TOPPAN 凸版印刷株式会社

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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

自然体のデザイン。

16 有山達也

「人に興味がある、人がおもしろい」と語る有山氏は、手がける雑誌などで取り上げる対象(=人)と同じように、ともに制作に携わるスタッフにも真剣な眼差しを向ける。アートディレクションの方法がそのままチームとしてのモチベーションアップにつながる手法は、チームワークが重要なエディトリアルの仕事の中で磨かれたオリジナルなものといえるだろう。

第1話 「チームワーク」

『ゆめみらい』の経験で確立した方法

 本の中身にタッチしながらアートディレクションを進めていくやり方は、2000年から手がけた進研ゼミ(ベネッセコーポレーション)の保護者向けの季刊広報誌『ゆめみらい』で明確になってきました。
 この本は会社の方針と編集部の目指す方向に最初から少しずれがあり、会社側は保護者が求めているのは具体的な指針だと考え、調査をしてその答えを掲載しようとしていたのに対し、編集部や僕はデータを提示するよりも読み物としておもしろいものにしたいと考えていたんです。
 アンケートの結果みたいな、大ざっぱな答えを提示するよりも、ひとつの家庭の事例を丁寧に取り上げることで、読んだ人たちに少しでも何かが残ればいいなと。
 この仕事は、とにかく編集者ひとりひとりにいい雑誌にしたいという気持ちがあって、それは僕にとってすごく大きなことでした。
 編集者の何がしたい、どうやりたいということがまず先にあって、それをより良く見せてあげる方法を考えるのが僕の役割になったし、そこからさらにもう一歩踏み込んで、こうしたらもっと良くなるんじゃないか、よりよく伝わるんじゃないかって、中身のことまで考えて提案することもやり始めました。
 それに、仕事をうまく進めていくためのノウハウもいろいろと見つけることができたと思います。たとえば会社の意向や思惑に対して、自分たちの納得できる落としどころをどう見つけていくかを考えるようになりました。『ゆめみらい』は広報誌だから、会社側にはいろいろと言いたいこと、やりたいことがあるのは当然ですよね。そこをクリアしながら、なおかつ自分たちも納得できる落としどころを見つけていかないと、なかなかモチベーションも上がらない。そうなると結果的にいい雑誌にはならないわけです。
 この『ゆめみらい』で確立されたアートディレクションのスタイルは、その後の『ku:nel』につながっています。

『ku:nel』成功への軌跡

 編集長の岡戸絹枝さんが『ku:nel』のアートディレクションの依頼にいらした時に、僕は従来のマガジンハウスの手法である、見開き単位で短く記事が完結していくような雑誌はやりたくないと言いました。『ゆめみらい』の時のように、ひとりの人やひとつの事例を 10〜20ページくらいのボリュームで追いかけていくものにしたいと思ったんです。
 なぜひとりの人を取り上げることにこだわったのかというと、いくらモノ寄りの雑誌といっても、モノを作るのも使うのも人なのだから、人を掘り下げたかったんです。そうなるとどうしてもある程度のページボリュームが必要で、だから小間切れみたいな雑誌はやりたくなかったんです。そういう雑誌は他にもたくさんあるわけだし、僕がやるなら違うものにしたかった。同じような気持ちは岡戸さんにもあったと思います。でもそんなマーケットがあるとは雑誌が売れるまではわからなかったんですね。

キャスティングというディレクションの方法

 現在の『ku:nel』での僕の仕事は企画と取材内容を編集者から聞いて、カメラマンを誰にするか決めたり、全体を見ながら「ここのカメラマンがこの人だからこっちはこの人にしよう」というようにバランスを取っていく、キャスティングとコーディネーションをするような役割ですね。
 そして、キャスティングするだけしたら、あとは基本的にはカメラマンに任せてしまいます。あまり細かな指示は出さずに、こちらの要求に対して、カメラマンがどう撮りたいと考えたのか、そこをミックスして、上がってきた写真を見ながらより良く誌面を仕上げていきます。
 そのスタンスはイラストレーターなどを起用する時も一緒。仕事って相手をどう思っているかがすごく大きい。僕もいただいた仕事は「この人のためにがんばろう」っていう気持ちで取り組んできたし、そういうベースを共有できていないと、一緒に気持ち良く仕事はできないですよね。
 たとえば僕の指示に対してイラストレーターなりカメラマンが「それならこうした方がもっといい」って返してきてくれると嬉しい。やらされているというより、自分から考えて動いてくれると、一緒に作っている感じになるじゃないですか。
 ディレクションってすごく人柄が出る仕事だと思います。僕はスタッフ全員をチームとして考えて、そのバランスを取りつつ、時には自分で飽きないように少しバランスを変えたりしながら、風通しのいい環境を作っていくやり方が、今の僕には合っていると思っています。

素材の良さを活かす誌面デザイン

 『ku:nel』の誌面デザインはとりたてて特別なことは考えていません。ボリュームのあるテキストをいかに読みやすくするかということを優先していって、自然にできたものです。読みやすさの基準はあくまで自分。自分が気持ちよくページをめくれるカタチを作っていった結果が、あのようなデザインになっています。
 写真も変に加工するのではなく、いい写真が撮れたらそれをはめるだけでいい。いい記事といい写真があれば、特にデザインしなくてもいいわけで、そのためのディレクションをしているつもりですから。できるだけデザインしたという痕跡を残さないようにしたいなと思っています。
 それから、写真は写真でストーリーがあって、必ずしもその近くにあるテキストとリンクする必要はない、写真が説明しすぎないようにということは気をつけています。
 たとえば誰かを取材したとして、その人を100%正確に描くことなんてできませんよね。記事を書くライターと写真を撮るカメラマンと、それぞれの角度からその人を捉えたものが並走していた方が豊かに見えますから。

もう一度、突っ走りたい。

 今って、デザイナーがもてはやされているみたいで、特にデザインする必要のないところにまで、デザイナーが変に手をかけ過ぎている風潮があるような気がします。デザインって、ある意味、痕跡を残さないことじゃないかなって思うんだけど……。
 今後やってみたい仕事は、特にはないけれど、しいていうなら『store』をもう一度やってみたいかな。これは『ゆめみらい』をやる少し前に手がけていた雑誌で、残念ながら廃刊になってしまいましたが、“文芸ビジュアル誌”というコンセプトで立花文穂さんと一緒に作っていたものです。
 これを作っていた当時は、まだいろんなことがよくわかっていなくて、とにかく、ただがむしゃらに突っ走っていただけだったけれど、でもこれは作っていて楽しかったですね。
 こういうパワーというか、エネルギーのあるものをもう一度やってみたいなと思います。
 やはり、どんな人と仕事をするのかということが僕にとってはとても重要なことなんですよね。

有山達也
アートディレクター/グラフィックデザイナー
1966年埼玉県生まれ。90年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、中垣デザイン事務所にて約3年勤務。93年アリヤマデザインストア設立。94年『マルコポーロ』(文藝春秋)にデザイナーとして参加。以後、『ERiO』(NHK出版)、『store』(光琳社)、『ゆめみらい』(ベネッセコーポレーション)、『ku:nel』(マガジンハウス)、『FOIL』(リトルモア)などのアートディレクションを担当する。2004年『100の指令』(日比野克彦著/朝日出版社)で第35回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。

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