TOPPAN 凸版印刷株式会社

当サイトは、コミュニケーションメディアのひとつである印刷表現の幅を広げ、クリエイティブに役立つ情報を発信するウェブサイトです。凸版印刷のグラフィック・アーツ・センター(GAC)が運営しています。

EVENT REPORT イベントレポートGACからのお知らせや関わったイベントをレポートします

GRAPHIC TRIAL 2014 ギャラリートーク 浅葉克己×松井孝典

「GRAPHIC TRIAL 2014 ―響。―」に参加した浅葉克己さんがゲストに松井孝典さんを招いてのギャラリートーク。(於:印刷博物館 P&Pギャラリー、2014年7月17日)

「GRAPHIC TRIAL 2014―響。―」のギャラリートークもいよいよ最後のプログラムとなりました。アンカーを務める浅葉克己さんは、日本を代表するアートディレクターとして、また、文字研究家、書家、ピンポン大使として八面六臂に活躍するとともに、オピニオンリーダーとしてジャンルを超えた方々とも幅広く交流を行なっています。
その浅葉さんが今回、ゲストに招いた松井孝典さんは惑星研究の第一人者。地球物理学から宇宙物理学、哲学までを縦横無尽に行き来する学際的な地球学を提唱し、宇宙を基点とした独自の視点から地球を読み解いてこられた方です。

われわれはどこから来てどこへ行くのか

浅葉
テーマを書で書いてきました。今日は宇宙から文明まで。すごい話になりますよ。

松井
宇宙・地球・生命・文明というと、デザインにはあまり関係ないだろうと思われるかもしれませんが、実は非常に密接な関係があるんです。自らを「デザイン科学者」と称したバックミンスター・フラー(※1)は、考え得る対象として一番大きなものは宇宙だと唱えました。
普通、宇宙というと物質的な宇宙を考えますよね。しかしフラーは、「そこ(宇宙)に我々がいる」という概念が一番大きなものと考えたんです。我々が頭の中でデザインした宇宙は実体として生活の中にあり、それも含めて宇宙なのだとして、それをいろいろなことで表現しています。いわば表現するということは非常に重要なことなのです。
浅葉
いいですね。では、まずは宇宙から話を進めていきましょう。
今回、松井先生に以前書いていただいた文章を、書で書いてきました。会場の皆さんにお配りします。

われわれはどこから来てどこへ行くのか。
今から6500万年くらい前、恐竜をはじめとする多くの生物が突然絶滅した。その原因は長らく謎とされたが、1980年、それが直径10kmを超える隕石の衝突によって引き起こされたことが明らかにされた。
その後10年ほどして、その衝突であるクレーターがユカタン半島で発見された。直径200km近いこのクレーターは、今は地表から数kmの地下に埋もれている。
その衝突によって想像を絶する天変地異が引き起こされる。
その詳細を記録した地層の一部がこの写真である。
我々の調査チームがキューバで発見した。
この地層には、衝突によって引き起こされた地球史上最大の(波高300mに近い)津波の痕が残されている。

K/Pg境界層2(松井孝典)

浅葉
タイトルは「われわれはどこから来てどこへ行くのか」。意味深ですね。
松井
この天変地異で恐竜が滅び、多くの生命が絶滅しました。
浅葉
この事実がわかったのが1980年…最近ですよね。直径10kmを超える隕石が地球に衝突したのが原因ですか。そのクレーターが直径200km?大きいですねえ。(※2)
松井
実際には6550万年前になります。この時発生した津波は地球史上最大の津波で、アメリカ大陸での波高は300mというものすごい現象だったと言われています。
浅葉
ということは東京タワーくらいの高さがあったんですか?
松井
そのくらいですね。
浅葉
そんな大きな津波が来たら、我々はどうしたらいいんですかね。
松井
エネルギーがものすごく大きな現象は稀にしか起きない、というのが、宇宙ではある種コンセンサスになっていますから、まだ大丈夫なんじゃないでしょうか。
ただ、エネルギーの小さな現象は頻繁に起こり得ます。我々人間はエネルギーの小さな現象には慣れていますが、これほど大きなエネルギーが解放される自然現象は考慮に入れられないものです。これこそ人間の最も大きな浅はかさでしょう。考えるべき時間スケールがあまりにも短いんですね。フラーはそのことを指摘し、「長い時間スケールで考えなければいけない、大きな視野で物事を見なければいけない」と言っているわけです。
浅葉
デザインでも、目の前の仕事に囚われてばかりいてはだめだということですね。

