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パネルディスカッション CSV経営最前線

「CSV(Creating Shared Value)共有価値の創造」をテーマにしたセミナーはトッパンにとっても今回が初めての開催となります。それだけまだ新しいテーマだと言えるのですが、キリン株式会社様はいち早くCSV本部を立ち上げられ、株式会社セブン&アイ・ホールディングス様もCSVに取り組んでいるとお聞きしています。一橋大学の鷲田先生もお迎えし、それぞれの取り組みについてお伺いしたいと思っています。―今津

各社のCSVの取り組みについて、また、大学での研究分野についてご紹介ください。――今津

太田氏

キリン株式会社はキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの3社を1本化して国内綜合飲料事業を展開しています。少子高齢化、若者のアルコール離れが進むなか、価格競争ではなく飲み方や飲むシーンの提案に移行しなければ競争には勝てない状況になっています。また、東日本大震災が発生し、企業は社会にどのような価値の提供ができるかが問われるようになってきました。キリンではこれまで、CSRを「お客様や社会に対して価値を創造するという企業本来の目的を追求すること」と捉えており、すでにCSVに近い表現でした。
CSVの具体的な取り組みとしては、昨年、厳しい状況にある福島の農業を応援するCSVとして、キリンのナショナルブランド「キリン 氷結」に福島産の梨を使用。予想を大幅に上回る早さで販売終了しました。また、おいしさに機能性をプラスした飲料シリーズ「KIRIN Plus-i」の提案や、「午後の紅茶」の原産地スリランカでの持続可能な農園認証システムの取得支援などを行っています。

尾崎氏

我々のグループはセブンイレブン、イトーヨーカドーを基幹に、百貨店、外食、銀行、ネットメディアなどで展開しています。CSRには「攻め」と「守り」がありますが、CSVは「攻めのCSR」の一環、CSRにとって変わるものではなく、CSRを質的拡大へシフトしていくものと捉えています。
お客さまのニーズに対応することは、日々の業務です。少子高齢化、女性の社会進出、買い物弱者の増加にあわせて、品質の高いセブンプレミアム商品(PB商品)の充実や移動販売、御用聞きと同時に行政と連携して地域の見守り活動を担ったりすることなど、本業を通じた社会的課題への対応をCSVと捉えています。
我々は、取り組み自体が社会と企業の両方に価値があるかを検証しています。たとえば、セブンイレブン・ジャパンの「証明書交付サービス」は、地方自治体のコスト削減、交通費も時間もかけず簡単な手続きでの利用できるといった社会的バリューがある一方、ついで買いによる収益性の向上という企業のバリューもあります。森林保全活動の間伐材や、店頭回収したリサイクルペットボトルを容器に活用したPB商品開発などの方法でもCSVに取り組んでいます。

鷲田氏

私はもともとCSRやCSVを研究していたわけではなく、専門はイノベーションやグローバルマーケティングです。研究や教育の現場に立っていて、日本企業が海外に進出する姿をよく見ていますが、必ずしもうまくいっていません。その中で、日本の企業がどんな特徴を持っていて、何をもって海外で貢献できるかを考えていくと、CSVが日本の企業を説明するのに役立つのではないかと感じています。
また、赤池先生やキリンの太田さん、セブン&アイの尾崎さんからご紹介いただいた事例を見ていくと、良い取り組みが多くあり、モノづくりの企業、モノづくりを支える流通企業ならではの視点があることを感じました。

Shared Valueの導入を検討している企業から、さまざまな問い合わせがあると聞いています。どのような内容の質問が来ているでしょうか。――今津

太田氏

CSRを本業と統合するにはどうしたらいいのか、という質問が多いです。営業は売上を重視するのにCSRは中長期のことを考えるので、どうやって攻めの部分でCSRを使うのかという壁にあたります。その1つの解がCSVではないでしょうか。
他の競合メーカーと並んだときになぜキリンが選ばれるかというと、「氷結」の場合、多くの福島県を応援したいと思うお客さまが買ってくださっています。これは社会的な課題と解決策である商品が一対一の関係になっています。売れないのは、課題の選び方に問題があったり、企業本位の考えだったりします。社会課題の解決に結びつくよう変えていく必要があると思います。

今なぜShared Valueがアメリカや欧州で注目されているのでしょうか。――今津

鷲田氏

この20年、マーケットという言葉の意味がいつしか株価のマーケットの意味に変わってしまうくらい仮想経済が強くなっていましたが、あまり価値を生んでいませんでした。一方で、GEやP&G、Appleなど実体のある製品を作り出す製造業のほうが国を支えていることもわかってきました。このような状況で、行き過ぎた仮想経済に対する揺り戻しが起こっていることが、Shared Valueが注目されている一因だと思います。

