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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.2 「電子書籍の今」 後編

電子出版の現在と未来

電子書籍とは「クラウド読書サービス」である

電子書籍の利点はいろいろありますが、いちばん大きいのは「場所をとらない」点です。"電子書籍"という呼び名はちょっと食傷気味なので、僕がおすすめしている表現は「クラウド読書サービス」です。電子書籍というサービスの本質は、インターネット上の本棚、図書館であり、蔵書のすべてが端末を通していつでもどこでも読めるということ。本好きにとっては、実に魅力的なサービスです。2010年の時点で、多くの人が「電子書籍=端末」ととらえてしまい、スマートフォンやタブレット端末に興味のある若いビジネスマンをターゲットに、ビジネス書などの電子書籍が数多くつくられましたが、"ガジェット好き"が必ずしも本を買うとは限りません。
機械に強くない読者にも、紙の本同様、まったく違和感なく読めるものにすること。電子書籍の普及のためには、電子書籍の一元管理は必要条件だと思うのです。
余談ですが、"プラットフォーム"という言葉を聞くと、僕は鉄道のプラットフォームを思い浮かべます。現在、日本の鉄道は、JRでも私鉄でも地下鉄でも乗り入れが進み、PASMOやSuicaといった共通のプリペイドカードで自由に乗り降りできるようになっているけれど、電子書籍はまだ、いちいち切符を買い直して乗り換えていた頃の状態ではないか――そんなふうに考えます。電子書籍サービスはまだまだ発展途上です。

本のユニバーサルデザインへ

前述のように、電子書籍のターゲットは、第一にこれまでの紙の本の読者と考えてよいと思います。しかし電子書籍であれば文字のサイズを最適化できますし、辞書機能や読み上げ機能、マルチリンガル表示を利用してもらえば、高齢者や視覚障がいのある人、日本語の得意ではない外国人など、これまで紙の本が届かなかった層にも本を届けることができます。つまり、電子書籍は「本のユニバーサルデザイン」となりえるのです。
そうなると、書店や図書館に行けない高齢者向けの電子書籍も、今後大きなマーケットになるのではないでしょうか。とくに時代小説のジャンルは有望です。司馬遼太郎や藤沢周平の作品が、シリーズごとにある程度まとめて読めるプリインストール端末を売り出す、そこに日本史大辞典などの便利なレファレンス機能を入れ、江戸の絵地図なども見たいときにパッと見られるようにする、などさまざまな企画が考えられます。CD-ROMのときにいろいろ試されたマルチメディア機能のノウハウを生かせば、さまざまな面白い作品がつくれると思います。
ただし、それ以前にまず、デジタルゆえのハードルを徹底的になくすことが必要です。紙の本なら、背表紙を見て、手にとってページを開けば、そこにすべてがある。電子書籍では、ダウンロードに待たされるとか、目指す本が見つからない、開き方がわからないといったことが、すべて読者の違和感につながります。電子書籍の作り手は、一読者の視点に戻って、違和感や負担感がないか、徹底的に検証すべきだと思います。電子書籍でも紙でと同じことができる、という一点に、今は集中したほうがよいかもしれません。

本に本気なプレーヤーの参入を

僕はデジタルと紙の両方に関わっていますが、つくづく本は実に複雑かつ繊細なメディアだと思います。一冊の本には長い歴史と文化が詰まっており、だからこそ、本づくりには骨が折れます。紙の本は、執筆、編集はもちろん、装丁、校閲、印刷、製本の過程で多くの人の手を通り、何度ものチェックを経て読者に届きます。それと同等以上の手間をかけて、本気で電子書籍づくりを志す覚悟を持ったプレーヤーだけが、今後残っていくでしょう。電子書籍が流行っているから、なんとなく儲かりそう、というだけのプレーヤーは時期をみて撤退せざるを得なくなると思います。紙の本をつくっている人たちと同じくらいに"本に本気"なプレーヤー同士がしのぎを削って、はじめて電子書籍は人々の生活に定着するのではないでしょうか。
まずは電子書籍ゆえのハードルをなくすため、予算と人材をかけて業界全体の環境整備を行う必要があります。それができないと、どのプラットフォームも共倒れになってしまう危険性すらあります。
電子書籍業界の未来は「バラ色」が約束されているものでもなく、先行きは見えません。しかし、それゆえにやるべきことが数多くあります。電子書籍だけに興味のある人だけでなく、紙の本が好きな人、今の本づくりに一言いいたい人、とにかく「本」に本気な人材がどんどん電子書籍業界に参入してきてほしいと願っています。

仲俣暁生(なかまたあきお)
1964年生まれ。編集者、文筆家。『ワイアード日本版』『季刊・本とコンピュータ』などを経て、2009年よりオンライン雑誌『マガジン航』編集人。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共著『編集進化論』(フィルムアート社)、編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)ほか。
マガジン航 http://www.dotbook.jp/magazine-k/blank

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