自然の古文書を読み解く

お二人が懇意になったきっかけのひとつとなったものが、2010年、六本木の21_21 DESIGN SIGHTの企画展「REALITY LAB - 再生・再創造」展での作品「われわれはどこから来て、どこに行くのか。」(浅葉克己+松井孝典+鈴木薫)でした。今日は特別にそのポスターの一部を展示。モチーフとなった隕石や地層標本を見ながら話は続きます。


「われわれはどこから来て、どこに行くのか。⑤ K/Pg境界線1」
21_21 DESIGN SIGHT「REALITY LAB - 再生・再創造」展より

浅葉
こうしたものが地球の歴史の古文書だと松井先生はおっしゃっていますね。
松井
そうなんです。自然というのは、宇宙の誕生以来の歴史が書かれた古文書であり、それをどう読み解くかが自然科学になります。皆さんは古文書というと文字で書かれているものだと思うでしょうが、我々科学者からすれば、化学元素や地層などそのすべてが文字なのです。
浅葉
ここに先程の津波の跡が現れているわけですか?
松井
このK/Pg境界層(※3)を読み解くと6550万年前に何が起こったかがわかります。並行に見える模様の上に乱れている部分がありますね。これは堆積環境が乱れていたことを示す斜交層理(しゃこうそうり/※4)というもので、実際の津波の跡なのです。これを読み解くと、どちらの方向から何波押し寄せたかが全部わかるんです。
浅葉
かたちや模様など、非常に抽象的なことから読み取っていくんですね。難しいですねえ。
松井
逆に僕は墨で書いたような古い日本語の古文書は読めないんですよ。こういうものはある程度卓越しないと読めないのは仕方がないことで、読もうと思ったら言葉を勉強しないといけない。同じことです。
この“自然の古文書”として重要なもののひとつが隕石です。この次のポスターは鉄隕石ですね。


「われわれはどこから来て、どこに行くのか。⑫ 鉄隕石の断面」
21_21 DESIGN SIGHT「REALITY LAB - 再生・再創造」展より

松井
昔々、ギリシャなどでは“星”と“鉄”は語源が同じでした。それは鉄隕石が空から降ってくるのを知っていたからです。鉄隕石を星のかけらだと思っていたんですね。 鉄隕石というのはゆっくり冷えないとできません。場合によっては100万年に1℃、早い場合でも10万年に1℃ぐらいの速さで冷えなければできず、その過程でウィドマンシュテッテン構造(※5)という奇妙な模様をつくりだします。これは人類の技術がどんなに発達しても絶対つくることができない模様ですよ。
浅葉
きれいですねえ。

隕石から読みとれるさまざまなこと

小惑星帯から来たもの、彗星の破片、月や火星など近隣の星から来たもの…と、隕石といっても由来はさまざまです。ただし、月や火星から来た隕石は地球のものととてもよく似ているので発見が難しいといわれています。砂漠や南極のように特殊な環境下で発見されたものが多いのはそのためだとか。ここから話は隕石から何が読みとれるか、さらに深く迫りました。

松井
始原的な隕石(※6)からは、地球をつくった材料物質を示してくれることがあります。1969年、オーストラリアに落ちたマーチソン隕石が始原的な隕石で、特徴は水が大量に含まれていることでした。さらにアミノ酸など、生命をつくる材料物質がたくさん含まれていました。アミノ酸は50〜60種類も含まれていたそうです。我々の身体を構成しているアミノ酸は20種類ですから、それよりずっと多くのアミノ酸が含まれていることになります。
宇宙で生命の材料物質がつくられるという説がありますが、それは皆、この隕石の情報が元になっているんですね。


「われわれはどこから来て、どこに行くのか。⑪ マーチソン隕石」
21_21 DESIGN SIGHT「REALITY LAB - 再生・再創造」展より

浅葉
生命の誕生ですね。オーストラリアは広いし、セスナを使わないと移動もままならないのに、こういうものがよく見つかるものですね。
松井
マーチソン隕石は落下が目撃されたのですぐに発見できたんです。しかもすぐ採取できたために地球のいろいろな生命・菌などにさらされる前に分析することができました。
その他にもオーストラリアでは変わったものがいろいろ見つかっていますね。地球上で最古の細胞化石もオーストラリアで発見されたんですよ。これは約35億年前で、最初の生命の化石だと言われています。でも、実は生命の起源はもっと古いのではないかとも言われているんです。というのは、直接そのものの化石というわけではないのですが、生命の痕跡を示すような化石が発見されていて、これは約38億年前のものなんです。最古の細胞化石もオーストラリアですし、何か因縁のようですよね。
浅葉
不思議ですね。われわれはどこから生まれたんでしょうね。

