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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.10 3Dが切り拓く世界 - 活用が進む3Dプリンタ -

3Dプリンタの可能性とデジタルファブリケーション

「情報」と「物質」を自在に行き来する社会へ

今、なぜ3Dプリンタが注目されているのでしょうか。
その背景には、デジタルファブリケーションという新しい考え方にあります。デジタルファブリケーションとは、物質を情報化したり、情報を物質化したりする技術の総称です。
これまで大多数の企業が「デジタル化」を旗印とした情報化を進めてきました。手紙はeメールへ、本は電子書籍へ、地図は位置情報システムを用いた電子地図へ。それらを進化と見るトレンドが、ここ数十年続いてきたのです。
しかし近年、情報化だけでなく、情報を必要に応じて物質に戻す技術の重要性が再認識され始めました。例えば東日本大震災の折、安否確認や重要事項の連絡に最も有効だったのは、メールなどのデジタル通信ではなく、「紙に印刷したものを避難所に配る」という手段でした。被災地に観光客を呼び戻すための街歩きマップも、ネット上に掲載するだけでなく、ワンタッチで折り畳める「ミウラ折」という特殊な折を入れた紙の地図を配布したほうが、効果が上がったそうです。また、電子書籍を買ったものの、やはり紙に印刷して本として持っておきたいというユーザーも、高齢者を中心に増えています。
デジタル化一辺倒ではなく、ものから情報へ、情報からものへ、どちらの方向へも自由に行き来するための技術がデジタルファブリケーションです。その中で3Dプリンタは、情報を物質にするための「デジタル工作機械」の代表的な存在といえます。

3Dプリンタをめぐる現状と可能性

3Dプリンタの技術そのものは、30年ほど前に開発されていました。ラピッドプロトタイピング(RP)と呼ばれ、おもに工業製品の試作品をつくるために使用されてきました。3Dプリンタという呼称が定着したのはごく最近、一般ユーザーに手が届くようになってからです。
3Dプリンタの利点は、必要なもの、欲しいものを1個から“自分でつくれる”という点です。パーソナルファブリケーション(家内制機械工業)を実現するツールとして話題になり、経済産業省では、アメリカにならって、全国の中学・高校に3Dプリンタを導入しようという議論もされています。しかし現在の日本では、マスコミで大きく取り上げられたわりに普及は進んでいません。国産化や技術開発を目指す企業の投資も、関連のサービスやビジネス環境の整備も進んでいないことがその原因だと考えられます。
では今後、3Dプリンタにはどのような活用シーンが考えられるでしょうか。
「誰もがものづくりを楽しめる社会へ」という、世界的なパーソナルファブリケーションの潮流をリードしてきたのが「FabLab(ファブラボ)」です。ファブラボは、3Dプリンタ、レーザーカッターなどのデジタル工作機械を備えた市民工房とその世界的なネットワークで、現在全世界に70カ所以上、日本には7拠点あります。私は2010年からファブラボを日本につくる活動を始めましたが、ファブラボを通して国内外の動きを見ていると、3Dプリンタなどを用いたファブリケーションの可能性は無限大に思えます。

米粉で食べられる食器を、チョコで自分の顔を出力できる3Dプリンタ

例えば、私たちがメーカーと共同開発した「フードプリンタ」は、米粉を素材に好きな三次元造形ができる3Dプリンタで、食べられる食器を出力できます。これを紙コップや紙皿の代わりに使えば省資源につながりますし、使い終わったら鍋に入れて煮込んで食べてしまえる。炊飯器の隣に置く3Dプリンタといったイメージですね。
また、ファブラボでは、自分の顔の3Dスキャンデータをもとに、顔の形のヴァレンタイン・チョコレートをつくろうというワークショップを行っており、これもすぐにビジネス化できる技術です。ちなみに、2014年1月には、アメリカのチョコレートメーカー最大手ザ・ハーシー・カンパニーが、大手3Dプリンタメーカー・3Dシステムズと提携すると発表しました。3Dプリンタの食品業界への参入が、すでに本格化しているのです。

ファッション、医療、建築、伝統工芸… 3Dプリンタはあらゆる分野における「電子レンジ」?

医療やファッション分野への活用も、大いに期待できます。
あるシューズデザイナーのために作成した3Dプリンタは、モデルの脚の3Dデータを入力すれば、その通りの脚のマネキンを制作できます。デザイナーは、そのモデルを呼ばなくても、その脚にぴったり合う靴をデザインできるわけです。これは、アスリートのためのスポーツウェアのデザインにも、義足、義手などの医療機器にも応用できます。2012年には、アメリカの高校で飼われていた左脚に障害のあるアヒルに、右脚の三次元データを反転させて3Dプリンタで出力した義足をつけたところ、歩けるようになった様子が動画で公開され、話題となりました。身体に関わるもの、身につける服や器具に関しては、データさえ取っておけばぴったりの形がつくれるという、3Dプリンタならではの利点があります。一人ひとりの耳の形に合わせて、ぴったりの補聴器をカスタマイズすることも可能なわけです。
一方、3Dプリンタやレーザーカッターでプリントした樹脂や木材、金属の資材で家を建てる、建築の研究も各国で進んでいます。現在の3Dプリンタは、長さ3mくらいまでの資材を出力する技術があります。やがては「3Dプリンタで家を出す」ことも可能になるかもしれません。
国内のファブラボでは、職人の手技と、デジタルファブリケーションを融合させたものづくりも始まっています。レーザーカッターで切り出した木材に漆を塗って工芸品を仕上げる、3Dプリンタで出力した樹脂や金属の部品に精緻な加工を施すなど、デジタルと手技の良さを生かし合った、新しい技法も生まれつつあります。
このように見てくると、3Dプリンタの位置づけは「電子レンジ」と似ているかもしれません。いちばんイージーな使い方は、出来合いの冷凍食品をレンジで「チン」するように、ありものの3Dデータを「物質化」するだけ。一方、レンジがじゃがいもの下ゆでといった、料理の「下ごしらえ」を簡単にするように、3Dプリンタはデジタルの力で、さまざまなものづくりの「下ごしらえ」を省力化してくれます。そうすることで、人間にしかできないクリエイティビティの部分を刺激してくれるんですね。

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