2016/11/17

凸版印刷、北斎幻の大絵馬を推定復元
葛飾北斎晩年最大級で幻の傑作とされる「須佐之男命厄神退治之図」が、
最先端のデジタル技術と伝統技術・学術知見の融合で、約100年ぶりに復活

 凸版印刷株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:金子 眞吾、以下 凸版印刷)は、墨田区が進める、葛飾北斎晩年最大級の傑作といわれる大絵馬「須佐之男命厄神退治之図 (すさのおのみこと やくじん たいじのず)」の復元プロジェクトに参画。関東大震災で焼失した「須佐之男命厄神退治之図」の残された白黒写真から、凸版印刷の最先端デジタル技術を活用し、撮影された当時の彩色された絵馬を原寸大で推定復元しました。

 極めて難易度の高い白黒画像からの色彩復元ですが、凸版印刷が培ったデジタルアーカイブ技術と伝統技能を有する職人達の技、科学的調査と美術史などの知が調和融合することで、彩り豊かに復元されました。
 なお、この推定復元された「須佐之男命厄神退治之図」は、2016年11月22日(火)に墨田区両国にオープンする「すみだ北斎美術館」にて一般公開されます。墨田区と北斎のつながりをしめす資料として地域学習や歴史教育にも活用されます。
 
  今後も凸版印刷は、デジタルアーカイブ技術を更に高めていき、貴重な文化財や美術工芸品、文書資料などの次世代への継承に貢献していきます。

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「 須佐之男命厄神退治之図 」 推定復元(原寸大) 完成図
■葛飾北斎「須佐之男命厄神退治之図」の推定復元ついて
 「須佐之男命厄神退治之図」は、弘化2(1845)年、北斎が86歳の時に描いた肉筆画で、牛嶋神社(東京都墨田区)に奉納されました。須佐之男命と、その従者の前に15体の様々な厄神がひざまずき、今後悪さをしないように証文を取られているところが描かれています。
 幅約2m76cm×縦約1m26cmという北斎晩年最大級の傑作でしたが、大正12(1923)年の関東大震災で焼失しました。しかし、日本最古の美術雑誌「國華」240号(明治43(1910)年刊)などに、白黒コロタイプ印刷(※1)の画像が掲載されており、これが現代に残る画像資料となっています。
 今回、「すみだ北斎美術館」開館を進める墨田区から、これまでの浮世絵版画や版本のデジタルアーカイブ撮影および複製制作における実績や、文化財取扱への評価を受け、凸版印刷は平成27(2015)年より、「須佐之男命厄神退治之図」調査および推定復元制作に着手しました。

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「國華」240号(明治43年5月号)掲載 (國華社)
■推定復元の作業について
 推定復元の精度を高めるため、科学的観点と人文学的観点の双方から、それぞれの専門家の監修の元で調査を実施。凸版印刷は、これまでに培ったデジタルアーカイブの知見を活かし、監修の協力を得ながら色彩の推定復元プロセスを設計、構築。プロジェクトのキーとなる再現撮影を担うとともに、分野の異なるプロフェッショナルが集まる本プロジェクトで、その知見を融合し、復元を実現化する役目を果たしました。

1)写真科学的調査
 「國華」掲載の白黒画像は、明治時代の高い技術で撮影され、高精細かつ保存性の高いコロタイプ印刷で残されていました。この画像における白黒の階調と、その元となった絵具の色との関係性を適切に理解するには、当時の撮影技法を解明する必要がありました。そのため、同時期に発行された「國華」に掲載され、なおかつ現存している作品を調査。条件に最適であった作品を所蔵する徳川美術館(愛知県名古屋市)の協力により調査撮影を実施、感光材料や撮影技法についての分析を行いました。
 この分析結果により推定された条件で復元図を撮影。その結果と「國華」の白黒画像とを比較することで、彩色の妥当性について客観的な検証ができるようになり、写真科学的な評価方法が確立されました。この評価方法は、東京文化財研究所 保存環境研究室長 吉田直人氏の工程監修のもと、構築しました。

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写真科学的調査の様子:(左)フィルムを用いた再現撮影 (右)復元途中経過の再現撮影結果例
2)人文的調査
 天野山文化遺産研究所代表理事山内章氏の協力を得て、北斎が晩年に残した絵手本『画本彩色通』(えほんさいしきつう)や、同時期に描いた肉筆画などを調査することで、絵具の重ね方・線の描き方といった晩年の北斎の表現技法に迫っていきました。さらに、水損・剥落状態など画像上の作品のコンディションから使用された絵具の性質を求めるなど、撮影画像に記録された情報も精密に調査しました。
 描かれたモチーフに関わるような民俗学や民間信仰、有職故実、江戸時代の疫病やその浮世絵表現を参照し、より確かな復元図となるよう彩色・配色とその根拠を追及しました。
また、作品の美術史的観点からの意義やテーマの読み取りについて、十文字学園女子大学 准教授 樋口一貴氏のご協力を得て調査をしました。

