コロナの影響により1年間延期していた、『グラフィックトライアル2020-BATON-』が2021年4月24日(土)からいよいよスタートします!今回は、この展示に社内クリエイターとして参加したフォトグラファー市川知宏をご紹介いたします。

グラフィックトライアルとは

トップクリエイターとトッパンが協力して新しい印刷表現を探る企画展です。色数、用紙、インキ等に制限をつけず、究極の色再現やリアルな質感表現を印刷の技術力で最大限まで引き出すことで、印刷が持つ豊かな表現の可能性を追求します。展覧会ではポスター作品と実験プロセスを展示、印刷の魅力をわかりやすくお伝えします。

 グラフィックトライアル2020には幅広い分野で活躍されている著名なクリエイター、佐藤卓さん、野老朝雄さん、上西祐理さん、アーロン・ニエさんが参加。この企画には毎年トッパンの社員1名が参加しており、今回は市川が5人目のクリエイターとして加わることになりました。
 市川は、特にプロダクト製品の撮影を得意とするフォトグラファーとして長年活躍しています。『ブリヂストンカレンダー2019』では、ライティング技術を巧みに操り、タイヤの表情や質感を際立たせてクオリティの高いビジュアルを撮影。その写真が評価され、欧州最大のカレンダー展「グレゴール・カレンダーアワード2019」では、写真技術の独創性に優れたものに与えられる「フォトカレンダー賞」を受賞しました。ストイックにビジュアルを追い求めてつくりこむ姿勢から、テクニカルな撮影が求められる場面で数多くの指名を受けているフォトグラファーです。

暗闇から浮かび上がるように撮影されたタイヤは、ずっしりと質量を感じるような圧倒的な存在感を見せている。
第70回全国カレンダー展/経済産業省商務情報政策局⻑賞、
グレゴール・カレンダーアワード2019/フォトカレンダー賞受賞

タイヤに映りこんだ赤や青は画像加工ではなくライティングによるもの。
タイヤの凹凸などの表情を丁寧に捉えながら、ドラマチックで斬新な見せ方に成功している。
Graphis Poster Annual 2020/Gold & Silver受賞

 『ブリヂストンカレンダー2019』のADを手掛けたのは同じく凸版の青柳雅博。青柳は、2020年のカレンダー作品でも数多く受賞しています。
『ブリヂストンカレンダー2020』についての記事はこちら→タイヤに隠された職人の技術を見せる

印刷会社のフォトグラファーならではの着眼点で、新しい写真表現に挑戦

 グラフィックトライアル2020のポスターで表現したのは、モノクロームの工具から滲みだしたような美しい幻想的な光です。実はこの不思議な光は、画像合成やエフェクトでつくりだされたものではありません。

 彼は印刷会社のフォトグラファーとして、普段は印刷の素材となる写真を撮影しています。撮影したRGBデータは印刷のためのCMYKデータに置き換えられ、さらに網点に変換されることによって、撮影データの持つ本来の色や調子は圧縮されてしまいます。しかしこのトライアルでは、その変化をネガティブに捉えるのではなく、CMYKへの変換が前提の作品づくりと捉えることで、印刷物ならではの新しい写真表現ができるのではないかと考えました。
 今回のアイデアは、光のコントロールによって色やトーンを微妙に変えて撮影したデータを集め、「光のゆらぎ」を生み出すというものでした。まずピントの幅、ライティングの光の量の調整など、撮影技術を駆使して同じアングルの画像の様々な光のパターンを集めます。それをCMYKの4色に分版し、光のパターンが違う版を組み合わせると、本来は見えないはずの色が現れます。画像のシアン版(C)、マゼンタ版(M)、イエロー版(Y)、スミ版(K)の4つの版のバランスを崩した結果が色となって現れたのです。印刷するまで、光のゆらぎがどのように現れるかは誰にも想像できません。その可能性を探るため、今回のポスター制作のために候補素材として撮り下ろした写真は、なんと300枚以上でした。

写真というBATONを後工程につないで完成させる

 印刷物の素材である写真そのものを今年のテーマであるBATONとして解釈し、フォトグラファーからアートディレクター、そしてその先のプリンティングディレクターへとつないだ市川。光をどう捉え、コントロールしていくかを常に意識しているフォトグラファーならではの作品が完成しました。実物のポスターは、グロスニスやマットニスなどの質感を加え、印刷物としての魅力を引き出した力強い作品となっています。

グラフィックトライアル2020ではバーチャルギャラリーやオンライントークなど、その他様々な企画をご用意しております。他のクリエイターの方々の作品も合わせて、ぜひチェックしてみてください!

EXHIBITION INFORMATION

『グラフィックトライアル2020 -BATON-』

会期:2021年4月24日(土)~8月1日(日)
会場:印刷博物館P&Pギャラリー(東京都文京区水道1-3-3 トッパン小石川ビル)
時間:10:00~18:00
休館日:毎週月曜日(ただし5月3日は開館)、5月6日
入場料:無料(印刷博物館本展示場へご入場の際は入場料が必要となります)※事前予約制

グラフィックトライアル2020特設サイトはこちら >

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PRODUCT INFORMATION

グラフィックトライアル2020‐BATON
印刷博物館
ポスター/2021年

フォトグラファー:市川知宏
アートディレクター:青柳雅博
プリンティングディレクター:高本晃宏

STAFF’S COMMENTS

フォトグラファー 市川知宏

今回のトライアルのプロセスはいたって単純なものです。ただ刷ってみないと変換の効果が正しく表れないので、先に4色の素材を集めることに注力しました。被写界深度を変えていくと、光の揺らぎも変わっていきます。どの版がどう揺らいでいるか見ていくと面白いと思います。