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vol.9 ネット×リアルの可能性「O2O」

O2Oビジネスの現状と今後の可能性 ITアナリスト 松浦由美子さん インタビュー

なぜ、いまO2Oビジネスが注目されるのか

O2O(Online to Offline)とは、ネット(オンライン)の力を駆使して、現実社会(オフライン)のリアル店舗へ消費者を呼び込み、商品やサービスの利用を促進しようというもの。ネット(オンライン)とリアル(オフライン)の購買活動が相互に連携し合うことを表す言葉でもあります。スマートフォンやソーシャルメディアの普及で、ネット(オンライン)とリアル(オフライン)の境界がどんどんなくなってきています。今後はさらなるIT技術革新により、ネットとリアルの融合はますます進むことは間違いないでしょう。スマートフォンを手にした消費者は、時間や場所を問わずネットとリアルを行き来します。企業側も、もはやネットとリアルを分けて考えることはできなくなりつつあります。ネットとリアルの融合施策で、消費者にとっての消費の価値を高め、新規顧客の獲得や既存顧客の満足度向上につなげる広い意味でのO2O施策が注目されています。

O2Oによる新しい消費とはどのようなものでしょうか。ひとつわかりやすい例をあげます。ローソンは、2012年4月、ソーシャルメディアの代表格であるFacebookを活用して30万枚の「からあげクン」半額券をたった17時間で配りました。消費者がクーポンを取得すると、Facebook上の友人に共有・拡散されるため、あっという間に広まったのです。店頭での販売は、実に6万個を超えました。からあげと一緒に他の商品も売れました。ネットの力を活用し、店舗に消費者を呼び込み、売上げアップに成功しました。30万枚のクーポンを店頭やチラシなどで配っていたらどれほどの時間やコストがかかるでしょうか。ネットは、使い方ひとつで消費者を店舗に引きつけるのに大きな力を発揮します。

今やO2Oはあらゆる業態を横断しての共通のミッションのひとつになっています。たとえば、ローソン、良品計画、セブン&アイ・ホールディングス、ヤマダ電機、東急電鉄などのいわゆるリアル企業。ネット企業ではGoogle、Yahoo! JAPAN、LINE、コロプラなど。他にも、NTTグループ、ソフトバンク、KDDIなどの通信事業社や、電通、博報堂といった広告代理店などがO2Oの取り組みを強化し始めました。

現在、「インターネットによって喚起されている消費」、すなわちO2Oの消費規模は約24兆円。この数字は、年間の店頭における総消費支出である約120兆円のうち、約2割となっています。さらに、今後日本のO2O市場は、野村総合研究所の推計では2017年度には50兆9,000億円にまで成長すると見られています。

ではなぜ、いまO2Oに注目が集まっているのでしょうか。
O2Oという言葉が頻繁に聞かれるようになったのは2011年頃からです。背景には冒頭でも述べましたが、スマートフォンの急速な普及と、ソーシャルメディア利用者の拡大があります。それ以前2000年代初期には、「クリック&モルタル」という言葉が使われていました。その後、「食べログ」や「価格.com」などのサービスが始まり、パソコンや携帯電話で行きたいお店や欲しい商品情報を検索するという習慣が一般化し始めました。ただし、ネットへのアクセスは、自宅や職場のパソコンからがメインであり、一般消費者が日常的にネットを使いこなすまでには至っていませんでした。その上、ネットの情報やサービスが実際にリアル店舗での購買行動にどうつながっているのかという効果測定も曖昧でした。ここに変化をもたらしたのが、スマートフォンの登場、IT機器の主役の劇的な交代です。

スマートフォンの利用者は、24時間ネットにつながり、いつでもどこでも欲しい情報を検索し、自らもソーシャルメディアで情報を発信し、友人と共有します。スマートフォンとソーシャルメディアが普及することで、これまでのようなネットの先進ユーザーではなく、ごく一般層の方にIT、ネットが広がることが重要な背景だと思います。これまでネットになじみがなかった一般消費者の行動も徐々に変えつつあるのです。また、スマートフォンにより、消費者のネットとリアルの行動履歴がとれるようになる点も大きな特徴で、企業側の広告・販促活動に大きな影響を与えるようになってきています。
昔からいわれているネットとリアルの融合という概念が、今、実現段階に入っていて、業態を横断しての共通で取り組むテーマのひとつとなっている状況です。これがO2Oなのです。

