TOPPAN SOLUTION

本田技研工業株式会社 3Dプリンタを使ったグローバルキャンペーンへのチャレンジ

3Dプリンタでユーザーも作り手側に

私が3Dプリンタに興味を持ったきっかけは、2012年に出版された『MAKERS』でした。この本の中で紹介されている米国の自動車メーカーでは、サイトに登録したマーケターやデザイナーなどがWeb上でブレインストーミングしながら作りたいクルマを考えていき、3Dプリンタでプロトタイプをつくって製品化をしていきます。クルマ好きのある種の夢が、インターネットと3Dプリンタの進化によって、また一歩近づいたわけです。
こうした動きを捉えて「いよいよ20世紀の大量生産型自動車産業の終焉」と考えた方もいらっしゃるようですが、私はあまり悲観的にはなりませんでした。むしろ、廉価な3Dプリンタが一般に普及することで消費者も“作り手”になる。今までのような“メーカーとユーザー”という関係性が“作り手同士”に変わるかもしれないと漠然と考えていました。

キャンペーンのコア・アイデアが誕生

そんな中、スミソニアン博物館が1億3,700万個にのぼる収蔵物を3Dデータ化し始めたというニュースを知りました。そのスミソニアンのカッコいいWebを眺めているうちに思いついたのが、今回のキャンペーンのアイデアです。実は、モーターショーなどで華々しく展示されるコンセプトカーのほとんどは、ショーが終わると解体されてしまっていました。これを3DデータとしてWeb上にアーカイブし、クルマやモノづくりが好きなお客さまに楽しんでもらえたら、新しいコミュニケーションになるのではないか。さらにデータを無償配布すればモノづくりも盛り上がるし、モノづくりをみんなで楽しめる技術は大歓迎というホンダの姿勢も伝わると思ったのです。
しかし、実際にこのアイデアをキャンペーンとして設計していく上ではいくつかの課題がありました。配布する3Dデータはどう保護するのか。そのデータを意に反して営利目的で使われた場合にどう対応するのか。またサイトの言語対応をどうするのか、などです。中でも最大の問題は、やはり配布する3Dデータの取り扱いでした。

コア・アイデア
● コンセプトカーの3Dアーカイブ化で、クルマ好き、モノづくり好きのお客さまに楽しんで欲しい。
● データ無償配布で、ものづくりをますます盛り上げたい。
● ホンダの企業姿勢をいち早く世界にお伝えしたい。~ものづくりを皆で楽しめる技術は大歓迎

インターネット時代の著作権問題

メーカーにとって命とも言える設計図は、科学や事実に基づく創作物です。一方、著作権法で守られる「著作物」の定義には設計図は入っていません。この点については長らく議論があったようですが、最近の判例では「作成者の個性が発揮されており、作図上の表現がありふれていなければ著作物に当たる」とされています。夢に溢れたコンセプトカーはまさにデザイナーの個性が最大限発揮された創作物ですから、その3Dデータも著作権で保護されると解釈しました。
ここで、社内の知財担当者から「データの利用者に対し、ホンダの著作権ポリシー等についてダウンロード時に確認するようWebを設計して欲しい」と要望が出ました。一方、マーケティング担当者は「オープンソース時代に相応しいWebの設計にしたい」と考えています。悩んだ我々が採用したのが、インターネット時代の新たな著作権のあり方を提案した『クリエイティブ・コモンズ(以下CC)』です。
これは、すべての権利を主張するわけではなく、かと言って放棄するものでもない、著作権の中間領域を定義するために生まれたライセンスです。作り手の権利を保護しながら、受け手が作品を自由に扱う領域を確保したこの新しい仕組みの特徴はまず、著作権の意思表示がわかりやすいこと。次に、現行の著作権のもとで許諾内容を法的に保証するライセンス条項であること。そして、著作権の意思表示をプログラムに埋め込み、検索エンジン用の情報を付加できることです。CCが規定する作品利用の条件は全部で4種類あり、その組み合わせで出来る基本的なCCライセンスは6種類。我々のキャンペーンでは、原著作者のクレジットを明記して欲しいという「表示」と、営利目的の使用を禁止する「非営利」を選択し、CCライセンスのマークをWebサイトに表示しています。

キャンペーンの結果と3Dプリンタのこれから

実際のキャンペーンでは、トライアル的な位置づけで5つのコンセプトカーの3Dデータを配布しました。ところが、開始1ヶ月で約15万件ものページビューをいただき、アクセスの半数以上が日本以外からでした。3Dデータのダウンロード数も5万回以上、関連動画の視聴数はトータルで8万回以上とこちらも予想を上回る数で、さまざまなWebメディアでも取り上げていただけました。しかし、なんといっても3Dデータで世界中の方に遊んでいただいたことが大きな喜びでした。検索をすると、自身で加工したデータをアップしている方、あるいは3Dプリンタで作った「作品」をアップしている方が多くいらっしゃいました。消費者も「作り手」側になってきたことを実感するのには十分でした。

このような動きを目の当たりにすると、世の中はどんどん新しいものに取って代わっていくような話になりがちですが、そのように単純な「新」「旧」の二元論ではないと思います。確かに3Dプリンタが新しいバリュー・チェーンを生み出す可能性はある一方で、まだまだ既存のサプライ・チェーンを前提としている部分が多くあるのも事実だからです。
3Dプリンタは、自動車メーカーにとっては業務用として馴染みのある技術でしたが、今回の反応は、まさに一般に普及しつつあることの証明の1つと言えるでしょう。この環境を、更に進化したクルマづくり、お客さまと一緒に楽しめるものづくりに活かせるよう、これからも楽しいアイデアを考えていきたいと思っています。
アクセス数
原 寛和(はらひろかず)
本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ブランド企画室 クリエイティブブロック ブロックリーダー 原 寛和(はらひろかず)氏
1996年入社。東北地区の営業担当、米国販売子会社(研修生)を経て、海外向け四輪車の商品企画を担当。その後、日本営業本部にてハイブリッド車のローンチキャンペーン、及び、新型軽自動車「Nシリーズ」のブランド戦略を企画・推進。2013年4月から、四輪事業に関する社内外のブランド戦略を企画・推進するブランドマネージャー。

ページトップへ