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第一部 特別講演② 東京会場 タブレット端末の活用を最適化する授業設計

児童生徒にとって“良い”授業とは

私は26年の小学校教員の経験の内6年間、石川県教育センターの情報教育課で指導主事として石川県内の小・中・高のコンシューマ活用を担当。コンピュータのあるなしに関わらず、一人でも多くの子どもが授業によって「わかる」「おもしろい」という意識を持てるよう歩んできました。
学習指導にあたっては教材が必要になり、学習指導案作成時における「指導にあたって」には「教材観」が入っています。よって、単元で扱う教材はどのようなものなのか、その教材について児童生徒はそれまでどのような学習をしているか、どういう経験をしているかを鑑みて、児童生徒への指導観が導き出されます。
石川県内の学校では、単元の目標は「目標」、本時レベルの目標は「ねらい」と分けて表現しています。「目標」「ねらい」を明確にしたら、「ねらい」に迫るための学習展開(小学校45分、中学校50分)の工夫を行います。そして、授業を実施して評価をする。さらに、それを踏まえて次の授業に向けての課題を明確にする。これらが授業設計の基本です。
それでは、「良い授業の要件」とは何でしょう。例えば、教師が言わなくても児童生徒が話す。教師の適切な発言によって児童生徒が答え、それに対して別の児童生徒が答える。教師が推進役だとしても、場面によっては児童生徒の発言がつながっていく。それを聞きながら教師が要点を板書する。そうするとノートもとりやすくなります。これが板書の構造化です。それをもとに45分、50分の時間設定を行うと、1時間の授業ごとにきちんとした力がつき、次の授業への意欲づけも行ったうえで時間内に終わることができます。
タブレット端末を使った場合、児童生徒も教師も最初は慣れないため、45分、50分を過ぎてもなかなか「まとめ」の場面にいくことができず、「振り返り」や習熟のための場面が結果的に少なくなるということがありますが、徐々に慣れた段階に進めば、時間内に終わる授業の積み重ねこそが良い授業であると考えます。

よい授業の要件⑩

授業を最適化させる7つの分節

タブレット端末の活用を最適化する授業設計課題が児童生徒自身にわかっていれば、ワークシートを使おうがタブレット端末を使おうが電子黒板を使おうが、課題を自分の考え方で取り組んでいけます。これの如何によって次の展開が変わってくるのです。
ここに、私なりの授業設計を整理したものがあります。私は長年にわたって小学校の教員をしてきましたが、うち4年間は理科教育の研究校にいました。ここで、本時を3つの段階でとらえるより、分節を区切って授業を行い、振り返る重要性を学びました。それをどの授業にも対応できるよう作り直したのが「7つの分節」です。
7つの分節を設定すると、教師の意図はより明確になります。前時の授業から本時に「つなげる」という意図のもとにある「理解の確認」、そののちに興味を刺激して追求していく「動機を強化」、そこまでいけば小・中・高校のどこであっても、教師が一歩下がって児童生徒が主体となって「追究」していくことができます。なお、ここでいう「追究」とは課題を明らかにするという意味で「究」という字を使っています。自分たちの力で課題を解決することに喜びを感じるようになると、教師が意図していたところとはズレがあったとしても、教師は自分の力で追究し結果を出したことを褒めます。そのうえでズレや違いは次の「確かめ」の場面で補足し、理解の定着を図ります。授業の終盤では次の授業に向けての学びの連続、というように意図を整理できると思います。この仕組みがヒントになるようでしたらぜひお使いください。アレンジいただいてもかまいません。

