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GRAPHIC TRIAL 2014 ギャラリートーク 長嶋りかこ×服部一成

「GRAPHIC TRIAL 2014 −響−」に参加した長嶋りかこ氏とゲスト服部一成氏によるギャラリートーク。(於:印刷博物館 P&Pギャラリー、2014年6月18日)

「GRAPHIC TRIAL 2014 −響−」が始まって約10日。参加クリエーターがゲストを招いてトークを繰り広げるギャラリートークの第一弾は長嶋りかこさんです。第二回目の「GRAPHIC TRIAL 2007」に参加した服部一成さんをゲストにお招きし、「GRAPHIC TRIAL 2014」の作品に囲まれた会場で、それぞれの仕事や作品づくりを巡るトークの花が咲きました。

「GRAPHIC TRIAL 2007」 服部一成氏の作品を巡って

普段から「服部さんにいろいろお話を聞いてみたかった」という長嶋さん、まずは服部さんが過去に作られたグラフィックトライアルの作品を話題に取りあげました。

長嶋
服部さんのグラフィックトライアルって、色の表現でしたよね。色分解の網点を線で表現し色を表現した作品でしたが、一番始めはその色分解を手書きで描いて色のチャートをつくっていたという話を凸版印刷の方から聞きました。
服部
この時は何をやろうか困り果てまして。普段の仕事と違って決められたテーマがあるわけじゃないので、印刷をテーマにつくるしかないかなと考えることにしたんです。それでCMYKの網点で何かやってみようと思いました。そこから「ならばいっそ手描きで」、「網点のドットより線のほうがきれいかな」って。ほら、エッチングなどでは影を斜線で表現しているのがあるでしょう、あんな感じにできたらきれいだろうなと思って、チャートを手描きでつくってみたんです。それから「写真もアリかな」って。分解したK版とY版に、手描きのM版とC版を重ねてみました。

服部一成氏のグラフィックトライアルレポートはこちら

長嶋
具体的には、どうやって描いたんですか?
服部
写真をスキャンしてパソコンで4版に色分解して、それぞれスミで出力して、M版とC版だけは透過させながら手で描いたんです。本当は手描きと写真の中間のようなものを想像していたんだけれど、なんだかおどろおどろしい感じになってしまって・・・。モチーフが良くなかったようにも思いますが、「こっちは行き止まり、別な道に行こう」と、手法を変えることにしました。
長嶋
そこからどうして旗のパターンを思いついたんですか?
服部
写真をやめよう、ならば色だな、色がテーマになるモチーフはないかな、と。旗なら平面的だし、ゆらゆら揺れるように曲線も使えるし、グラフィックとして面白そうだなと、現実的な面から判断したんです。
長嶋
服部さんの作品はいつも直感的につくられたような仕上がりに見えているんですが、最初から理論やコンセプトありきでつくられているんですか?
服部
いやいや、理論はいつも後づけですよ。その時々で「こっちに行けばいいかな」とやっているだけで。 トライアルのポスターに関しては、線の掛け合わせで色を出せるように、まずは10%、20%・・と太さの違う線をパソコンで描き、それを旗の形にパスを切ってはめこんでプリントアウトしました。さらにそれをなぞって手書きで描いて仕上げようと思ったのですが.・・・。

長嶋
わっ!始めはこういうデザインだったんですか?これもいいですね。
服部
そうですか?プリンターから出てきたのを見て、僕はその時、ヤバイな・・と思ったんです。(笑)実はスケジュールもギリギリで、横で凸版印刷の人がデータを受け取ろうと待ち構えているような状況になっていたし。どうしようと思っていたら、パソコンで描いた下書きの出力が傍らにあったんですね。「こっちの方がいいな、よし、こっちでいこう!」と、そっちを入稿しちゃいました。

服部一成氏のグラフィックトライアルレポートはこちら

長嶋
この後から同じ方法でケーキの作品をつくっていらっしゃるし、かなり気に入られたんですよね。
服部
まあ、旗の作品ができたときは正直、けっこうイケてるなと思ったんです。「これって発明?」って。それでもう少し展開できるかもと思い、三次元的なモチーフにしたもので、半年後に個展をやりました。

「GRAPHIC TRIAL 2014」 長嶋りかこ氏の作品を巡って

次は長嶋さんの作品について服部さんが質問する番です。

服部
長嶋さんのトライアルについても話してくださいよ。
長嶋
はい。私は日常にある色々な黒の画材の質感を、オフセットインキの黒でどこまで再現できるかやってみることにしました。一言で黒といっても、鉛筆では重ね描きすればするほどシルバーっぽくなるし、ボールペンは重ね塗りしたところが赤紫っぽくメラメラして見えますよね?そういう質感を印刷の技法を使って表現してみようと思ったんです。オフセット印刷でここまでの再現性があるということを忠実に示すことで、日本の印刷技術のすごさや深さが伝わればと。

