通販ファッションカタログのこれから。
オフラインとオンラインを行き来するブランド体験の場を追求。

　ＥＣサイトが主流になりつつある通販業界。紙媒体を持つ通販ブランドはその付加価値が見直され始めています。今回は、DINOS CORPORATIONさんの通販ファッションカタログ「So close,」をより魅力的にリニューアルし、新たな顧客拡大を目指した事例を取り上げます。紙媒体の付加価値とは？ 従来のカタログをどのように進化させるか？　デジタル上でのコミュニケーションは？ 数々の課題に対し、トッパンのディレクター柳瀬征央と太田千香子が手がけたリニューアル案をご紹介します。

　媒体の全面リニューアル、かつ年間制作となる大規模案件。まず初めに行ったのは、過去に「So close,」で商品を複数回購入したことがあるお客さまを集めてのグループインタビューです。このとき最も大切にしたのは、リアルなユーザーの声を聞き、制作側だけの思い込みで制作しないということ。インタビューで得られたご意見を、改善のヒントとして取り入れることからスタートしました。

　そのなかでも強くこだわったのは、カタログ誌面の台割構成です。世の中に女性ファッション誌が多数存在するように、ファッションテイストは細分化されています。しかし従来のカタログは、1冊のなかにさまざまなテイストが混在していたので、全体的にやや雑多な印象がありました。

　そこで今回は、テイストごとにわかりやすくページを分けた上で、各テイストに合った洋服やモデル、写真の雰囲気にこだわり、この１冊でさまざまなファッション誌を一気に見たようなお得感のある誌面づくりを心掛けました。

　「今回DINOS CORPORATIONさんからご依頼いただいたのは、2017年に創刊した『So close,』のリニューアルです。媒体のターゲット像を象徴するカバーモデルの選定は、リニューアルのポイントでもありました。」そう語るのは、ディレクターを務めた柳瀬。

　モデルの選定にあたり、3か月間にわたってクライアントへのヒアリングを重ね、ターゲット像のイメージを絞り込んでいきました。フェミニン・エレガント、進化系ベーシック、大人カジュアルなど、さまざまなファッションテイストを横断できるモデルを年齢別にマッピング。練りに練った結果、表紙モデルには数々のファッション誌で活躍してきたモデル・女優の山田優さんを起用し、リニューアル感を強くアピールしました。

　「さまざまな服を着こなし、自分を輝かせる仕事を精力的に続け、まさに多面的な魅力を持つ女性像にぴったりでした。カバーや巻頭などブランドを代表する象徴として提案させていただきました。」と語る太田。

　さらに中面に登場するモデルには、クライアントがベンチマークしているファッション誌で実際に活躍しているモデルたちを起用。複数の雑誌をミックスしたような、ジャンル横断型の仕上がりになり、幅広い層に訴求ができたと思います。

　今回のリニューアルでは、紙媒体の制作だけでなくECサイトのデザインやサイト内のコンテンツ、スペシャルムービーの企画制作と、あらゆる媒体へ制作が展開されました。DINOS CORPORATIONさんが数多くのファッションブランドを手がけるなかで、特に「So close,」の認知を広めるという課題がありましたので、広告・宣伝にも力を入れています。SHIBUYA109フォーラムビジョンでの告知のほか、フジテレビの番組でも紹介。その他TV放映用やYouTubeのCM、インスタグラム用のイメージ動画など、さまざまな告知動画をトッパンで企画・制作し、認知拡大に努めました。

　購入を促進する仕掛けは、カタログだけでなくWEBにも盛り込んでいます。カタログユーザーの購買行動では、カタログをパラパラと眺めて「いいな」と思ったらＥＣの商品詳細ページに行き、素材の質感や在庫数、口コミなどの細かい情報をチェックするケースが多く見られます。そこで、ＥＣで見られる商品の魅力をさらに充実させ、購買への後押しになるよう工夫しました。

　その一つが、「着用イメージの360度動画」です。通販では、試着できないことが大きなネック。その悩みを解消するため、商品の質感や透け感、バックスタイル、着こなしのバリエーションなどが全方位から見られる動画を提案しました。

　さらには「載っているコーディネートを丸ごと買うことは少ない」というご意見があったので、1点購入ではなく複数購入を促すコンテンツを盛り込みました。

　紙媒体の制作から校了までを事故無くスムーズに行うために、色校正の出し戻しをオンライン化したり、クラウドサーバーを導入しています。今回は、トッパンのソリューションの一つである【TPO（トッパンプリントオンライン）】の活用を実施。クライアントのご担当者が複数いらっしゃっても、ご自宅から赤字をオンライン上の校正紙に記入することができたので、とても効率アップにつながり、お客さまに喜んでいただけました。

　誌面のクオリティに対しても高い評価をいただき、年に１度開催される優秀なカタログを顕彰するコンクール、第62回全国カタログ展では銀賞を受賞することができました。