動領域を広げ、現在は映像領域のクリエイティブディレクションを中心に活動しています。静止画撮影においても動画制作においても、作品づくりで大切にしているのは“鮮度”。著名人を起用した広告など、制約の多い撮影を任されることも多く、常に限られた条件と時間、コンディションのなかで被写体と対峙してきました。

 木津が初めて「エンジン 01」のポスター制作に携わったのは、2015年の「第14回オープンカレッジ in のべおか」でした。初回からポスターのアートディレクションを手がけている浅葉克己氏が、その前年に開催された「グラフィックトライアル2014-響-※」に参加した縁から、ポスターの印刷設計から生産を当社に依頼。それに合わせて撮影も当社で行うことになり、担当したのが木津でした。その撮影とは、14名の著名人が晩餐に集うという設定の、緊張感の伴う撮影でした。

※ グラフィックトライアルとは、凸版印刷が印刷博物館で開催するポスターとその制作過程を展示する企画展

エンジン01の会員である著名人13名と延岡市長が集う2015年
「第14回オープンカレッジ in のべおか」公式ポスター。
モデルは、浅葉克己、池坊美佳、井沢元彦、太田麻衣子、
勝間和代、小西利行、三枝成彰、露木茂、林真理子、堀江貴文、
山本益博、吉村作治、鎧塚俊彦、首藤正治(延岡市長)
※敬称略

フォトグラファーの勘と腕が試される、ゼロから始まった撮影現場

 木津が初参加した「第14回オープンカレッジ in のべおか」は、“食”を切り口に開催された初のイベント。浅葉氏が構想したポスターのビジュアルは、“知と食の交歓”がテーマでした。撮影時、スタジオに集結した14名の“登場人物”に息を吹き込むのが木津の仕事。浅葉氏から受け取った手描きのラフをもとに入念なテスト撮影を行い、いざ本番へ。木津はオープンカレッジのキャッチコピー「たべる、のべる、のべおか」を全員で叫ぶことを提案し、その掛け声を合図にシャッターを切っていきます。それにより全員の表情が一気にほぐれて一体感が生まれ、撮影はまるでイベントの前夜祭のように和気藹々たる雰囲気に。事前のテスト撮影でポジションやライティング等の緻密なシミュレーションも済ませていたので、撮影はわずか数枚で完遂しました。その仕切りの巧さから浅葉氏の信頼を獲得し、以降、オープンカレッジのポスターの撮影を継続して担当することになったのです。

 そして木津の4回目の参加となった「エンジン01 in 岐阜」(第17回より名称を「オープンカレッジ」から「エンジン01」に刷新)。コロナの影響により開催は2年ぶり。ポスター制作には岐阜県出身で大会委員長も務めるアーティストの日比野克彦氏も参加し、より一層新鮮な状況での撮影となりました。ポスターは「家の中から遠くを見て、さあ冒険にでかけるぞ」というイメージで制作することに決定。今回のテーマ「ナンヤローネ?ナンカヤローネ!いまいちど、ゼロからイチを考えよう。」を体現すべく、日比野氏が撮影当日にスタジオで即興の段ボールアートをつくり、それを撮影することになりました。まさに「ゼロから」の撮影現場。どんな作品ができ上がるのか、誰も予想がつかないまま本番当日を迎えました。

日比野克彦大会委員長自ら手がけた
『エンジン01 in 岐阜』公式ポスターのメインビジュアル
「01ハウス」(段ボールアート作品)の
制作過程をタイムラプスで撮影
エンジン01のYouTubeチャンネル

現場での気づきとひらめきが、想像を超えた作品を生み出す

 撮影当日、スタジオに搬入されたまっさらな段ボールを前に、日比野氏は一人、制作に取り掛かろうとしていました。段ボールを切って、色を塗って……。その様子を見ていた木津は、これから始まるストーリーを想像し、「ミニチュアの視点でとらえると可愛らしいだろうな」と直感。三脚を底上げしてスタジオの天井に届くほど高い位置にカメラを構え、タイムラプスで制作風景の撮影を開始しました。4時間程を経て、家の形をした日比野氏の段ボールアート作品「01ハウス」が完成すると、次はポスターのビジュアル撮影です。日比野氏が窓から遠くを眺め、さらに外に飛び出していくビジュアルは、あらかじめ決めておいたポスターのテーマをわかりやすく表現するものとなりました。

     

(左)浅葉克己氏、(右)日比野克彦氏

 「ライティングから構図まで……。撮影は、フォトグラファーに委ねられるもの。現場で見つけたこと、その瞬間感じたことを逃さず活かしていきたい」と語る木津。フォトグラファーとしてアートディレクターの構想の具現化に徹しながらも、その時々の現場の出来事をポジティブに取り入れていくのが木津の信条。そこで生まれた一つの“解”が、“素材”としてデザイナーの手に渡り、予想を超える作品へと昇華していきます。想像していた以上の世界を、現場で描くこと——それこそが、変わらない木津自身のテーマなのかもしれません。

2021年「エンジン01 in 岐阜」公式ポスター

PRODUCT INFORMATION

「エンジン01」公式ポスター(2021年『エンジン01 in 岐阜』)
エンジン01 文化戦略会議、浅葉克己デザイン室
ポスター・映像制作/2021年

デザイン:浅葉克己
アートワーク:日比野克彦
撮影:木津直紀
コピー:太田麻衣子・小西利行
ロゴタイプ:寺内なつ美

STAFF’S COMMENTS

フォトグラファー・ディレクター 木津直紀

アートディレクター浅葉克己氏をはじめ、多くの著名人やアート作品が被写体になり、毎回ほどよい緊張感で撮影を楽しんでいます。今回は日比野克彦氏が撮影当日に作品を制作する段取で、直前まで「どんな作品になるのか?」いつにも増して緊張感のある撮影でした。日比野克彦氏の作品制作シーンもタイムラプス映像で公開されていますので、合わせてご視聴いただければ、ビジュアルの側面も見られて楽しめるかと思います。