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WEBマガジン グーテンベルクの遺伝子

vol.2 「電子書籍の今」 後編

ITジャーナリスト 佐々木俊尚氏 ロングインタビュー 電子書籍とタブレットがもたらすもの Step2

知のオープン化がもたらす、文化的、政治的、社会的な変革

中世ヨーロッパにおける宗教改革は、グーテンベルクによる印刷技術の発明が引き起こしたといわれています。それまで、聖書は大きな羊皮紙の本に書かれていて、教会の聖職者しか読むことができませんでした。それが印刷技術によって、誰もが聖書を読むことができるようになった。すると誰でも神の声が聞けるのだったら、神父さんはもう要らないじゃないかという“中抜き”が起こります。これがルターの宗教改革の真相です。つまり、印刷技術の発明は流通システムの変化だけではなく、大きな文化的、政治的、社会的な影響を中世ヨーロッパに与えたといえます。
だとしたら、今回の電子書籍化によるデジタル配信への変化が、より大きな新しいパラダイムシフトを誘発しても不思議ではありません。そのひとつとして考えられるのが「知のオープン化」です。現在の国立国会図書館では、著者名、書名、出版社名、刊行年月日、ジャンルくらいでしか検索できません。これが全文検索できるようになると、現代日本でも文化的、政治的、社会的に大きな変革を引き起こす可能性があるのではないかと思っています。
ここでも重要なのはコンテナであり、コンベアは何でもいいということです。紙が好きな人は、紙で読めばいいのです。問題は、デジタル配信でダウンロードできるかどうかです。例えば、三省堂の神田本店にはグーグルブックスからダウンロードして、その場で印刷・製本してくれる高速印刷製本機があります。見た目は本なのでコンベアは紙ですが、これもコンテナはデジタル配信による電子書籍なのです。
しかし、こうした文化的多様性を確保するのが、流通プラットフォームの変化であるという事実に多くの人が気づいていません。将来、国立国会図書館の全文検索が実施されて、いわばエスプレッソマシーンのようなもので買えるということになれば、これは読み手にとってものすごく大きなメリットになるはずです。

電子デバイスの普及促進が、一気に加速化させる市場拡大の可能性

電子書籍化は、宗教改革のように現状の流通システムを壊す可能性があります。そこへの不安感や危機感が、現在の日本の流通システムの変化を阻む最大の要因となっています。事実、日本の電子書籍化は、まだまだ進んでいるとは言えません。
ただ、アメリカでは近い未来、アマゾンがキンドルを無料で配布するのではないかと“うわさ”されています。アマゾンとしては、キンドル自体の販売ではiPadには勝てない。だったら、キンドルストアの書籍を買ってもらうことで利益を出したほうがいい、という方向にシフトしていっているようです。日本でもキンドルが無料で配られるようなことになれば、一気にそこへ行く人も増えるでしょうし、市場が拡大していけば出版社も書籍を提供するようになるでしょう。書籍の点数が少ないので買わない、買わないから市場が拡大しない、市場が拡大しないから出版社も利益が出ない。こうした悪循環を断ち切る、ひとつの契機になるかもしれません。
もちろん、日本でも電子書籍ビジネスをはじめている出版社はいくつもありますが、聞こえてくるのは「ぜんぜん売れない」という声です。まぁ、デバイスもまだまだ普及しておらず、インターネット上でものを売るためのノウハウがまったくないという状況では売れるわけがないですよね。実際、これまでのプロモーションは、新聞社や雑誌編集部に献本をして、特集を書いてもらうとか、それぞれに広告出稿をするとか、書店などの店頭POPくらいしかありません。しかし、考えてみてください。電子書籍化によるプロモーションは、基本的にインターネット上でキャンペーンをするしかないのです。ブロガーやツイッターをする人の中には、影響力のある書評を書いている人もたくさんいます。そういう人たちに献本をするとか、キャンペーンをしてもらうとかさまざまな方法が考えられるでしょう。また、これをするのが出版社のような大組織である必要はないのかもしれません。

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