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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.8 電子書籍の課題と未来が見えてきた

電子出版の現在と未来

「電子書籍元年」は本当に来たのか?

「電子書籍元年」といわれた2010年。5月のiPadの発売を機に、ソニーのリーダー、シャープのガラパゴスといった電子書籍リーダーが次々と発売され、多くの大手書店や出版社、印刷会社、携帯電話会社が電子書籍の制作や配信に関わるプラットフォーム事業を立ち上げました。しかし、僕個人としては、2010年を「iPad元年」とは呼べても、マスコミで喧伝された呼称「電子書籍元年」をそのまま使う気にはなれませんでした。作り手としても、また一読者としても、この呼称には現実との間にズレがあると思えたからです。
あれから2年、スマートフォンやタブレット端末は日本にすっかり定着しました。しかし、2010年に騒がれたほど日本の電子書籍市場が拡大したとは思っていません。"電子書籍"という名称だけが一人歩きして、具体的な日本語版のコンテンツがそろっていないからです。電子書籍市場にはいろいろと激しい動きがあったものの、米国のように急速に電子書籍の普及が進んだわけではない。そういう受け止め方をしています。そもそも米国と日本では、電子書籍をめぐる状況がかなり違うのです。

読みたい作品がまだまだ電子化されていない

2010年以前から日本市場に定着している電子書籍コンテンツとしては、携帯電話向けのコミックがあります。少しエッチなレディースコミックなど、書店では買いづらいものがインターネットなどを介して簡単に入手できるという利点から、自然に広まった市場です。その流れを受け、現在、電子書籍の売り上げはコミックが中心となっており、マンガ市場全体に占める電子書籍の割合は1割を超えています。
また個人的には、円高の影響もあって洋書の電子書籍が安く手軽に入手できるため、大いに利用しています。洋書の電子書籍は、アマゾンのキンドルにしてもiPadのアプリにしても内蔵の英和辞典と連携できるので、紙の辞書を引きながら読むより楽だという利点もあります。また、著作権保護期限切れの和書などを無料で読める「青空文庫」もよく利用されています。
しかし、一般の新刊書にいたっては、以前よりは電子化が進んだものの、まだまだ一般には定着していません。コンテンツを増やすことはもちろん大切ですが、それ以前に、一つでも二つでも、みんなが絶対に読みたいと思う作品を電子書籍化することが必要です。読者が読みたいのは抽象的な"電子書籍"というものではなく、具体的な作品でしょう。『1Q84』とか『ワンピース』といった具体的な作品を買いに書店にいくわけで、漠然と"本"や"マンガ"を読みたいわけではない。同様に、"電子書籍"を読むためにスマートフォンやタブレット端末を買うわけでもありません。

紙か電子かを意識しなくなってこそ本物

日本で電子書籍化が進まない理由の一つとして、よく価格の問題が挙げられます。日本は紙の本の印刷品質が高く、値段も欧米に比べるとかなり安い。また、ブックオフをはじめとする莫大なセカンドマーケットも存在します。一般に、米国では、電子書籍はペーパーバックよりさらに安く買えますが、日本では、新品同様の中古本を新古書店で半額以下で買えることも多く、必ずしも電子書籍が"安い"とはいえないのです。だから、わざわざ電子書籍を買う必要はなく、紙でいいじゃないか、と考える人が多いのは当然のことと思います。
とはいえ、森林資源の問題もありますし、この先、紙媒体の本だけで出版界が成り立つとも思えません。紙でなければならない内容の本は、この先も紙媒体で残っていくでしょう。その一方で、デジタルに適した内容の本は、どんどん電子化されていくでしょう。
問題は、「"電子書籍"をいかに売るか」以前に、「読者が読みたい本を、いかに適切なかたちで読者に届けるか」。読者が"紙か電子か"を意識せず、好きな媒体で、いつでもどこでも読みたい本が読める――そんな状況が、いつが「元年」だったのかなど気づかないうちに、いつの間にか生まれていることが理想です。

日本の電子書籍が抱える問題点とは

米国で電子書籍が急速に普及したのは、価格の安さ、アマゾンのキンドルをはじめ使い勝手のいいデバイスの存在、読めるコンテンツの充実などが理由だといわれますが、それだけではないように思います。以前、米国に長く住んでいる知人から興味深い話を聞きました。電子書籍以前に、米国ではテープやCDのオーディオブックが普及していたそうです。車で通勤する人は、本を読むのでなく「聞き」ながら運転する。電子書籍にも読み上げ機能がついているので、途中まで自分で読んでから読み上げ機能に切り替えて、車を運転しながら、あるいは家事をしながら朗読を聞くということがごく自然に行われているというのです。なるほど、と思いました。生活の中での具体的な読書シーンが以前からでき上がっていて、そこに電子書籍がマッチしたのです。
日本でも、急速にスマートフォンやタブレット端末が普及しています。「インターネットにつながって何かを読む」ことに抵抗のない層が増えているのだから、日本の生活シーンに合ったサービスが生まれてくれば、電子書籍ももっと自然に利用されるようになるに違いありません。しかし、まだまだ電子書籍のサービスは、きめ細かさが足りない。なかでも最大の問題が、"本棚管理"です。
例として、僕自身の話をしますと、日々、仕事上でもプライベートでも、かなり多くの本を読んでいます。紙の本だけでも年間数百冊は買っているので、既読の本も未読の本も、つねに置き場に困っている状態です。そんな状態で目当ての本を探す場合、家中をひっくり返して探すことがよくあるのですが、絶対に買ったはずの本がなかなか見つからない(笑)。一方、電子書籍もなるべく買うようにしているのですが、過去2、3年の総計でのべ100冊程度で、手持ちの数を比較するとせいぜい紙の本の1~2%といったところです。たったそれだけの量なのに、購入した先の電子書店ごとにファイルができてしまい、アプリを一つ一つ開けていかないと、どこにあるかわからない。検索できるのが電子書籍のメリットのはずなのに、紙の本以上に本探しに苦労しています。もし、紙の本並みの数の電子書籍を管理するとなったら、いったいどうなることか、先が思いやられます。そもそも、同じフォーマットの電子書籍なのに、プラットフォームによって別の閲覧アプリで読まなければならないのも不便です。
異なるプラットフォームの電子書籍を一つの本棚で管理し、一つのアプリで読めるようになるためには、デジタルライツマネジメントなどの問題があり、まだ数年の期間を要するでしょう。しかし、一つの本棚で電子書籍を一括管理する仕組みは絶対に必要です。2012年春、電子書籍の一元管理ソフト「オープン本棚」がテスト公開され期待していますが、まだまだ改良の余地があります。
現在、電子書籍をもっとも利用しているのは、おそらく僕のような紙の本もたくさん読むヘビーユーザー層です。「紙の本しか読まない」層は一定数存在し続けるでしょうが、読みたいものを読めれば紙でも電子でもいいという層は増えていく、というのが自然な普及のしかたではないでしょうか。

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