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制作クラウドで変わる今後の書籍ビジネス 文藝春秋の書籍ビジネスの近況

文藝の格差問題とニュースの賞味期限

株式会社文藝春秋 常務取締役 木俣 正剛(きまた せいごう)氏1978年入社、週刊文春編集長 第二出版局(ノンフィクション系単行本)&文春新書局長、文藝春秋編集長をへて現職。現在は文藝系以外のすべての雑誌と営業局を統括。最近の出版界の大きな話題として、又吉直樹さん『火花』の芥川賞受賞があります。私は選考会の選考経緯に関わる立場でもあり、皆さんも興味のあることだと思いますので、最初に簡単に触れておきましょう。又吉さんの『火花』は、第1回投票から過半数を確保しました。しかし、あと2作品も近い票を確保していました。その後の決選投票では、又吉さんの票は動かず、羽田圭介さんの『スクラップ・アンド・ビルド』の票が伸び、お二方が受賞することとなったわけです。『火花』は今日(2015年7月30日現在)も25万部増刷することになりましたので、この時点で169万部を突破しました。これはもちろんうれしいことなのですが、非常によく売れる本とまったく売れない本の格差が拡大、年々エスカレートしています。このような、一部の本に頼るという事業構造は、決して健全なものとはいえません。
文藝春秋の「文藝」は申すまでもないことですが、「春秋」はジャーナリズムを指しています。ジャーナリズム――ノンフィクションはもうひとつの柱であり、かつては収入の柱でもありました。しかし近年、ノンフィクション部門の数字は凋落しつつあります。大きな原因は、時事的なテーマを扱っても、単行本になるまでに時間がかかることです。インターネットの普及により、ニュースの賞味期限はどんどん短くなっていますので、扱いが難しくなってきています。また、広告収入が減り、雑誌の売り上げも落ちているために取材費が確保できず、取材自体がしにくくなっているという現実もあります。
ノンフィクションが凋落し、頼るべき文藝系は、各社で「売れる」作品の囲い込みが始まっています。ミリオンセラー作家の新作か映像化作品しか確実に売れるといえない今、出版社が書店に文庫の棚を持つ意味も揺らいでいます。
先の見えない状況ではありますが、単行本をつくるスピードが上がれば、何らかの糸口がつかめるのではないかと考えているところです。

クラウド活用による、非常時の事業継続計画(BCP)

株式会社文藝春秋 執行役員 ノンフィクション編集局担当 鈴木 洋嗣(すずき ようじ)氏1984年入社。週刊文春編集長、月刊文藝春秋編集長、文春新書部長、第二出版部長などを経て、2013年より第一編集局長に就任。社歴のほとんどがノンフィクション系の雑誌。2015年より執行役員(文藝春秋、週刊文春、ノンフィクション出版部、増刊・ムック編集部担当)。まず、先ほどのトッパン・エディトリアル・ナビのプレゼンを聞いての正直な感想を申し上げますと、我々の仕事がまた減ってしまうんじゃないかという嫌な予感がしました(笑)。このシステムによって、「編集」と「印刷」という仕事の境目がますますなくなっていくと考えられます。とすれば、編集とは何か、出版社はどんな価値を生み出せるのか。今、この本質的な問いをつきつけられることは、我々にとってきわめて重要なことです。
また、事業継続計画(BCP)にも、このシステムは大いに活用できるのではないかと考えています。例えば、あまり考えたくもないことですが、東京に大地震が発生して、『週刊文春』のスタッフに人的な被害が出たり、弊社ビルも大きな被害を受けて編集部が使えなくなったとします。それでも、生き残った記者が各自懸命に取材して、記事をクラウドに上げていき、編集長がiPadなどを通じて指示を出していけば、『週刊文春』のコンテンツはつくることができます。関東の印刷所が機能停止していても、他の地域にデータを送れば印刷・製本もできますし、デジタルでなら日本中に配信が可能でしょう。1959(昭和34)年から56年間休まず出してきている『週刊文春』を、我々の代で途絶えさせるわけにはいきません。
災害時でも、通常と同じように、木曜日に『週刊文春』が出せる――そのようなBCPを可能にするために、このシステムは多大な貢献をすると思います。

多様な働き方が求められる時代へ

株式会社文藝春秋 執行役員 石井 潤一郎(いしい じゅんいちろう)氏1985年入社、Emma編集部、Number編集部、CREA編集部、月刊文藝春秋編集部、週刊文春編集部などを経て、社長室に。現在、執行役員として、Number・CREA局、法務・広報部を担当。近年は、どの企業も「ダイバーシティ」(多様性)が叫ばれ、多様な働き方を可能にする環境が求められています。
私は雑誌『Number』『CREA』の担当をしていますが、特に『CREA』編集部は、スタッフのほとんどを女性で占めています。これまで、雑誌編集の仕事は時間が不規則になりがちで、女性スタッフが出産や育児などにより、現場を離れざるを得ない、あるいは結果的に退職していくといった問題がありました。
現在、トッパン・エディトリアル・ナビの機能は書籍に対応した形になっていますが、雑誌編集に対応した機能の充実も時間の問題かと思っています。このシステムがうまく機能するようになれば、編集部にいるべき時間も少なくなり、在宅勤務も十分可能になるのではないかと感じます。また、共働きの男性編集者も、場所を選ばず仕事ができるため、もっと積極的に育児や家事に携わることができるのではないでしょうか。
社内に抱える編集部の規模を縮小でき、在宅勤務を含む多様なワークスタイルを可能にするという意味で、非常に期待しています。

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