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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.9 ネット×リアルの可能性「O2O」

O2Oビジネスの現状と今後の可能性 ITアナリスト 松浦由美子さん インタビュー

日本最大級の最新O2O事例

12年10月、阪神阪急グループ、NTTグループ、博報堂は、モバイル会員向けO2Oサービス「SMART STACIA(スマート スタシア)」を始めました。同時に、日本最大級のO2O実証実験にも本格的に取り組んでいます。
実験の地のひとつが、西日本最大級の商業施設「阪急西宮ガーデンズ」です。巨大モールをまるごとネット化することで、まったく新しい顧客体験を提供しています。来店者は、阪急西宮ガーデンズを訪れると、スマートフォンで専用アプリを立ち上げます。すると、巨大施設全域で、Wi-Fi環境の高速インターネット通信が無料で利用できるようになります。
館内のいたるところに設置されたWi-Fi端末の電波は、位置計測にも利用されています。Wi-Fiの三点測量技術により屋内位置計測を実現しています。来店者は、自分が現在、巨大施設の何階のどこにいるかをアプリ上のフロアマップを見て、リアルタイムで正確に確認できます。自分が歩くと、フロアマップ上の自分の人型アイコンが連動して動き、自分の居場所からお目当ての店舗の場所まで、ルート案内までしてくれます。
お気に入りの店舗に近づいたタイミングで、店舗からのクーポンなどのお知らせがプッシュ配信され、クーポンは、各店頭でNFC搭載スマートフォンをかざすだけで受け取ることができます。各店舗のスタンプカードも、アプリで管理。従来のように店舗ごとのクーポンや会員カードを持ち歩く必要はありません。スタンプも、店頭の専用端末にNFC搭載スマートフォンをかざすだけで貯まります。館内12箇所に設置された専用端末にNFC搭載スマートフォンをかざすと、来館ポイントももらえます。約130店舗に貼られたNFCタグ付きのスマートポスターにスマートフォンをかざすと、その店舗ごとの情報にアクセスできる仕組みになっています。
レストランが混み合っていても、並んで待つこともなく、店頭のタブレット端末で予約しておいてぶらぶらショッピングしていると、自分の順番になると電話が自動でかかってくる仕組みもあります。
特に便利なのは、車を駐車した場所をアプリに記録できる機能です。駐車場入り口付近にあるNFCスマート地図上で、自分が車を止めた場所にスマートフォンをかざすだけで、アプリに駐車位置を記録できます。
リアル店舗での体験から生まれる驚きや感動はO2O成功の重要なカギだと思います。

ネットとリアルの消費者の行動ログを分析するビッグデータ

最新のO2Oの世界では、消費者のネットとリアルのあらゆる行動がビッグデータとして収集されていくようになるでしょう。携帯電話やスマートフォンの普及が進み、「いつでも、どこでも、誰でも」情報にアクセスできるようになりました。それが、ビッグデータの活用で「いまだけ、ここだけ、あなただけ(+あなたの友だちだけ)」の世界に進化します。個人にぴったりあった情報を最適なタイミングと場所で届ける。届けられた情報は、その消費者のソーシャルメディア上の友人にまで伝わっていきます。最新型のO2Oは、この世界観を実現することになっていくと考えています。
当然、課題もあります。収集・蓄積した膨大なデータをいかに価値に変えることができるかは、非常に大きな課題といえます。分析できる専門家の育成や外部企業からの獲得が急務になるといわれています。
プライバシーの問題もあります。利用者は、O2Oのような便利でお得なサービスを"無料"で利用する代わりに、何に興味を持ち、どこに行き、どのような商品を購入し、誰と交友関係を持っているかといった、個人情報、ライフログを提供していることになります。この流れを突き詰めると、個人の人格に関する情報、人間関係、資産情報など極めてプライバシーにかかわる領域に立ち入っていく可能性があります。企業は、利用者へのデータ取得の事前同意や、データの利用用途の許諾などの運用を徹底する必要があります。利用者からライフログを受け取る以上の価値のあるサービスを提供し、アピールできるかが、企業がビッグデータを活用するうえでの重大なカギとなります。

O2Oが日常になる世界

私は、数多くの企業に取材をしてきましたが、ネット、リアル、通信キャリアといった業態を問わず、いずれの企業の担当者も「今後O2Oは広がる」との見方で一致しました。取材を通して、非常に印象に残った言葉があります。Google担当者の、「到達したいところは、O2Oが当たり前になり、話題にもならないような世界」という言葉です。
いかに競合他社と差別化し、消費者に選んでもらえる企業になるか。スマートフォンを持った新しい消費者をいかに獲得して、来店、購入してもらうか。最終的には、長期的に継続して来店してくれるお得意様になってもらわなければなりません。

O2O拡大のカギは、一般の消費者、リアル企業、店舗にどのような価値を提供できるかです。最新のIT技術を駆使して作ったサービスも使ってもらわなければ意味がありません。そのためには、ネット企業やIT企業は、消費者、リアル店舗、現場の店員の気持ちを理解する必要があります。リアル企業の人たちと良い関係を築き、ネットの有用性や操作方法を懇切丁寧に説明する必要もあるでしょう。来店履歴、購買履歴、行動履歴などのデータを見える化し、O2Oの効果測定をわかりやすくする必要もあります。

農業革命、産業革命が人々の生活を一変させたように、情報革命が消費者の生活を確実に変えています。ただ、ネットだけに閉じられていた今までの情報革命は、第一幕にすぎません。現実の世界にネットが本格的に融合していく。これからの時代が、情報革命の本番なのです。
O2Oは、消費者が主役となる初めての「消費革命」なのかもしれません。

松浦由美子(まつうらゆみこ)
ITアナリスト。大学卒業後、米国留学を機にITの世界に目ざめる。帰国後、ITエンジニアとして半導体ウェハ検査装置の開発や原子力・ETCなどのインフラ制御系システムの開発、大手印刷会社のIT技術センター部門でセキュリティ関連のサービスや画像情報データベース、地図情報サービスなどのWeb開発に携わる。現在は、インターネット企業に勤務の傍ら執筆活動も行う。「ITからリアル世界への翻訳者」として、テクニカルな話題を一般読者にわかりやすく解説することをモットーに活動中。
著書:「O2O 新・消費革命」東洋経済新報社
東洋経済新報社の東洋経済オンラインにて「O2Oビジネス最前線」 を連載中

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