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統合レポート徹底解剖!海外企業編

日本とヨーロッパの統合報告の違い

今回は、世界最高レベルの統合報告を5社ピックアップしてご紹介します。
まず、日本の統合報告とヨーロッパの統合報告の違いをまとめました。

  • ①一番強く感じたのは「戦略」(Strategy)という言葉の扱い方です。各社が「戦略」を語る際は、収益力・競争力よりもビジネスモデルを「いかに現在から将来に向かってブラッシュアップするか」をストーリーの中心に置いています。特に、製造業では「サプライチェーンにおける日常業務のやり方」自体が重要視されます。
  • ②日本では「戦略」という言葉は主に中期経営計画で使われ、いかに顧客と商品の量を増やし、無駄を省き利益を向上させるかという手法(IR的)です。一方、ヨーロッパの統合優良企業にとって「戦略」は日々の業務を改善し、より強力なサプライチェーンのプラットフォームを作り上げること(CSR的)で、じわりじわりと市場シェアを上げていく手法を表しています。
  • ③こうした考え方の下では、「戦略」は根本に抽象的な理念・ビジョンがあってスタートしますが、目的に向けたフォーカス(事業ドメインや努力の対象)がしっかりしており、さらに大きな概念を細部に分解していくロジックづくりがしっかりしているため、説得力の強いレポートになっています。
  • ④ビジネスモデルチャート、いわゆるフレームワークのオクトパスモデルの扱いですが、日本企業は「わが社はこうだ」ということでチャートを多用して複雑性を競う状況に陥りがちです。一方、ヨーロッパの優良企業はフレームワークの考え方をシンプルに生かし、インプットの資本と出てくるアウトカムをいかに定量化するかという考え方が、ここ数年で進んでいるように感じました。

事例紹介

(1)医薬品メーカーA社(デンマーク) Annual Report

【冊子構成】

【特長】

  • 業績、事業、商品といった財務(lR)情報と、企業の持続性を裏づける経営上のテーマ、存続意義といった非財務(ESG)情報が、バランス良く配置されている。
  • オクトパスモデルを「図」ではなく「概念」として取り入れ、トリプルボトムラインや自社がフォーカスする対象へのこだわりを表現している。
  • 一般的に、ビジュアル特集は「自社商品・サービスの優位性」を針小棒大に表現しがちであるが、A社の特集は語り口にCSV的な色彩が濃い。自社のフォーカス領域において、社会で「自社がすべきこと」を、単なる収益活動より広くとらえている。
  • 株価や株主リターンについてハイライトするページがあり、「株主を向いた経営」をしっかりアピールしている。
  • 財務注記に、グラフを入れるなどMD&A的なデザインが施されており、「強いやる気」を感じる。
  • 役員の責任サイン(日本では有報にある「記載内容の適切性報告」)は、取締役全員かつ主要執行役員で、こちらも強いコミットメントを感じる。

特集は4つで1番目は新薬紹介です。日本のアニュアルレポートでもよくある自社のキラープロダクトを特集しています。しかし枠で囲んだ残りの3つは語り口が「人類的課題へのチャレンジ」というCSV的な内容で、古い言葉でいえば「天下国家を語る」内容となっています。こうした統合報告などを機会に、日本企業の経営者には、かつてのようにもっと天下国家を語っていただきたいと個人的には思っています。
コーポレートガバナンスなどでは、株主もしくは投資家に対しても強烈にアピールする手法がとられており、IRの面からも非常に充実したレポートです。

(2)化学メーカーB社(ドイツ)Report(Integrated Corporate Report)

【冊子構成】

【特長】

  • 108ページに及ぶ経営レポートでは、MD&A的な経営報告に45ページが割かれているが、残りのページはほとんど非財務(ESG)情報となっており、「事業戦略」の内容も非財務的に構成され、人類社会への貢献という企業姿勢を貫いている。
  • 冊子序盤にオクトパスモデルのチャートがあり、図中に62個のKPIが記載されている。

メインコンテンツは「経営レポート」で、ヨーロッパではアニュアルレポートの前半部分全体を指します。これが108ページにわたり文字とグラフのページが続きます。コーポレートツールというよりは、自社のビジネスを語る論文のようなレポート。108ページ中、一般的なMD&A的な記事、業績を語る・ビジネスを語るページが45ページあるのに対し、ES情報で占められている事業戦略が10ページ、サプライチェーンが19ページ、社員が6ページ、そして社会貢献と、ES情報が全体の半分を占める充実した内容になっています。

(3)塗料メーカーC社(オランダ)Report 2015

【冊子構成】

【特長】

  • コンテンツのそれぞれにおいて、財務と非財務が見聞きに並べて配置されており、「収益的な価値」と「それに付随する非財務的価値」という考え方が徹底されている。
  • オクトパスモデルを「独自のチャート」にせず、その概念を使って定量的な価値創造の分析を示している。
  • 前半は「戦略的パフォーマンス」、後半は「事業パフォーマンス」の2部構成。戦略面はビジネスモデルのブラッシュアップと顧客セグメント分析、「事業パフォーマンス」は事業セグメントごとの経営分析(いわゆる事業概況)となっている。
  • オクトパスモデルを使った価値創造分析を、事業概況中でそれぞれのセグメントにも適用。
  • 後半に、財務ページ、持続性ステートメントが美しく色分けされて添付され、格調高いデザインに仕上がっている。

前半の「戦略的パフォーマンス」、後半の「事業パフォーマンス」の2つに分けて掲載しています。後半は日本企業でもよくある事業概況ですが、前半の「戦略的パフォーマンス」は「戦略」という言葉を使いつつ、非常にES的な内容になっています。冊子全体を通して財務と非財務を左右対称に並べたり、要所要所でトリプルボトムラインをベースにしたオクトパスチャートを使った価値創造の説明がなされています。デザインも素晴らしくESG情報に非常に配慮した、まさに「価値創造企業」というレポートになっています。

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