服部
どうしてドットなんですか?
長嶋
日本の印刷技術のクオリティが伝わればということで、コンセプトを「JAPANESE PRINT QUALITY」にしたんです。なので、すごいシンプルですけど日の丸をモチーフにしています。
服部
数が増えていくのは?
長嶋
最初は5枚とも1個のドットで、と考えていたんですけど、ちょっとストイックすぎて。それでグラフィックのカタチの楽しさをと、筆記用具の特性を加味しつつドットの数を増やしました。
服部
なるほど。紙の種類も違うんですね。
長嶋
はい。少しずつ、風合いを変えて、紙の白さも5枚並べた時にグラデーションっぽく見えるように選びました。原画を描く時の用紙も、インクの特性を出すために変えています。鉛筆は画用紙に、ボールペンや油性マーカーはツルツルの紙に描く方が画材らしさが出やすいと思って。描き方もできるだけその画材の個性がでるように、ペン先の感じなどを活かしながら、自分の癖は入れないようにして描いています。
服部
それぞれのポスターを見ると、けっこう質感が出ていますね。

長嶋
でも、本当は私、鉛筆のポスターでは筆圧も再現してみたかったんです。筆圧部分は「(型押しで)押せばいいんじゃないのかな」と簡単に考えていたんですが、型押しだと特殊加工なんですよね。だからグラフィックトライアルのルール的にできなかったんです。
服部
これはオフセット印刷の実験だからね。ルール違反になっちゃうね。
長嶋
オフセット印刷と特殊印刷、よくわかってなかったです。(笑)
服部
(ポスター5枚を見ながら)例えばもっと全部真っ黒くしてもよかったかもね。全部スミ90%くらいの濃度があって、その中で画材の差があっても面白かったかもしれない。
長嶋
そうですね。それぞれの質感を出すために、ものによってはあざとく見えるくらいに少し大げさにつくりこんでいるので、今見ると「ちょっとやり過ぎて子供っぽくなっちゃったかな」と思う部分もありますね。
服部
そういう落とし所って難しいですよね。僕も旗のパターンはピッチ(線の粗さ)を3段階つくったけれど、全部同じピッチにした方がクールだったかなと今になっては思うこともあるし。やってみないとわからないことって多いですよね。

独立して変わったこと、考えたこと

それぞれのグラフィックトライアルについての話題が一段落したところで、今度は普段の仕事について話題が展開。独立したばかりという長嶋さん、服部さんに仕事の進め方や考え方についても色々聞いてみたかったようです。

長嶋
先ほど「理論は後づけだ」とおっしゃっていましたけれど具体的にはどういうプロセスでつくられているんですか?
服部
出口(完成像)がわからないと、「とりあえずこっちかな」「このドアから出られるかな」という感じで進んでいくんです。
長嶋
冒頭でも言いましたが、服部さんの作品はいつも直感的につくられたような仕上がりに見えているんです。「こっちだ」って決めるときにはいつも「理由」はあるんですか?
服部
明確な理由はたぶんないですね。きっと皆もそうですよ。「こっちかな、あっちかな」って迷いながら、勘で「なんとなくこっちが匂うぞ」と決めていく。あとから考えれば理由はわかるんだけど、その時は勘としか言えない。「あっちから太陽がのぼったから、こっちは西だ」と始めから理論的に明快な人もいるけれど、そういう人はあまりブレなくてうらやましいと思いますね。
長嶋
私もうらやましいです。(笑)ちゃんと道筋があれば、そこにはめるだけで何かしら答えも出てくるわけで。でも服部さんのつくり方は服部さんしかできないし答えが服部さんの中にしか無いように思います。なので共有するにはどうやっているのかなと。

服部
そのやり方しかできないんですよ、僕は。それで後になってから「これはこういうことだったんだ」と意味を考えるんですね。そうやって考えることは嫌いじゃないんだけど、わかるのが遅いんです。だから説明できなくて通らなかった仕事もいっぱいある。後になって「こういう風に説明すれば向こうも納得しただろうな」と思うこともよくあります。

