グラフィックの可能性を印刷で探るポスター展『グラフィックトライアル2020-BATON-』が4月24日(土)からスタートしています。クリエイターが手掛けた作品と並んで目を引くのは、会場に入ってすぐの壁に投影された当展覧会のドキュメンタリー映像。参加クリエイターの真剣なまなざしを捉えたインタビューや制作風景に、思わず見入ってしまいます。今回は、この見ごたえあるドキュメンタリー映像やプレス映像のディレクションを手掛けた中村雅也の「クリエイティブストーリー」をご紹介します。

撮影での“伝える力”に長けた、マルチプレーヤー

 フォトグラファーとして、大手カメラメーカーの商品プロモーションやコマーシャルフォトを担当してきた中村。2010年頃からはデジタル一眼レフカメラを使った動画撮影も手掛けるようになり、さまざまな分野で静止画・動画を問わず活動しています。

 中村の大きな特徴は、ディレクターとしても優れたスキルを持っている点です。撮影対象や撮影目的への深い理解、豊富な撮影知識、そして持ち前のコミュニケーション力を土台に、クライアントが求める作品を自ら提案するのは中村ならでは。この“伝える力”が評判を呼び、本業の他に長岡造形大学で非常勤講師を務めるほか、雑誌『コマーシャル・フォト』(⽞光社刊・2021年4月号)での記事執筆などの実績もあります。

SONY α7SⅢ解析特集
 (株)玄光社 コマーシャル・フォト 2021年4月号
カメラの性能を訴求するための撮影を行い、特集として企画立案、撮影テキストを執筆

 そんな中村がグラフィックトライアルの図録用写真やインタビュー映像を担当するようになったのは2016年から。今回ご紹介するのは、2019年から制作が始まった、展覧会の告知・集客を目的としたプレス映像およびメイキング・ムービー風のドキュメンタリー映像です。

目的を深く正しく理解することで、最適解を導き出す

 まずプレス映像については、何より“映像を見た人に興味を抱かせる”ことが重要です。制作にあたり、中村も「インパクトを重視してディレクションを行った」と話します。画面に映し出されるのは、輪転機が稼働する印刷現場の風景。機械の稼働音だけがひたすら鳴り響く力強い映像に、一気に引き込まれます。特別な演出を加えないことで、印刷機の迫力、インキの重厚感、そして印刷現場のにおいまで漂いそうな臨場感がもたらされ、まるで映画の予告編を見たときのような期待感が醸成されます。

グラフィックトライアル2020 プレス映像
映像内では、グラフィックトライアル2020のメインビジュアル(佐藤卓氏によるデザイン)から抽出された要素が
効果的に散りばめられている

 一方のドキュメンタリー映像は、展覧会に参加した5人のクリエイターのインタビューと制作風景から構成されています。制作の依頼を受けたとき、中村は「各クリエイターの制作にかける想いや、プリンティングディレクターの役割、グラフィックトライアルの魅力を、来館いただいた方にさらにお伝えできる内容にしたい」と考えました。見る人からすれば、インタビューを聞くだけでなく、実際の制作現場を見たほうが理解は深まります。そこでクリエイターのインタビュー映像以外にも、打ち合わせや印刷の仕上がりを確認するシーンを随所にインサートすることにしました。

 「各クリエイターの方の表情もしっかりと描写したかったので、撮影場所の背景や照明、小物など事前に入念なリサーチを行い、ベストなセットと機材(レンズ、照明など)をチョイスできるよう心がけました。」

 そう中村が語るように、ドキュメンタリー映像では事前準備にも多くの時間と労力を費やしています。その結果、クリエイターの真剣なまなざしやプリンティングディレクターとのやりとりなど、現場の熱量が一つのストーリーとしてまとめられ、心を打つ作品に仕上がりました。

グラフィックトライアル2020 ドキュメンタリー映像

クリエイターの魅力を伝える、 “裏方クリエイター”

 惜しくもコロナ禍での開催となった今回のグラフィックトライアルですが、会場に足を運ばなくても展示を体感できるよう、オンライン上のバーチャルギャラリーをオープンしたり、YouTubeでドキュメンタリー動画を公開したりと、さまざまな工夫が凝らされています。そうしたなかで、作品や裏側のストーリーを臨場感とともに伝えられる映像の役割は、これまで以上に重要になっています。またSNSで情報が拡散される現代では、短い映像で効果的に人を惹きつける今回のプレス映像のような動画も欠かせません。

 伝える力を十分に持った作品をつくる中村は、グラフィックトライアルにとってなくてはならない“もう一人のクリエイター”。展覧会を見る際には、そうしたつくり手の存在にも、ぜひ目を向けてみてください。

EXHIBITION INFORMATION

『グラフィックトライアル2020 -BATON-』

会期:2021年4月24日(土)~8月1日(日)
会場:印刷博物館P&Pギャラリー(東京都文京区水道1-3-3 トッパン小石川ビル)
時間:10:00~18:00
休館日:毎週月曜日(ただし5月3日は開館)、5月6日
入場料:無料(印刷博物館本展示場へご入場の際は入場料が必要となります)※事前予約制

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PRODUCT INFORMATION

グラフィックトライアル2020‐BATON‐
制作ドキュメンタリー映像 プレス映像

印刷博物館 グラフィックトライアル2020
映像/2021年

映像ディレクション:中村雅也

STAFF’S COMMENTS

フォトグラファー、ディレクター 中村雅也

今回のグラフィックトライアルもクリエイターの熱い想いがぎっしりと詰まった作品が完成いたしました。作品からでもその想いは十分伝わってまいりますが、その作品理解の一助としまして映像を手掛けさせていただきましたので、お時間のある方はぜひご覧ください。これからも印刷の面白さを映像を通して追求し続けてまいります。