グラフィックトライアルから読み解く火星

こうして火星の話が出たところで、話題は今回の浅葉さんの作品で使われている火星の画像へと移りました。

浅葉
以前、松井先生に「地球儀と火星儀を毎日見て宇宙のことを考えなさい」と言われましたね。あれから、このように地球儀と火星儀を並べてずっと宇宙のことを考えているんですよ。ある日、NASAが撮った火星の写真集を見つけたんです。これはすごいと思いました。水の痕跡があった印象があり、しかも書のように見える。「これだ!」と思い、何かの痕跡を感じるものを3万点ある写真の中から選びました。

浅葉
これも不思議なんですよ。穴があいていて、その中にもう一個空間があるというのは、どうにもね。
松井
これはクレーターで、天体衝突の跡ですね。火星の場合、クレーターができた後には水がたまることがあります。これは中心付近に縞模様が見えるでしょう?これは水があった痕跡ですよ。湖の底にできるような堆積層ができて、このような地形が残されたりするんです。
今、火星のゲールクレーター(※7)という場所ではキュリオシティという非常に大きな探査車が動いていますが、そこも水があった可能性が高いところです。キュリオシティはそこで生命の痕跡がある化石を見つけようとしているんですよ。

浅葉
もしかしたらここにも火星人がいたかもしれませんね。
松井
生命の探査というのは本当にものすごく難しいんです。なぜなら火星で生命の痕跡を見つけても、それが火星産だと証明しなければならない。ところが探査機が降りると、探査機自体に付着していた地球生命がそこにはびこってしまうんですね。探査機を打ち上げるときに100%滅菌することはできませんから、何か見つけてもそれが火星産の生命かどうかを証明すること自体が非常に難しいんです。でも化石なら、火星で生命が生まれた証拠になります。
浅葉
なるほど。
僕はね、このまわりの飛び散ったような跡が、墨のように見えたんですよね。だから右上に僕の筆蝕(痕跡)として、ジャクソン・ポロックを意識した絵を描いて入れました。
松井
このクレーターはウェットなところにできているので、他の天体にはない独特な模様をつくりだしているんです。これは破片が飛んだ放出物がつくる模様です。確かに筆で書いたときに飛び散る墨のように見えますね。浅葉さんのイメージはかなり本質を突いているのだと思います。

浅葉
これなどは人間が書いたとしか思えない。誰かが墨を垂らしたんじゃないかという感じでね。
松井
確かに、上の方にある地形は水が流れた跡ですね。島のように残った部分は洪水河床地形に特有の物です。
浅葉
この写真は、一番“痕跡”を感じてね。右上には薄墨で点を描くことにしました。(会場に向かって)みなさん、書の世界では点は打つんじゃなくて、“書く”ものなんですよ。
松井
それはすごく本質的な話ですね!というのも、すべては“点”だからです。一言に“線”と言いますが、線というものは点の集合なんですよ。これは「連続が自然の本質なのか、点そのものが本質なのか」という、自然界でもデザイン界でも通じる、非常に深遠な問いに繋がっていくものだと思います。

これからも宇宙と地球の痕跡を追いかけて

話が火星に及んだところで、この機会に火星とその調査について松井さんに教えていただくことに。

松井
火星にはほぼ2年ごとに探査機が飛んでいますから、ものすごい数の探査機が飛び交っていることになります。火星に探査機を着陸させるためには、地表の詳細な画像データが必要です。そのために偵察衛星などでものすごい数の画像データを送っているのです。今回浅葉さんが使われた画像もそうしたもののひとつです。
浅葉
火星には昔、水があったと聞きましたが。
松井
今もありますよ。地下にですけどね。探査機で明らかにされていますが、高解像度で撮ると地形が変わっていくのが見えていて、その地形が水の流れた跡のように見えることから、地下から水が湧き出たことがわかっています。ただ水の量がどれだけあるかはまだ不明ですが。
浅葉
そうなんですね。
水があったのなら、火星人がいてもいいですよね。太陽系で生命がありそうな星として、火星とエウロパとタイタンがありますね。
松井
エウロパ(※8)というのは木星の衛星です。中心は岩石ですが、表面100kmほどは海になっています。凍っていますけどね。要するに地球でいえば北極海のような感じです。海の底には熱水噴出孔があり、熱水が湧き出ているのではないかと考えられています。地球でも同じような熱水噴出孔があって、その周りには非常に特殊な生態系があることがわかっているので、似たようなものがエウロパにあるのではないかと考えられています。ジュノーという木星探査機では、エウロパに降りて氷を破って海に潜り、海の中を探査しようという計画も進められています。
タイタン(※9)は土星の衛星で、地球とよく似た大気があります。タイタンの大気はほとんどが窒素で構成されていて、メタンのもやが大気を覆っています。これは地球の原始の大気の姿と同じようなものと考えられるため、生命がいる可能性があるんです。

