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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

特別編集号 Sputniko!'s World

発想が変われば、世界が変わる。

別の価値観を提示する

―― そんなテクノロジーの進化は、シリコンバレーをはじめとしたごく限られたクラスターの人たちの価値観によってつくられているところがありますよね?

 現状は残念ながらそのとおりで、シリコンバレーのエリートをはじめとする限られた人たちが考える“Better Future”が、必ずしも多くの人にとっての“Better Future”なわけではない。あなたにとっての“Better Future”とも違うかもしれない。じゃあ、日本人にとっては?同性愛者にとっては? イスラム教徒にとっては? 一部のクラスターの人たちの価値観が優先されがちな現状に待ったをかけて、「こんな価値観で未来をつくったらこうなるかもしれません、あなたはどう考えますか?」と世界に問いかけていくことの重要さが増してると思うのです。
 こうした問題には、明快な解答があるわけではありません。答えが見えないからこそ、その未来について、人は戸惑いながらも妄想し始める。でも、その妄想から得られる何かしらの未来への糧がある、と考えています。

―― 具体的には、どのようなことがテクノロジーや価値観に対する問題提起になるのですか?

 たとえば、医療の発達によって不老不死が実現したとします。それによって「人は必ず死ぬ」という真理が覆ったら、どうなるでしょう? 結婚式では永遠の愛を誓いますけれども、これがまぎれもない永遠の誓いになったら、人は本当に誓いたいと思うでしょうか(笑)。こんなふうに結婚制度自体が永遠の命によって変わるかもしれないし、ラブソングのあり方だって変わりますよね、きっと。桜だって散るから美しいと思っているのに、散らなくなったら美しいと思われなくなってしまうかもしれません。
 これは極端な見方のように感じるかもしれませんが、私たちが思っている以上に、世界はある日突然ガラッと変わってしまうものなんです。ご存じですか? 世界で初めて体外受精で生まれた人がまだ38歳だって。2012年の日本産科婦人科学会の発表によれば、日本では約27人に1人が体外受精で生まれています。2016年の現在はもっと増えているかもしれない。
 これは、クラスに1人は体外受精で生まれた子どもがいる計算です。当時は「試験管ベビー」「モンスターベビー」なんて言われていたのが、たった30年ちょっとでまさに日常の一部になっている。こうしたことが起こりうるからこそ、私たちが作品を通して行っている別の価値観の提示には、大きな意味があると思っているし、価値観の変遷が加速している現在だからこそ、さらに重要になると思うんです。

共感の未来を考える

―― 現在、デザイン・フィクション・グループと私どもトッパンは、VRなどの先端表現技術を用いて、新たな視点での「共感の未来を考える」取り組みを進めています。スプ子さんは、トッパンのVR技術にどのような可能性を見出していますか?

 この「共感の未来」ゼミには、現在10人の学生が参加していて、今、彼らと一緒に、VRなどの先端技術がもたらす「共感の未来」をいろいろな角度から模索しているところです。すでにおもしろい、興味深いアイデアはたくさん出ていて、少しだけ紹介させてもらうと……。
 たとえば、森林問題にスポットをあて、「自分が木になって伐採される瞬間をVRで体感できたら、伐採問題についてもっと考えるようになるのでは」というアイデアで学生が開発しているプロジェクトがあります。自分が森の木になって、風に揺られ、小鳥のさえずりを聞きながら過ごしていたところを、ある日突然伐採される。VRで人間以外のものへの共感を描き出すというアイデアです。
 ほかには、さまざまな文化の女性たちから、これまで誰かに言われて傷ついた、女性を蔑むような発言やふるまいについてインタビューして、それぞれの瞬間をシチュエーションごとにVRで体験してもらって共感を促す、という作品も興味深いですね。これはハーバード大学に通いながら私のゼミにも参加しているある女性エンジニアのアイデアですけど、女性たちの日常の中のそういった傷ついた体験をいかに自らのこととして感じさせられるか、VRによる「共感」を通じた一つの挑戦といえるかもしれません。

―― さまざまなモバイル機器やSNSなど、IT技術の進化によって、共感のありさまも変化するのでは?

 もちろん、VRやAR(Augmented Reality:拡張現実)といった先端表現技術は、人々の共感を高めるうえで極めて有効だと思います。でも、私たちが先に考えるべき課題の多くは、そうした「テクノロジーそのもの」の外にある気がします。常に問題意識を持って、テクノロジーにより変革する価値観や倫理と、人はどう向き合っていくか。そういった認識を持って取り組むことで、きっともっとおもしろい未来の提案が生まれるだろうし、新たな共感を生む画期的なアイデアも出てくるんじゃないかなって思います。

―― 確かにスプ子さんの作品を拝見すると、根底にはそうした問題意識があり、常に新たな問題提起がなされているように思います。

 そんなにうまくできてるかはわからないですが(笑)。私が作品をつくるときの発想の源は、シンプルな声の中にあることが多いです。日々生活する中でわずかに感じる違和感とか、ちょっとひっかかった出来事とか、些細なものの中に聞こえる声です。
 先日、目の見えない方とご一緒することがありました。名刺を交換しようとしたのですが、私の名刺には点字が付いていなかったんです。でも、それでは彼女に名刺を渡す意味がありませんよね? たとえばこうした出来事から、私のまわりのちょっとしたインターフェースが、目の見えない人のことを一切考慮していないということに気づいたりするわけです。デザイン・フィクション・グループでも、学生がそれぞれ自由な方法で、そういう素直な違和感や、声を拾いながら作品をつくっています。

私が作品をつくるときの発想の源は、シンプルな声の中にあることが多いです。

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