O2O時代の新しいマーケティングモデル:ARASL

野村総合研究所は、O2Oの新しいマーケティングモデルを「ARASL」(アラスル)と名づけました。ARASLとは、Attention(認知)、Reach(送客)、Action(購買・利用)、Share(共有)、Loyal(再利用)からなります。たとえば、消費者は、スマートフォンのアプリを使って、自分が今いる場所から近い店舗の情報を受け取って来店します(認知)。スマートフォンの地図やナビゲーション機能を利用すれば、現在地から店舗まで迷わず行くことができます(送客)。来店時に、スマートフォンの画面に表示したクーポンを利用し、商品やサービスを注文(購買・利用)した後、食事の写真や商品のコメントなどをスマートフォンからソーシャルメディアに投稿(共有)。その後は、ポイントやゲームの楽しみを利用した仕掛けなどにより、店舗を継続するようになります(再利用)。また、ソーシャルメディアで「共有」された情報は一瞬で拡散し、さらに友人たちに「認知」され、共感した友人たちが同じ店に訪れるという良い循環をもたらします。
12年11月に私が書かせていただいた『O2O 新・消費革命』 (東洋経済新報社刊) は、特に百貨店など流通・小売の企業の方々から大きな反響をいただきました。「チラシや、紙のクーポンが効かなくなった」といった声もよく聞きます。多くのリアル企業にとって、自社の顧客満足度を上げるひとつの手段として、O2Oの視点を取り入れることが必須の段階にきているのではないでしょうか。

リアル店舗に集客するための7つの新しい価値

O2Oでは、ネットを活用して、消費者にさまざまな新しい価値を提供することで、商品を購入、あるいはサービスを利用してもらいます。従来の消費の置き換えではなく、まったく新しい消費を生み出す可能性があります。
今まで呼び込めなかった消費者をリアル店舗に呼び込むために、ネット上でどのような価値を提供するのが効果的なのでしょうか。代表的なものを7つ挙げてみましょう。
お得情報、共感、口コミ、店舗/商品情報、ゲーミフィケーション、ギフト、出会い・交流の7つです。順を追って説明していきましょう。

まず、クーポンやポイントなどのお得情報です。消費者は、スマートフォンのアプリを利用して、人気商品の割引、無料クーポンを入手できます。特に、昨年爆発的に急成長した国内ユーザー4,100万人(13年1月時点)を超えたLINEを利用したクーポン施策は、成功をおさめています。店舗側の手間を一切かけずに、短時間で広範囲の消費者に配布ができてしまいます。
商品を購入しなくても、リアル店舗に来店するだけで消費者がポイントを受け取ることができるサービスも始まっています。スポットライト社が運営する「スマポ」が有名です。利用客がスマートフォンの専用アプリを立ち上げて、店舗の中に入ると自動で来店を検知し、ポイントがもらえます。スマポは、大丸、ビックカメラ、ユナイテッドアローズ、エイチ・アイ・エス、マルイなど56のブランド、296店舗が導入しています(13年2月時点)。

2つ目は、ソーシャルメディアを日常的に使う新しい消費者の心をつかむために、とても重要な点が共感です。
消費者は単に商品やサービスを利用するだけではなく、ソーシャルメディア上の友人・知人と話題にしたり、「いいね!」やリツイートをしたりして情報を発信し合います。そうなると、リアル店舗側は、消費者がソーシャルメディアで発信したくなるような話題を呼ぶ商品・サービスや、感動できるイベント、面白いキャンペーンなどを企画することを考えるようになります。逆転の発想です。
無印良品は、12年11月30日~12月25日、有楽町店にて、お菓子でできた街をつくりました。ヘクセンハウスやクッキー15,000個で作られており、ユーザーが作ったヘクセンハウスの写真やメッセージをTwitterやInstgramで投稿すると、お菓子の町の風景として反映されます。ソーシャルメディアで話題にしてもらい、結果的に店舗に消費者を促し、お菓子の商品の販売を促す流れをにらんだキャンペーン展開です。他にもローソン、ファミリーマートなどがソーシャルメディアを活用したO2O施策で成功しています。

3つ目は特定分野での口コミです。これは、O2Oがここまで注目される以前から、非常に多くの方が利用していると思います。旅行やグルメ、美容などの興味ごとに特化した口コミ情報や評価は、消費者にとっては非常に価値のある情報になります。日本最大の化粧品・美容情報サイトの「アットコスメ」、パソコン・家電等の価格比較の「価格.com」などのネットサービスがこれに当てはまります。消費者は、ネット上の口コミ情報や評価を参考に、商品、サービスを選択してリアル店舗に向かいます。店頭においてもなお、商品の現物を確認し、サンプル商品を試しながら同時に、スマートフォンや携帯電話を利用して口コミ情報を参照し、商品を吟味します。

