優しい色合いで描かれた魚のイラストが目を惹く冊子。ページを開いてみると、色鮮やかな美しい料理の数々が目に飛び込んできます。横浜魚市場卸協同組合が、魚食文化発展への熱い思いを込めて制作したレシピブックです。今回は、この素敵なレシピブックのアートディレクションを担当したディレクター古澤智子をご紹介します。

横浜市中央卸売市場の様子

一番良い状態で出荷するために
何年もかけて育てあげた魚を諦める無念

 横浜駅から徒歩15分ほどにある横浜市中央卸売市場では、全国から集まる水産物を見極め、それぞれのお店の好みに合わせた旬な食材を届けています。しかし、新型コロナウイルスの影響により、注文が激減。国内各地で魚介類を育ててきた生産者が経営存続の危機に瀕していました。

 この非常事態をなんとかしたいという思いから「一人でも多くの方に国産魚の魅力を届けたい」と今回のレシピブックの企画が立ち上がります。

 古澤はこのプロジェクトに、レシピブック全体のアートディレクションを手がける総合ディレクターとして参加。横浜魚市場卸協同組合の方々、生産者の皆さんと、レシピブックにどんな要素を入れるか何度も話し合いを重ね、内容・構成・ビジュアルを考えていきました。

 レシピでは、横浜ガストロノミ協議会ご協力のもと、横浜を代表するシェフ11名が腕をふるって考案したレシピを紹介しています。家庭でも挑戦したくなるような、魚を使ったおしゃれな料理が誌面に並び、シェフが実際に調理しているレシピ動画も公開されています。

横浜ガストロノミ協議会×横浜魚市場卸協同組合
LOVE & FISH Chefs Interview

横浜魚市場のコロナ禍での取り組みと、それに賛同した横浜を代表するシェフたちの熱い思いを取り上げた映像。市場の魚介を使用してレシピ開発をしたシェフへのインタビューとなっており、魚介の印象についてやレシピのポイントを紹介。市場の目利きと技、シェフの腕によって食文化をつなげていくことを伝える動画となっている。
企画・構成・撮影:凸版印刷 小宮広嗣

おいしさの理由を紐解く“ 読みもの ”で
生産者とわたしたちをつなぐ

 コラム『おいしさの秘密に迫る』では、歳月をかけて丁寧に育てられた海産物や、生産者が教えるおいしい食べ方の豆知識などを掲載しています。古澤は生産者のリアルな声を聞くために静岡県の漁場を訪れ、「富士山サーモン」について取材。富士山麓の湧き水で育てられたニジマスは、身が引き締まっていて歯ごたえがあり、実際に食べた古澤はそのおいしさに驚いたそうです。
 コロナ禍により行けなかった地域については、都内の水産商社や漁業協同組合連合会など、生産者と協業している担当者のもとへ取材に伺い、記事を作成しました。

SDGsのひとつ「海の豊かさを守ろう」の実現に向けて

 「養殖漁業は、天然魚の漁獲量を抑えて未来の海を守ることにもつながります。コラムでは、そういったSDGsの観点や漁場で守られている美しい環境や、一流シェフも絶賛するほどのおいしさにつながる養殖技術を伝えるために、一般の方に楽しんで読んでもらえるような工夫が必要でした。専門的な文章になりすぎないよう調整し、イラストや写真を取り入れながら、読みものとして面白く興味が湧くような誌面に落とし込んでいます。」と古澤。

 このレシピブックは、わたしたち生活者に届きにくい生産者の思いに触れながら、養殖漁業の環境に対する取り組みについても知識を深められる一冊となっています。横浜市役所や図書館、横浜市内のレストランなどに置かれていますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

 また、レシピブック制作に協力いただいたシェフのレストラン11店舗にて、横浜市場の魚介を使った特別メニューをお楽しみいただける『横浜市場フェア』(*)も開催される予定です。この機会に新鮮な魚介をお楽しみください!

*『横浜市場フェア』は新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止のため変更になる場合がございます。
開催の状況は横浜魚市場卸協同組合のWEBサイトをご確認ください。

詳細はこちら(4月12日以降公開)

PRODUCT INFORMATION

LOVE & FISH 料理長が作った特別レシピ22品
横浜魚市場卸協同組合
レシピブック/2021年

ディレクター:古澤智子
フォトグラファー:小宮広嗣

STAFF’S COMMENTS

ディレクター 古澤智子

コロナの影響により打撃を受けている状況下でも、生産者・飲食店・卸業者の方々が「消費者へおいしい食材を提供したい」という思いで一致団結し、素敵なレシピブックが完成しました。この冊子が多くの方の手に渡り、お料理を楽しんでいただきながら、持続可能な水産業への理解を深めるきっかけにもなれば嬉しいです。