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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.10 3Dが切り拓く世界 - 活用が進む3Dプリンタ -

「駿河版銅活字」失われた活字の再現

トッパンは、3Dプリンティングをはじめとするさまざまなソリューションを駆使し、焼失して現存しないものを再現させる試みを実施しました。今回、再現を試みたのは「駿河版銅活字」の失われた活字。この駿河版銅活字は、日本における古活字の1つで、徳川家康が駿府に隠居してから林羅山らに命じて鋳造した銅活字であり、慶長11(1606)年から元和2(1616)年にかけて11万余字が造られ、「大蔵一覧集」(11巻)、「群書治要」(47巻)といった駿河版を刊行しました。しかし、11万余字造られた駿河版銅活字も火災により3分の2が焼失、つまり失われた活字となりました。駿河版銅活字の現存する3分の1は、印刷博物館が所蔵していることもあり、今回、失われた活字の再現がプロジェクト化されました。なお、駿河版銅活字は昭和37(1962)年に重要文化財の指定を受けています。

駿河版銅活字(印刷博物館所蔵)

「群書治要」(印刷博物館所蔵)

失われた活字の再現の流れ

失われた活字の再現は、トッパンのさまざまなソリューションを用いて行われました。また、墨で印刷された文字と活字の大きさの関係についても考察しました。

①失われた活字の特定

書物に印刷された文字のうち、現存する銅活字以外の文字が、失われた文字です。OCR技術により書物の中の文字種を洗い出し、現存する銅活字のリストと比較し焼失した文字を特定。今回はその中から、「天」と「地」の活字を再現することに。

②失われた活字の文字面の制作

選択した「天」と「地」の文字を、現存する書物からスキャンしデータ化。

③現存する活字の形状を3Dデータ化

現存する活字の形状を三次元計測機を用いて3Dデータ化。

④失われた活字の3Dデータ作成

活字の3D形状データと、「天」と「地」の文字データを3DCG上で合成。
合わせて駿河版銅活字の特徴である形状(薬研彫り)も再現。

⑤3Dプリンタで出力

作成した3Dデータを用いて、3Dプリンタで出力。

⑥印字

3Dプリンタから出力された造形物で、印字。

③活字の三次元計測データ

⑥3Dプリンタからの造形物による印字(左)と「群書治要」の印字(右)

考察

墨による書物の文字(印刷された文字)は、印字に際し少しにじみが生じるため、本来の活字よりもやや大きいという考えがありました。今回、歪みの出ないオルソスキャナで活字の文字面と印刷された文字をスキャンし、一文字一文字を比較。その結果、両者にほとんど差がないことが確認できました。
※ただし今回はサンプル数が少ないため、今後の調査でサンプル数を増やす必要があります。

印刷博物館からの視点

駿河版銅活字の特徴が見事に再現されていました。これらの活字を使ってワークショップを開催してみたいです。印刷博物館 学芸員 中西保仁さん

今回の試みは、凸版印刷からお話をいただいたことに端を発します。駿河版銅活字は、重要文化財に指定されている大変貴重なものですので、当初、戸惑いはありました。しかし、凸版印刷のソリューション力、3Dプリンタで復元する意義、全体的なねらいを聞くうちに、戸惑いは期待へと変わりました。
実施するにあたっては、スキャニングの際に駿河版銅活字に傷がつかないかなど不安な面もありましたが、高い位置からスキャンするオルソスキャナを見て安心しましたし、何よりも文化財の扱いに長けた専門のスタッフが心強い味方でした。
復元を試みた駿河版銅活字には、大きく2つの特徴があります。薬研(やげん)彫りと底面のV字です。薬研彫りは彫刻刀で彫り込んだような形状で、底面のV字は組版の際のガタツキを調整しやすくするための加工を指し、この特徴が再現されているかどうかを一番のポイントとして考えていました。
結論から言うと、想像よりも高いレベルで再現できました。アナログな職人技をデジタル技術で復元する。最後は人の感覚によるところかもしれません。しかし、初の試みとしては十分なレベルに達していると思います。こうした活字は1mmでもサイズが違うと、組版の際、ガタついたり、収まりきらなかったりするものですが、誤差なく見事に再現されています。
今回、復元したのは「天」と「地」の2文字ですが、将来的にはもっと多くの文字を復元してワークショップを開催してみたいと思います。現在、印刷博物館では、活版印刷を体験できるワークショップを開催しているのですが、それは西洋式のものです。東洋式のものはありません。多くの文字を復元することができれば東洋式の活版印刷のワークショップも開催することができます。来館していただいた方のお名前、贈りたい方のお名前をカードに印刷する。そう考えると復元する文字数も1万くらいになり、簡単に実現できることではありませんが、東洋式のワークショップが実現できると、西洋式との違いを子どもたちに体感してもらうことができる。文化、教育の面でも大きな意義があります。

そのほか、3D技術を使って、16世紀ヨーロッパの楽譜印刷の版の再現、18世紀ヨーロッパのイギリス、フランスの別系統で決まった活字の規格の再現など、研究の成果が実際の形として再現できるものなのか、検証する手法としても試してみたいと思います。こうして考えていくと、やってみたいことは尽きません。今後が楽しみです。

3Dプリンタによる造形物。駿河版銅活字の特徴である薬研彫りと底面のV字も見事に再現

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