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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

ルネッサンス ジェネレーション '03を振り返って

ex1 タナカノリユキ

1997年にスタートしたショウイング・プロジェクト「ルネッサンス ジェネレーション」は、現代社会がもっともアクチュアルにコミットするテーマでインパクトを与えて続けてきた。[リアリティ・ザッピング:同時多発TV]をテーマに掲げた今回は、メディアと人間の認識の関係を探り、リアルとヴァーチャルの現在形を探ろうという試み。下條信輔氏とともに監修を務めるタナカノリユキは何を発見し、何を感じ取ったのだろうか。

「ルネッサンス ジェネレーション '03を振り返って」

 今回のルネッサンス ジェネレーションは「リアリティ・ザッピング:同時多発TV」というテーマでしたが、このテーマはそもそもどういう関心から出てきたのでしょう。

 ルネッサンス ジェネレーションは1997年からスタートしたのですが、今でこそアートアンドサイエンスという言葉が流通してきたり、エンジニアとデザイナーの仕事が一体になったりする動きが出てきましたが、当時はまだそういうことが非常に少なかった。そんななかで僕と下條信輔さんが、アーティストやデザイナー、研究者といった人たちと集まって、共通のテーマでワークショップやディスカッションやパフォーマンスができる場を求めたのが始まりだったわけです。
 ルネッサンス ジェネレーション全体を貫くものとしては、「未来身体」というテーマを我々は持ち続けてきました。その一環として、これまでも、そのときの社会事象を反映させたテーマをもとに「未来身体」を考えてきたわけですが、今回は「9・11」以降の世界、とくにアメリカと中東で起きている出来事とメディアの関係について考えてみたかった。これはおそらく我々だけではなく、多くの人が「9・11」以降色々な場で語り合ってきたテーマでもあったでしょう。だから、会場を訪れた人たちの関心も高かったと思います。

 今回、中東を中心とした国際政治について多く発言されている田中宇さんが参加されたのは、そういう意味があったわけですね。

 そうです。ただ僕たちは、現実に起きていることについて正しいとか正しくないとか、真実か嘘か、あるいは好き・嫌いという話にはしたくなかったわけです。むしろそういう好き・嫌いのようなものが何に由来するのか、正しいとはどういうことか、そもそも真実とは何か、ということから考えたかった。
 だから発光体として光の周波を送りだしているテレビという装置が人間の身体にどういう影響を及ぼしているのか、そしてそこに発生する心理学的な問題や、人間が情報をどのように処理しているかという認知科学的なことも含めて、広く人間とテレビを中心としたメディアや情報の関係について話してくれる人も重要だったわけです。
 もちろん田中さんの話も非常に興味深かったのですが、それと一緒に市川さんや金沢さん、下條さんの話を聞くことによって、聴衆の興味もより深まったのではないでしょうか。

 タナカさんは司会進行役のような立場でしたが、とくに興味を惹かれたお話はなんでしたか。

 過去には心の理論や記憶や時間をテーマにしたレクチャーで、これは難しいなあと感じるものも正直いってありましたが、毎回基本的には僕と下條さんの興味をストレートに出しているので、分からないなりに僕自身が聴衆のひとりとなって興味深く聞いてました。でも、今回はどれも非常に分かりやすかったですね。
 あえて言えば、我々の直感的な判断に確率の考え方を持ち込んだ市川さんのお話や、真実は戦争の現場よりもホワイトハウスのなかにあるかもしれない、といった田中宇さんのお話は非常に興味深かったですね。毎回そんなふうに、自分と違った見方、考え方に接して、なにか新しい気付きを得るのが楽しい。
 今回はさまざまな話から、真実とは何かとか真実はどこにあるということではなく、一旦「真実はないんだ」と考えてみるほうがいいという気付きが得られたのではないでしょうか。テレビにしてもインターネットにしても、情報というのは常に「誰か」の見方からの情報なわけです。また仮にその場で事件そのものを見たとしても、それが真実とも決して言えない。つまり見たものしか信じない、という考え方すら危ういわけです。
 ただ現在は、情報の量は膨大にあります。そこから、一つひとつの情報は一切信じずに、ひたすらザッピングを重ね、その量から相対的に読み込んでいく、という方法論が出てくるわけです。

 アートやデザインとサイエンスの融合の場を求められたということでしたが、例えばそれはゲーム制作のようなものでしょうか。

 そういうことばかりではないでしょう。例えば車という空間ひとつでも、デザインや音響が機能と分かち難く結びついているし、携帯電話というメディアは我々の生活空間を大きく変えようとしている。いま携帯(電話)のコミュニケーションを考えるデザイナーがやろうとしていることは、一昔前なら都市計画にも匹敵するようなパワーと影響力があります。

メディアが変わると生活空間が変わるということですか。

 というよりも、メディアが増えると我々の生活空間や社会の成り立ちが変わってくる、といった方が正しいと思います。僕はメディアが変化しているというよりも、多様になってきているのだと考えています。そしてそれによって、新しい感性や感じ方、あるいは身体が登場しているのではないでしょうか。
 宇宙で暮らすとか海底に住むなどということがない限り、人間の生活空間はそんなに極端には変わりません。だから現在のようなメディアの多様化による生活空間の変容というのは、人間にとって非常に大きな変化だと思います。
 例えば、かつてルネッサンス ジェネレーションで「中毒」というテーマをやったことがあるのですが、これもいまや薬 や嗜好品ばかりではなく、携帯電話中毒やテレビゲーム中毒のようなものがある。これなどは新しいメディアの登場が、そうさせているわけです。
 そのことは、実は「未来身体」というルネッサンス ジェネレーションの一貫したテーマともつながることです。つまり、本来自然物である身体さえも、メディアによって変容しようとしている。僕はその変容を見ていきたい。

 お仕事のことをうかがいます。いまタナカさんがCMなどを制作されている「ユニクロ」は、非常にメッセージ性の強い企業ですが、それをどのように伝えようとされていますか。

 非常にざっくりした言い方をすると、それは「伝えよう」ではなく、「伝わるようにする」ということですね。伝えようとすると、つい言葉を多く並べたり、ユーザーの想像力を見下した表現になったりしてかえって伝わらない。だから「伝えよう」からは離れた方がいい。でも、これは非常に難しいことではあります。
 もともと僕はアートをやっていた人間で、自分でも広告の仕事は無理だと思っていたし、周囲からもそう見られていたと思います。でも、たまたまそういう人間にやらせみようと考えたナイキのような海外の仕事から広告の世界に入って、クリエイティブを社会に対する応用編のような形でやっているわけです。それで、自分のアートの世界も面白くなってきた部分がありますね。

タナカノリユキ
1985年東京芸術大学大学院美術研究科修了。グラフィック、空間造形、映像、パフォーマンスと様々なヴィジュアル表現を駆使して活躍するアーティスト。国内外での展覧会、プロジェクト、コラボレーションによるアートワーク、ミュージッククリップ、CMの演出、アートディレクション、クリエイティブディレクションなど、幅広い活動を国際的に行っている。ADC、TDC他受賞多数。著書に『LAST DECADE 1989〜1999』(用美社)、『PAGES』(光琳社出版)『タナカノリユキの仕事と周辺』(六曜社)など。

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