デジタル化やリモート化が進むなかで、企業の採用活動もオンラインが主流となっています。学生は興味のある企業のホームページに直接アクセスできるという便利さがある反面、知らない企業と出会うチャンスは少なく、自分に合った選考先に辿りつけないという現状も。企業の採用部門では、オンライン以外でも自社の魅力をダイレクトに伝えられるツールが求められているのではないでしょうか。今回は、当社、凸版印刷の採用チームからの依頼を受け、新しいパンフレットの制作ディレクションを担当した山本弥生、吉澤奈央の「クリエイティブストーリー」をご紹介します。

情報を届ける編集力と、“魅せる”センスを携えて

 山本は入社以来、多様な印刷メディアに関わり、その経験から紙媒体の特性を活かす作品づくりを得意としています。年に一度、優秀なカタログを表彰するコンクール「全国カタログ展」では4年連続で上位賞を受賞。編集スキルはもちろん、図録や販促ツールの制作などで培った特殊印刷の知見も豊富です。今回の理系(当社では技術系という区分)新卒採用に向けたパンフレット創刊の相談は、まるで誂えたかのように、山本の元に届きました。

 当時、技術系採用において、凸版印刷の事業分野と学生の研究とのマッチングを図る「ガイドブック」は発行されていましたが、研究内容をすぐに活かしたい学生にとって、自分の研究と当社の実績との関連が想像しづらいものになっていました。何より「印刷」のイメージが強いため、理系大学の学生への認知拡大は目下の課題。「まずは当社の幅広い事業に興味を持ってもらいたい」という切実な想いを受けた山本は、学生と目線の近い入社3年目の吉澤とともに、新媒体の立ち上げに着手しました。

既存の「技術系新卒採用ガイドブック」の巻末に掲載されている、当社の事業分野と学生の専攻分野のマッチングを図る一覧表

リアルメディアが持つメリットを最大限に活用して

 紙媒体をはじめとする“リアルメディア”の魅力は、企画の持ち味やクオリティの高さを余すところなく表現できること。加えて学生との接点を持つタイミングで直接アプローチすることができるので、質感やデザインにこだわった分、感性に訴えかけるイメージアップも可能です。

 山本は、パンフレットが採用担当者の大学訪問の際のトークツールになる点にも着目。「現在進行中の最新ソリューション」「旬の開発事例」を取り上げることで話題性を打ち出し、幅広いジャンルに切り口を設ける編集方針を固めました。

 ところがその「旬の開発事例」の吸い上げが、制作における難題に。既に実績化されている事例は把握できたものの、開発段階の情報は社内でも公にされていなかったため、収集が困難だったのです。そこで吉澤は、採用チームと協力し、取り上げる大小の事例の目星を付けながら、1件1件担当社員に問い合わせ、掲載情報の許諾確認や内容の擦り合わせ、また新設の工場には実際に現地に足を運んで取材を行いました。

 専門的な内容や馴染みのない分野に四苦八苦しながらも、吉澤は、事前に専門用語を念入りに調べ、質問を投げかけながら、取材先との丁寧なやりとりに努めました。そして手に取った学生の興味喚起を促せるよう、分かりやすく噛み砕いて伝えることに専心しました。

 またデザイン面では、第一印象の肝となる表紙づくりに工夫を凝らしました。印刷と箔加工が同時に行える「コールドフォイル」※ を採用し、無限の可能性を想起させるような玉虫色の輝きを誌面に発現。表紙には、あえて当社ロゴを掲載せずに、旬のキーワードをちりばめることで視線を捉え、手に取りたいと思わせる佇まいに仕上げました。

※通常の箔加工と異なり、箔上に印刷でき、非常に細かい網点表現も可能な印刷手法

コールドフォイル×印刷がまばゆい輝きを放つ、新パンフレットの表紙

居山さんの年賀状を普通に見た状態。真っ黒なカードに見える。

部門を横断して事例を盛り込んだ、肝煎りの特集ページ

角度を変えるとシルエットが浮かび上がる。

当社の扱う技術「カスタム網点」を活用した、遊び心溢れる広告ページ

依頼に対して、一番いいアウトプットを提供したい

 ここ数年、印刷メディアの枠組みを越えて、Webや店頭まわりなどへディレクション領域を広げている山本。「メディアにこだわらず、受けた相談に一番いいアウトプットを提供したい」と目を輝かせます。一方の吉澤は、山本と行動をともにしながら、「情報を見る目を養い、相手に刺さるロジックを組み立てたい」と、今後進む道を思い描いているようです。

 目的を持った情報伝達ツールの制作においては、発信側と受け手側の双方の間に立ち、着地点を見つけることが要。着地点を見極めたら、必要な情報を収集し、的確に取捨選択し、魅力的な姿に仕立て上げるまで一貫して制作を指揮するのが二人の役目です。「作品に最後まで携われることが醍醐味」と、無事完成したパンフレットを前に声を揃えます。

 2020年は採用活動もコロナ禍の影響を多分に受けたため、新しい採用ツールの反応が見えてくるのはこれから。多くの学生が手に取り、新しい出会いの扉が開かれることが待ち遠しい日々です。

PRODUCT INFORMATION

Toppan Tech Journal
凸版印刷 採用チーム
採用パンフレット/2020年

ディレクション:山本弥生
ディレクション:吉澤奈央

STAFF’S COMMENTS

ディレクター 山本弥生

最近、検索疲れやデジタルデトックスという言葉をよく聞くようになりました。いつでもどこでもスマートフォンやパソコンで情報にアクセスできる時代だからこそ、紙のようなリアルメディアの持つ役割があらためて見直されつつあると感じています。今回制作した技術系新卒採用パンフレットのような、雑誌のように気楽に読み進めながら理解を深められるツールが、学生の皆さまの仕事や働くことへの興味へのきっかけになれば大変嬉しく思います。

ディレクター 吉澤奈央

文系出身のため慣れない部分もありましたが、どのトピックも興味深く、楽しみながら担当させていただきました。パンフレットもデジタル版が増えてきていますが、完全にデジタル化しているケースは少ないように思います。本ツールの「紙をめくって情報を得る」というアナログならではの体験が、学生の皆さまの記憶に残ってくれることを願っています。