タブレット端末を最適化している授業設計の例

全国10校のフューチャースクール実証校のうち、北陸地区の大根布小学校の授業をご紹介します。九九を応用してできる割り算、例えば36と6が出てくると36÷6=6で割り算ができます。それを、タブレット端末を本時で九九ではできない課題を設定します。36円でりんご3個、どうしたらりんご1個の値段がわかるか?を追究していきます。ある児童はタブレットペンを使って描いて視覚化し、12と解答しました。他にもいくつかの考え方があるので、教師はそれがわかるような解答を出した児童を意図的に指名して考えを説明させ、ポイントを紹介します。この方式を石川県・金沢市では、分割して考えていく形から「さくらんぼ方式」と呼んでいます。授業はこのあと九九ではできない計算もできるという考えを定着させたうえで適用問題に移ります。教師は電子黒板を使って時間のある限り適用問題をいくつも出します。児童はやり方がわかっているので比較的短時間で答えられます。こうやって45分以内に計算方法を定着させています。
小学校理科の水溶液の性質を学ぶ単元の最後の授業では、「A」「B」「C」と紙が貼られた内容がわからない水溶液(アンモニア水、炭酸水など)をこれまで学習した知識を使って調べるという課題を出します。児童は匂いをかぐなどの実験・観察を行い、タブレット端末を使って記録していきます。ここにタブレット端末は必要ないように見えますが、時間を要しがちな各班の実験結果を発表する時間を、授業支援システムを使って可視化させ、全体の結果からわかることをグループで話し合い、話し合った結果を発表する時間を設定することで、効率よく科学的な見方、考え方を育てることができます。
このように、教師の意図を明確にし、課題を解決するための児童生徒の意識に沿い、それに合わせてタブレット端末を使って学習指導を行うことでねらいに近づく方法があるのではと思います。
次は、全国3つの地域で設定されている「先導的な教育体制構築事業」の実証校の一つ、佐賀県武雄市立北方中学校の授業をご紹介します。3年生が1人1台のタブレット端末で練習問題をやってきたか確認している「三平方の定理」の授業場面を見学しました。教師が用意した、ABの座標軸を決めると三平方の自動計算してくれるアプリを使っています。ただし、例えば√8を2√2というようにアプリは計算できません。練習問題を家で解決して送信し、教師が授業の前に生徒の解答の状況をつかみ、ある程度理解できていれば次へ進み、つまずいていればもう一度復習するといった授業が可能になってきます。

多様性のなかから、共通性に迫る

最後に、東京のセミナーで聞いた、文部科学省の永井視学官のお話を紹介します。各教科には調査官がいますが視学官は全体を統轄しています。全国で導入が進むタブレット端末の活用を見ていると、上手な使い方とそうでない使い方が現状見受けられます。そこで氏は2つの言葉を念頭に授業を視察しているとのことです。
学校、学年、教科は異なっても小学校、中学校、高等学校では学習指導要領をもとにねらうところは同じ。これが共通であり、共通のねらいに迫るために、最近でいうとタブレット端末など、いろいろな方法がとられています。これが多様性です。大事なのは共通性(ねらい)で、タブレット端末はどんどん活用してほしいが、タブレット端末を使ってもアナログを使っても授業のねらいに迫るという目的は同じなので、授業のねらいに迫るためにタブレット端末を使って効果的になる場合は良いが、そうでない場合がこれからの課題であろうと話されていました。
私が紹介した、タブレット端末のいろいろな使い方を模索しながらどの地域でも最適化していくことは、文科省視学官のいう「多様性のなかで共通に迫る」であり、ここでいう「授業のねらいに迫るための効果的なタブレット端末の活用」です。活用方法ばかりにとらわれるのではなく、授業設計のもとになるところ、ねらいや課題に迫るために児童生徒はタブレット端末をどのように使っているかという視点で見ていくことが、より児童生徒の力になっていくのではと考えています。

村井 万寿夫(むらいますお)氏
金沢星稜大学 人間科学部 教授 村井 万寿夫(むらいますお)氏
平成22~24年度まで「ICTを活用した協働教育実証のための北陸地域協議会」の座長を務め、地域協議会委員間の相互連携・協力体制の構築、また実証校に対してICTを活用した協働教育実践への助言と指導などを行う。ICTを使ったより良い授業づくりには何がポイントなのか、何に注意しなければならないのか、教育工学の基礎としての授業設計の観点から紐解く。主な著書、論文に「表現力や創作力を高めるタブレット端末の活用に関する研究」。

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