店舗や商品の情報が4つ目です。本来、店頭の販売価格や商品在庫は行ってみないとわかりません。そうした情報をパソコンやスマートフォンを使ってネットで事前に確認することができるようになっています。「Googleローカルショッピング」や、「価格.com」も始めています。消費者は、実際のリアル店舗やネットショップの店舗を比較して、購入したい商品がどこでいちばん安く購入できるかを確認します。
すぐに手に入れたい場合、今いる場所の周辺で販売している店舗を見つけ出して買いに行けるようになります。今後、リアル店舗からのリアルタイムな価格・在庫情報をネットへ公開することが進めば、リアル店舗に行ってみて、商品が売り切れだったということもなくなるでしょう。具体的なサービスとしては、「Googleローカルショッピング」等があり、ヨドバシカメラや無印良品、マツモトキヨシ、ユナイテッドアローズなどの店頭商品情報を検索できます。

5つ目は、ゲームの仕掛けを利用したものです。ゲーミフィケーションとも呼ばれています。位置情報と連動したソーシャルゲームが人気です。位置情報ゲームは、自分の居場所や移動距離に応じて、ゲーム上の街やキャラクターを成長させるためのアイテムや、ゲームで利用できる通貨などを取得して楽しむものです。リアル店舗に来店したり、商品を購入したりすると、ゲーム上の限定アイテムを取得できたり、ゲームのアイテムを購入すると、リアル店舗でいいサービスが受けられたりするようなサービスもあります。
コロプラの「コロニーな生活」やマピオンの「ケータイ国盗り合戦」などが有名です。「ケータイ国盗り合戦」が、大丸松坂屋で12年12月に実施したイベントでは、12月7日(金)~9日(日)に大丸梅田店、12月14日(金)~16日(日)に大丸東京店で期間中6日間に、3,400人集客し、売上約5,200万円、客単価15,000円以上を記録したそうです。
ゲーミフィケーションをうまく活用することは、O2O成功の大きなポイントになっています。店舗への来店促進や、自社の顧客満足度を上げるためにゲームを取り入れる企業は非常に多くなっています。

6つ目は、家族や友人へのギフトです。Facebook、mixiなどソーシャルメディア上の友人に対して、リアル店舗の商品やサービスを贈り物としてメッセージを添えて贈ることができます。リアル店舗が配信する無料クーポンとは違い、親しい友人からの贈り物のクーポンは多くの場合、嬉しいものです。
たとえば、ギフティ社の運営する「giftee(ギフティ)」は、Twitter、Facebook、Eメールを利用して、日頃の感謝やお祝いの気持ちを込めて友人・知人にちょっとしたギフトを贈れるサービスです。12年12月に、ファミリーマートとタイアップし、「スパイシーチキン」を友だちへクリスマスプレゼントするキャンペーンを実施しました。
また、キリンビールもFacebookなどのソーシャルメディアとギフトサービスを組み合わせたキャンペーンを実施したところ、好評だったようです。「グランドキリン」の年間販売目標を当初予定の約2倍に上方修正しています。ソーシャルギフト施策の好調が後押ししたそうです。

最後に見知らぬ人との出会いや社外交流を促すネットサービスも始まっています。消費者の日々のランチやお茶を飲む時間など、リアル店舗での消費に新しい体験や価値をプラスしてくれます。代表的なサービスが、レレレ社の「CoffeeMeeting(コーヒーミーティング)」です。利用者は、お茶をしたい空き時間を登録し、他の利用者からの申し込みを待ちます。「旅行」「音楽」「ビジネス」など自分と同じ興味・関心を持つ人を探してお茶をすることができます。

ネットのサービスを活用して、消費者にリアル店舗へ来店してもらうための、新しい提供価値の代表例を7つ取り上げました。ただ、O2Oというのは、まだ始まったばかりでさらに進化していきます。今後も続々と新しい消費体験を消費者に提供するサービスが生み出されていくと思います。
これらの7つのメリットは、それぞれ単独で提供されるとは限りません。ひとつのサービスで複合的に組み合わせて提供することもあります。特に、2つ目のソーシャルメディアでの共感は、どのサービスでも意識するようになっています。たとえば、ソーシャルメディアで話題になるようなキャンペーンと連動した特典クーポンを配信するサービスがあります。

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