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会社史に託す夢 -私的会社史論-

第2回 企業出版物としての会社史 東京大学大学院経済学研究科 教授 武田晴人
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未来との対話
 しかし、社史を通して実現する対話は、それだけに限りません。未来との対話という側面があるのです。

 書物という情報の媒体の持つ特性がここに良く表れています。テレビやラジオ、新聞やバンフレットなどの媒体は、伝えられる情報に即時性や時限性が備わっています。今ほしい情報、今伝えたいことがこれらには詰め込まれており、時間がたてばその情報は陳腐化してしまいます。それだけに、こうした媒体は保存されることもあまり想定されていないのです。インターネット上の情報もそうした性格を持っています。1週間も新しい情報が書き加わらないホームページは、情報源としての価値が下がるとさえいわれる時代です。即時性は、この媒体ではより一層顕著です。

 それに対して、書物としての社史には、即時性はありません。どんなに頑張っても、印刷に回す直前の時期の情報をのせるのが精一杯で、それ以上短縮はできないからですし、そうした締め切り間際の情報は、歴史的な検証をすませていないテンタティブな情報になります。

 その反面では、書物としての形態を持つために、社史は長い時間生き残り、未来に記録を伝えます。紙に印刷するという形の情報媒体は、今のところ人類が発明した情報媒体の中では、最も安定的に情報を保存する方法のようです。この点では、マイクロフィルムでもかないませんし、最近のCDROMやDVDは、可能性はあっても未検証で不安定です。なによりも、特定の機械を必要としないこと、つまり、マイクロフィルムのリーダーとかパソコンとかを必要としないことは、決定的な利点になります。

 一方的な語り口にはなりますが、社史を通して企業は、未来の社会に生きる人たちに、私たちの時代の姿を語りかけることになります。私たちが、さまざまな形で残っている古文書を読むように、そしてそこから豊富な歴史の事実を知ることができるように、未来の人たちに、伝えることができるのがPR手段としての社史の優れた特徴です。

 しかし、書物はこうした保存性が良いという特性の反面で、簡単には作り換えられない、書き直せないという問題もあります。ホームページで仮に誤った情報が流れたとしても、−そんなことは滅多にないでしょうが−それは訂正することができますが、社史ではそうはいかないからです。とくに、10年とか、場合によっては100年とかに一度という周年事業で編纂される社史の場合には、この問題点は際だってきます。

過去との対話
 しかし、書き換えられないという欠点は、過去との対話という側面を社史にもたらします。正確には、社史の編纂事業に過去との対話を求めることになります。そして、その対話を通して得られた歴史の姿が社史に結実することになり、今、そして未来の読者に語りかける内容になるからです。

 書き換えられないから、できる限り正確を期し、歴史像を再現する必要があります。だれでも歴史の書き手は、そうしたことを願うものです。そして、この願いを実現するためには、いろいろな資料を集め、話を聞き、集めた資料を丹念に読み、資料の空白の部分を推定して補いながら、歴史の叙述を進めます。そこでは、記録を通して、その企業の活動に関わったたくさんの人たちとの対話が必要になります。「なぜ、この時、こういう決断をしたのか」「こういった経営環境をどのように受け止めていたのか」。編纂者の一つ一つの疑問に、資料がすべて応えてくれるわけではありませんが、そうした真摯な対話が、社史の記述を精彩のあるものにし、記録としての確かさを高めていくことになります。

 もちろん、これは社史がPRの手段として役に立つということとは別の事柄ですが、そうした対話は、社史の原稿ができあがり、社内で校閲を受けて、正式な原稿としてまとめられていく中で、社内で追体験され、関わった社員に共有されることになります。注意しなければならないのは、このプロセスが、しばしば、現在との対話にすり替えられて歴史をゆがめることがあることです。つまり、編纂者や校閲者が、「上司の顔色をうかがう」ことで、会社の今に都合の良い、あるいは波風の立たない方向に、叙述を書き換えたりすることがあるということです。しかし、そうした短期的な視点は、社史が書き換えられない情報の媒体であることを考えると、「恥を後世にまでさらす」ことになるのです。反対に、この取り組みが真剣に行われれば、それは他では得難い体験として、その企業の資産として批判的な精神と活力のある企業の風土を保証するのではないかと思います。

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