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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.10 3Dが切り拓く世界 - 活用が進む3Dプリンタ -

3Dプリンタの可能性とデジタルファブリケーション

デジタルファブリケーションに求められる素材・ハード・ソフト・ネットの連携

デジタルファブリケーションには、先に紹介したヴァレンタイン・チョコの例でいえば、

  • 1 素材(チョコレート)
  • 2 ハードウェア(チョコを使える3Dプリンタの開発)
  • 3 3次元データ、それを編集するためのソフトウェア(チョコの形のデータ)
  • 4 インターネット(データ収集や製品の受注を行うウェブ上のサービス)

といった4分野の横の連携が不可欠です。

日本には、各分野で高度な技術を持っている企業がたくさんありますが、それらがなかなかうまく連携していかないという現実があります。ファブラボでは、扱う素材も、機能もさまざまなタイプの3Dプリンタを各企業に提案していますが、その結果、異業種間での思いがけない結びつきや企業連合が生まれつつあります。ものづくりには、人と人、技術と技術をつなぐ力があるのです。

ものづくりの「つなぐ」力  ――ICTからFICTへ

そもそも、私がファブラボの活動に興味を持ったのは、行き過ぎたデジタル化への疑問からでした。インターネット元年といわれる1995年には、「地球の裏側の人と、ネットやメールを通じて友だちになれる! すごい!」と皆が語っていたし、大学1年生だった私も本気でそう思っていました。
「地球の裏側の人と友だちになれる」のは、確かにすばらしいことです。しかし、同じオフィスの中で、隣の席の人とメールでしか会話しないというような事態も同時に起こり始めました。私たちは、はたしてそんな社会をつくりたかったのでしょうか。ヴァーチャルなつながりを結ぶだけでなく、リアルな場での、人と人とのつながりの質をもっと改善したいということを、5年ほど前から考え始めました。
一人ひとりが黙ってパソコン内の情報と向きあっているだけでは、お互いが何をしているか見えません。メールを書いているのか、SNSを駆使して調査を行っているのか、それとも単にネットサーフィンをしているだけなのか。しかし、ものづくりの風景は、それと対照的です。その人が何をしているのかが皆に見えて、つくる楽しさも自然に伝わります。また、「気持ちを伝える」役割は、デジタルな「情報」より、重さも手触りも匂いもある「もの」のほうが適しています。だからこそ、情報を受け手に最適な形で「もの」化する、デジタルファブリケーションの技術が求められているのだと思います。
デジタルファブリケーションは、ネット上での3Dデータのやりとりや、完成した作品をSNSにアップして見せ合う、贈る、使う、身につけるといった行為を通じて、それこそ地球の裏側の人とも関係を結んでくれる一方で、リアルな地域コミュニティのつながりも深めてくれます。
3Dプリンタは、高齢者が自宅を改修する際の手すりやすべり止めをつくる、突っ張り棒やカーテンレールなど、壊れた部品をつくるといった用途でもよく使われています。3Dプリンタやレーザーカッターを地域の拠点に備えて、皆に必要なものをその地域でつくる。床や照明など、壊れたものは皆で直す。そのようなソーシャルファブリケーションの考え方によって、地方の活性化も期待できると考えられます。
デジタルファブリケーションは、行き過ぎたデジタル化からの「揺り戻し」に見えますが、デジタル通信の進化形でもあります。これまで、ICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)というキーワードがよく使われてきましたが、今後はこれにファブリケーション(Fabrication)を加えたFICTの時代になると考えています。情報通信で培ったソーシャルなネットワークの力を、ものの世界にまで広げる。そうすることで、人と人とのつながりが深まっていく。これからは、そんな社会をつくっていくべきではないでしょうか。

プリントという概念の再定義

デジタルファブリケーションのための工作機械には、3Dプリンタのほか、入力データに従ってプラスチック・木材・布・金属・ガラス・セラミックなどにカット加工を施せるレーザーカッター、写真などのデータを刺しゅうとして再現してくれるデジタルミシンなどがあります。面白いことに、3Dプリンタはもちろん、レーザーカッターもデジタルミシンも、作業開始のコマンドは「プリント」です。「プリント」ボタンを押せばカットや刺しゅうの作業が始まる。つまり、デジタルな「情報」を「物質」に伝え、「もの」に還元する作業はすべて、従来のインクジェットプリンタと同じく「プリント」なのです。
ファブラボを訪れる多くの人は、3Dプリンタが立体を生み出す瞬間、レーザーカッターが木材に、自分がデザインした通りの複雑な文様を切り出していく様子を見ていると「単純に感動する」といいます。それは、私たちがデジタルの進化を通ってきたからこそ、味わう感動なのかもしれません。情報を物質に変える「プリント」の概念は、物質を情報に変える「デジタル」と並び、今後ますます重要なキーワードとなっていくに違いありません。

田中 浩也(たなかひろや)
慶應義塾大学環境情報学部准教授。京都大学総合人間学部卒業、東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。博士(工学)。東京大学生産技術研究所助手などを経て、2005年慶應義塾大学環境情報学部専任講師、08年同准教授。10年米マサチューセッツ工科大学(MIT)建築学科客員研究員を歴任。新しいものづくりの世界的ネットワークであるFabLabの日本における発起人であり、2011年には「FabLab Kamakura」を開設。慶應大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ代表でもある。未踏ソフトウェア開発支援事業天才プログラマー・スーパークリエイター賞、日本グッドデザイン賞 新領域部門、アルスエレクトロニカ ハイブリッドアート部門 Honorary Mentionなどを受賞している。

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