TOPPAN 凸版印刷株式会社

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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

企業と人をつなぐデザインの力

13 柏本郷司

柏本郷司氏は、国際的なポスターのコンペティションで数々の受賞歴を持つデザイナー/アートディレクターの顔を持つ一方、(株)リクルートに所属しコーポレート・デザインやプロモーションに関わるさまざまな活動を展開している。この振幅の大きさは、そのまま表現者としての柏本氏の幅を示しているようだ。

第1話 「採用広告で培ったブランディング感覚」

ディレクターとして、デザイナーとして

 僕が今手がけている仕事は大きく3つに分けられます。ひとつはポスターやロゴマークなどをデザインするいわゆるデザイナー。
 次に「ブランドマネジメント室コーポレートデザイン担当」という役割で、リクルートという企業全体のブランディングを表現の立場から考え、実行する仕事。
 もうひとつ、今、一番軸足を置いているのが「マーケティング局クリエイティブセンター」という部署での仕事です。これはブランディングをふまえた上で、リクルート全商品のデザイン・マネジメントに関わる仕事で、具体的には各商品ごとの広告コミュニケーションやプロモーション全般を考えています。

リクルートとの出会い

 大学4年からリクルートの北陸支社でアルバイトをはじめたことが縁で、就職することになりました。
 クリエイター配属で入社しましたが、最初は営業の研修を受けました。電話でアポを取り、訪問して採用のための媒体を買っていただくという仕事です。横浜支社に配属になって、横浜には技術系の中小企業が多いのですが、訪問すると僕の父親と同じくらいの年代の役員の方や、場合によっては社長さんが、自分の会社の技術の話を熱く語ってくれるのです。そういう話を聞くのは楽しくて、1カ月半くらいで研修を終えました。
 これで制作に戻れると思っていたら、横浜支社で出版するという400ページものボリュームの本の進行管理をまかされてしまいました。
 何も知らない新人には荷の重いボリュームでしたが、後から考えるといい経験だったと思います。この機会がなかったら印刷の現場に行ったり、きちんと学んだりするチャンスはなかったでしょう。
 営業を経験し、モノを作ってカタチにするためにはいろんな過程があって、どういう風にお金がかかるのかが新人時代によくわかった。後々の大きな財産になりました。

採用広告を作り続けた10年間

 制作に戻ってからは「B-ing」や「とらばーゆ」などの求人誌に掲載する採用広告や入社案内などを作るようになりました。採用広告は応募の人数などで効果がダイレクトに見えるし、広告の良し悪しがその会社の将来を左右してしまう。ある意味、一般的な広告よりもシビアな世界です。
 そんな世界でモノを作り続けてきて、最終的には大手企業や自社の採用ツールを手がけるようになりました。
 こういう環境で育ってきたことは、僕のモノづくりのひとつの特色になっていると思います。それは人の心の動きや機微を基準に考えるところ。10年間、ずっと人と企業のことを結び付けて考え、広告を作ってきたのです。
 そのうちに、「フロムA」などのリニューアルに際してのアート・ディレクションをはじめ、採用広告だけでなく自社の商品をどうするかというところに関わるようになり、1999年にブランディングの話が立ち上がってからは、自社のコーポレート・コミュニケーションに深く関わることになりました。
 実は採用というのはブランディングと大きな関係があります。「エントリー・マネジメント」という概念がありますが、どんな人を採用するかで企業の風土や文化というのは変わってしまう。その意味では僕は採用広告を作りながらブランディングのセンスも学んでいたのかもしれないですね。

リクルートのブランド再構築

 リクルートにとって大きなダメージのあった「リクルート事件」からある程度の時間が経過していたのに「リクルート=事件」というイメージを持たれる方はまだ大勢いらしゃいました。カモメマークやロゴタイプを見ると事件を思い出すという人がいらしたのです。特にリクルートの商品がない地方に行けば行くほどその傾向は強かった。つまり、リクルートからの新しい情報が、彼らにはまったく届いていないということになります。
 これを裏付けるような調査結果も出ていました。「じゃらん」や「ゼクシィ」など、求人系でない商品については、発行元がリクルートだということを知らない方もたくさんいたのです。
 21世紀を迎え、リクルートが事業活動の新しい基盤作りを進めていく中で、これは重要なテーマとなりました。
 たとえばコップの中にインクが入っているとします。新しい水が入ってこないとインクは薄まりません。どんどん水が入れば、つまり新しい情報が届いていけば事件の印象も薄まるはずです。この仕組みをどのように作っていくかがリクルートのブランドマネジメントの最優先課題でした。

古いロゴとの訣別。そして新しいロゴを作る

 リクルートの先代のロゴタイプやカモメマークは故亀倉雄策先生が作られたもので、我々には社会的財産ともいえる大切なものでした。でも負のイメージが付着しているなら訣別しようと、当時の経営ボートが苦渋の決断を下し、新しいロゴを作ることになりました。
 亀倉先生の作られたものに変わるものを、どうやって創り出すのかということも大きな問題でしたが、僕はデザイナーだった亀倉先生が作られたものだから、新しいロゴもデザイナーが作るべきだと考えました。リクルートにはデザインを大切にする伝統があったからです。
 僕自身もデザイナーとして自分で作りたかったけれど、ジャッジをしなければならない立場でした。
 ということでブランドマネジメント室内で検討を重ねて、5人のデザイナーの方に声をかけさせていただき、その中からサンアドの永倉智彦さんの案を採用させていただきました。伸びやかで、主張があって、いいロゴができたと思っています。

デザインを大切にする伝統

 僕が今やっていることは、このロゴのリニューアルに象徴されるところがあるのかもしれないとも感じています。リクルートには亀倉先生というデザイン界におけるフラッグがいらして、商品がデビューするときには、長友啓典さんや青葉益輝さんをはじめ、そうそうたる方たちが表紙のデザインを手がけられていました。
 それを、時代の変化に合わせて、商品のリニューアルや新商品のデビューに際して、新しいデザイナーを起用しているのです。
 デザインを、デザイナーを大事にする伝統はこれからも守っていきたい。世の中的にもデザインの重要性が語られるようになっています。リクルートのこの伝統はこれからの大きな強みにもなっていくだろうと思います。

柏本郷司
クリエイティブディレクター/アートディレクター/グラフィックデザイナー
1960年滋賀生まれ。85年金沢美術工芸大学卒。同年株式会社リクルート入社。アートディレクターとして、リクルートはもちろんIBMや新日鉄、JR東海などの採用広告を手がける。98年より、クリエイティブディレクターとしてリクルートの出版物やウェブサイト"ISIZE"に携わる。2000年よりリクルートのコーポレートデザインを担当し、現在は同社全商品のデザインとプロモーション制作に関わっている。
NYADC、東京TDC、JAGDA会員。
主な受賞に、94、96、98、99〜02年NYADC Merit Award、98年ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞、99〜02年東京TDC Merit Award、02、04年ブルーノ国際グラフィックデザインビエンナーレMerit Award、03年ラヒチポスタービエンナーレ銀賞等多数あり。

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