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人文的調査の様子:(左)写真に記録された様々な情報を読み解く (右)絵具の重ね方まで考慮したパレットを用意
3)原寸大彩色複製の制作
 複製制作は、繰り返し行う検証・修正作業に耐えられる技術として、肉筆ではなくデジタル技術を選択。作品の表現の豊かさを損なわないため、曖昧になった線描の描きおこしや彩色見本の制作については職人の手作業を活用することで、デジタル技術と伝統技術とを融合しました。さらに作業経過は調査段階で確立した再現撮影法による科学的評価や北斎の専門家による人文的評価を重ね、検証と修正を繰り返し行うことで精度を高めていきました。
 インクジェットでは表現できない金箔・金泥や、特殊な表現技法については、手作業での仕上げを施し、この絵馬の原寸大彩色複製を完成させました。

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色彩再現の様子:(左)白黒画像の情報を最大限に活用しながらデジタル彩色 (右)デジタル表現の限界は手彩色で補う
■ 「須佐之男命厄神退治之図」原寸大彩色複製について
・図像部:インクジェットプリント 金箔金泥 一部手着色   ・額部:ケヤキ無垢材に古色付け
・サイズ:額外寸 約2980mm×約1460mm 額内寸 約2760mm×約1260mm
・制作:凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター
・監修(彩色):一般社団法人 天野山文化遺産研究所 代表理事 山内章氏
・監修(再現撮影):東京文化財研究所 保存科学研究センター 保存環境研究室長 吉田直人氏
・監修(美術史):十文字学園女子大学 人間生活学部 文芸文化学科 准教授 樋口一貴氏

・収蔵: すみだ北斎美術館

 

■ すみだ北斎美術館館長 菊田寛氏のコメント
 今回、推定復元された「須佐之男命厄神退治之図」は、北斎が晩年に地元の牛嶋神社に奉納するために描いた肉筆の大作で、北斎とすみだ北斎美術館が建つ地域の繋がりを強く示す貴重な作品です。この作品が当時の色合いに可能な限り近い形で復元されることは、かつて人々がこの作品から受けた印象や感動を、現代の私たちが体験できるものであり、このことからも高く評価できます。また、専門的な見地から新たな解釈や作品の背景、状況が明確になる可能性も高まり、後世まで継続して研究を続けることができるのではないでしょうか。

■ すみだ北斎美術館 について
 世界的な画家として評価の高い「葛飾北斎」は、本所割下水(現在の北斎通り)付近で生まれたと言われており、およそ90年の生涯のほとんどを区内で過ごしながら、多くの作品を残しました。墨田区では、この郷土の偉大な芸術家を区民の誇りとして永く顕彰するとともに、観光や産業などの地域活性化の拠点ともなる施設「すみだ北斎美術館」を開設します。作品の展示はもとより、収集保存、情報提供、教育普及など、北斎生誕の地の美術館にふさわしい事業を幅広く展開していきます。 
開館および展示の詳細は「すみだ北斎美術館」ホームページをご覧ください。

http://hokusai-museum.jp/

 

■凸版印刷のデジタルアーカイブ について
 凸版印刷では人類のかけがえのない資産である文化財の姿を後世へ継承するため、印刷テクノロジーで培った色彩を管理する技術と高精細画像データ処理技術、形状をデジタル化する三次元計測技術を核に、より精確なデジタルアーカイブを行うため、文化財専用の大型オルソスキャナーを開発するなど、技術開発を積極的に進めています。
 「オリジナル」のもつ価値を提供するため、最先端の技術と、伝統的な技・学術的な知を融合し、企業や大学・自治体などの所有する貴重史料についても、「喪失・散逸・劣化リスク対策」と「活用」が両立されるサービスを展開します。

※1コロタイプ印刷
 コロタイプ印刷とは、写真製版法を使った印刷技法の中で最も古いもので、網点の大小ではなく、版面のゼラチンの不規則なしわを利用し、そのインキの受容性の多少によって濃淡を表現する印刷方法である。平版方式で網点を用いない連続階調の印刷方法であり、代表的な長所は写真の調子を他のどの版式よりもよく複製できることである。このためコロタイプ印刷は、写真や絵画などの複製を得意とし、網点では再現できない印刷に利用されてきた。


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以上
「須佐之男命厄神退治之図」原寸大彩色複製 紹介動画

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