Shared Valueの考え方をどのような対象者に啓発しているのか、教えていただけますか。――今津

尾崎氏

グループ事業会社の仕入担当部門の社員300人くらいを集めて、CSVとは何かという話をしました。まず、「1 Action 2 Value」の枠組みで考えることが攻めのCSRにつながること、効果があることを理解してもらいました。効果というのは売上だけでなく、お客さまの信頼や従業員のモチベーションといったものもあります。我々の会社はこういった商品やサービスで社会課題を解決する要素があるということを理解してもらうことと、そういったニーズのある時代背景が醸成されてきたことを伝えるのが仕事だと思っています。
もともと我々のグループではCSVというワードが出る前から本業を活かして社会貢献をしていこうという動きはありましたが、理解を得るのがすごく大変でした。CSVはこの考え方を一歩進めて、わかりやすく説明できる概念だと捉えています。

製品・サービスのCSVは日本でもいろいろな試みがあると思いますが、グローバル企業のCSVと比較した時に、日本企業とは違うやり方など何かあるのでしょうか。――今津

鷲田氏

キーワードの1つに『「井戸掘り」型の顧客ベネフィット追求vs「ダム建設」型の市場ゲームチェンジ』があります。日本のものづくり企業は、水が足りない村に入ると、すばらしい井戸を掘ります。ところが海外の企業はダムを造ります。経営用語でいうと、顧客ベネフィット追求ではなく市場のルールを変えてしまう。これには大きな発想の転換が必要です。日本もダムは造れるのですが、井戸を掘っている期間が長かったのでダムが造れることを忘れている可能性がある。これをぜひ思い出していただきたいですね。
また、別のキーワードとして『イノベーションのジレンマ』があります。標準化された低価格の商品が出てくると、先進国は足元をすくわれるという話ですが、ゴビンダラジャンというインドの先生がほぼ同じことを「リバースイノベーション」と言い換えています。大きな違いはローカルフィットということ。中国に合うもの、インドに合うものを作っていくと、それがやがて国際標準を生むというように、全く同じ現象を逆から見ています。このように視点を変えて取り組んでいくことも大事だと思います。

日本の企業は商品、サービスでイノベーションが得意ですが、市場のルールそのものを変えるのを苦手としています。CSVをこれから勉強していくなかで、こういう考え方も持っていけるのではと思います。本日はありがとうございました。―今津

太田 健(おおたけん)氏
キリン株式会社 CSV本部 CSV推進部企画担当 主幹 太田 健(おおたけん)氏
1984年、キリンビール入社。東京支店にて輸送、営業を経て、経営企画、物流、調達の業務を経験。2005年、横浜アリーナ出向 営業部長。2010年、キリンビール CSR推進部 CSR推進担当 主幹。2013年からはキリンのCSV本部で、CSVの創出に向けてキリンビール・キリンビバレッジ・メルシャンの各社と協働中。
尾崎 一夫(おざきかずお)氏
株式会社セブン&アイ・ホールディングス CSR統括部 社会・文化開発 オフィサー 尾崎 一夫(おざきかずお)氏
1988年、イトーヨーカ堂入社。店舗の家電部担当や、本部のセールスプロモーション部担当、販売促進部マネジャー、社会・文化開発部マネジャーを経験。2006年、セブン&アイ・ホールディングスへ転籍 社会・文化開発部オフィサー。2011年、CSR統括部 社会・文化開発オフィサー。
鷲田 祐一(わしだゆういち)氏
一橋大学大学院商学研究科 准教授 鷲田 祐一(わしだゆういち)氏
1991年、博報堂に入社し、生活総合研究所、イノベーションラボで消費者研究、技術普及研究に従事。2008年、東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程を修了(学術博士)。専門はマーケティング、イノベーション研究。著書『未来を洞察する』(NTT出版2007年)、『デザインがイノベーションを伝える』(有斐閣2014年)など
今津 秀紀(いまづひでのり)
凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター マーケティング企画部 コーポレートコミュニケーションチーム 課長 今津 秀紀(いまづひでのり)
1992年に凸版印刷入社。CSR(企業の社会的責任)やCSV(共有価値の創造)を中心に企業ブランド、環境、社会貢献活動などの企業コミュニケーションを担当。企業情報サイトランキング1位、エコサイトランキング1位、CSR報告書アワード最優秀賞など担当したクライアントでの実績多数。企業と社会フォーラム(JFBS)学会プログラム委員会委員(2011年-)、経団連 21世紀政策研究所 研究委員(2013-14年)

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