浅葉
他に生命がいそうな星はありますか?
松井
コメット(彗星)も可能性はあります。太陽に近づくと蒸発するガスを吹きながら飛んでいる天体です。この破片が地球軌道と交叉すると流れ星になります。
浅葉
夜空を見上げると流れ星が見られますよね。けっこう落っこちてくるものだなと思ってよく見ているんですよ。
松井
流れ星の大部分は彗星が壊れてできたものです。彗星は太陽に接近して次々と壊れては流れ星をつくっているわけです。それに、昔は現在よりももっと活動が盛んだったという説もあります。昔の神話には、そう解釈できる記述がたくさんあるんですよね。中でも今、私が興味を持っているのが龍の神話です。神話に出てくる龍は、彗星や流星雨や火球に見られる現象が元だったんじゃないかと思っているんですよね。
浅葉
龍!ドラゴンですね。松井先生の最新のテーマのひとつなんですよね。龍は中国でよく見られるような気がしますが。
松井
龍は世界中にある想像上の動物です。中国にもヨーロッパにも、南米にもあります。それらにだいたい共通しているのが洪水伝説。これらはすべて彗星が原因だと考えれば容易に合点がいくんです。今は龍の伝説を調べてみようと考えています。
浅葉
神話と宇宙もつながっているんですね。松井先生はほかにも多くのプロジェクトを持っているんですよね。
松井
福井県の三方五湖(みかたごこ)の水月湖の堆積層の分析を始めました。過去10万年間の地球に降ってきた宇宙からの物質の詳細な記録を解明するためです。この汽水湖は非常に静かな堆積環境にあるため10万年分の年縞(※10)が見えるので、これを詳細に分析することで宇宙からの痕跡を読みとろうと考えています。
現在もなお、宇宙のことはほとんどわかっていません。誰かがやらないのなら自分でやるしかない。自分でやらないと宇宙の古文書は読めないですからね。
浅葉
自分で動く。大切ですね。
残念ですがそろそろ時間です。今日は素晴らしい話をありがとうございました。

現在でも10あまりのプロジェクトを抱えて研究に打ち込んでいるという松井さん。今回の作品で浅葉さんが制作した薄墨の“MARS”のタイポグラフィに感銘を受け、現在企画中の書籍での使用を考え始めたようでした。近いうちにお二人のコラボレーションが書籍の装丁で見られるかもしれません。
最後に、ステージから降りながら浅葉氏が「松井先生の本を読むと未来が見えてくるんですよね」と呟きました。つい先日も『我関わる、ゆえに我あり――地球システム論と文明』(松井孝典著/集英社新書)を読み出したら徹夜してしまったとか。次々と飛び出てくる最前線の宇宙と地球の話に、あっという間に過ぎ去った1時間半でした。

脚注

  • ※1リチャード・バックミンスター・フラー:アメリカ合衆国のデザイナー・建築家・思想家(1895-1983)地球は宇宙を漂う一隻の船であり、私たち人類はこの船に乗り合わせた運命共同体だと唱えた。
  • ※2メキシコユカタン半島の北西端で発見されたチチュルーブ・クレーターのこと。
  • ※3K/Pg境界層:中生代(白亜紀)と新生代(古第三紀)の境目となる6550万年前の地層のこと。
  • ※4斜交層理(しゃこうそうり):水流や風の速さや向きが変化する環境で堆積が起こったときにできる、層理面と斜交した細かな縞模様のこと。
  • ※5ウィドマンシュテッテン構造:隕鉄の生成過程で冷却時間が10〜100万年程度かかって発現する、ニッケルの結晶化構造。
  • ※6始原的な隕石:全体が融けた形跡のない隕石のこと。太陽系ができた頃の物質をそのまま集めたものとされる。
  • ※7ゲールクレーター:火星のエリシウム平原に位置する。NASAの火星探査計画マーズ・サイエンス・ラボラトリー (MSL) により、探査車キュリオシティが2012年8月に着陸している。
  • ※8エウロパ:木星の第2衛星。内側から6番目の軌道を回っている。
  • ※9タイタン:土星最大の衛星。太陽系では木星のガニメデに次ぐ2番目に大きい衛星でもある。
  • ※10年縞(ねんこう):氷河堆積物や湖水堆積物に見られる年周期の縞模様。層に含まれる物質やその同位体の比などから、各年の自然環境を解読できる。
  • ご意見・ご感想・お問い合わせ 
  • 著作権について 
  • 個人情報保護方針
© 2002 TOPPAN PRINTING CO., LTD.