写真の撮り方、デザインの意味と無意味

ここで長嶋さん、ふだんから好きだという服部さんの写真を使ったデザインを話題に。

長嶋
服部さんの展示もそうですけど、静物を撮った写真は平面校正のような空間構成が好きです。服部さんが並べられるんですか?
服部
ほとんどの場合、そうです。

「BETWEEN A to B」
「BETWEEN A to B」

長嶋
配置はその場で考えるんですか?
服部
たぶん僕の決める位置はカメラアングルと一体となっている位置なんです。三次元に並べたものも写真に撮れば二次元になりますよね。肉眼でキレイに見えるかどうかより、カメラからどう見えているかを想像しながら位置を決めています。でもみんなそうじゃないのかなあ。
長嶋
『BETWEEN A to B』の表紙もそうやって?
服部
これは写真集で、表紙は中で使用したモチーフを並べて撮影しています。昔、ゴダールの映画「彼女について私が知っている二、三の事柄」を観たのですが、そのラストシーンがすごく良くて、その感じで撮りたかったんです。芝生に洗剤の箱が団地みたいに並べてあって、スーってカメラが引いていくというカットで、ストーリーとは全然関係ないんだけれど、内容を象徴している。そのカメラアングルのイメージで作りました。まあ、全然違うものなんですけど。
長嶋
先日水戸芸術館で開催された「拡張するファッション」を見てきたのですが、展示空間の構成もやはり写真と同じものを感じました。

「拡張するファッション」

「拡張するファッション」

服部
林央子さんとの仕事ですね。彼女の「here and there」という雑誌のデザインをやっていて、この彼女の著書を元にした展覧会ではポスターなど印刷物の制作と、印刷メディアを取り上げたコーナーの展示の構成をしたんです。
長嶋
ああいうグラフィックをつくるとき、服部さんは最初にどこから考えるんですか?
服部
え?長嶋さんは「ここから」というのってあるの?
長嶋
ある時とない時とありますが、まずは言葉から考えます。たとえばYCAM(山口情報芸術センター) のコンサートのチラシでは、坂本龍一さんが樹木の生体電位をデータとして採取して音楽へと変換し、その音と坂本さんがセッションするインスタレーションのようなことをすると聞いていたので、電子音楽の無機的な要素と樹木の有機的な要素を融合するということを象徴して、有機的なものと無機的なものを融合させるグラフィックを作ろうと思い、まずはすごくシンプルに無機的な円と手書きの円の重なりを作りました。あとは紙の裏と表を融合するように紙の透けを利用したデザインにするとか。

服部
ああ、あれはそういうことだったんだ。でも「きっかけ」であって、伝えたいわけじゃないものね。僕の場合は情報を入れただけで、きっかけはないです。
長嶋
でもたとえば「拡張するファッション」のフライヤーを見ていて、大きな円に勝手に拡張を感じました。(笑)
服部
そういうわけではないです。意味なくつくっています。というのも、僕は若いときに、デザインが伝わらないという経験を山ほどしてきましたから。ストレートにではなく少しわかりにくく意味深な感じにするのがかっこいいと思って作ると、結局、何も伝わらなくて、その空回りが恥ずかしい。絵柄に意味を託すならわかりやすくなければかっこ悪いと思うようになったし、意味を託さないなら最初から「無意味ですよ」とつくった方がいい。この「拡張するファッション」も無意味につくったんですが、長嶋さんは意味を感じてしまったということですよね。うーん、無意味って難しいですね。

長嶋氏の仕事を眺めつつ

ここで服部さん、「僕の話ばかりしていても」と長嶋さんに仕事の作品を見せて欲しいと持ちかけました。「服部さんの話がもっと聞きたいのに」と言いながらも長嶋さんはご自分の作品を見せてくれました。

服部
これはメルセデスのポスターですね。長嶋さん、最近は手描きのタッチをよく使っていますよね。

長嶋
身体的なものが欲しい時に手を使うようにしているんです。とはいえ、パーツはMacで描いて出力したものの面を塗るくらいしかしていないんですけれど。
服部
それを最後に平面構成しているの?
長嶋
一発で構築する力が弱いから、Mac に入れて何度も試しながらですね。
服部
なるほど。あ、これはブックデザインですね。

長嶋
ブックデザインは楽しいけれど難しいものです。これは初めて手がけた書籍だったんですが、いざ納本されたものを手にとって一読み手として本をめくると、紙や物質感ってけっこう伝わってくるものだなと。
服部
本は独特の難しさがありますよね。デザインが良くても中身との関係性が重要だし、かといって中身を説明すればいいっていうものでもないし。
長嶋
中平卓馬さんの装丁をされたときに「僕以上にもしてほしくないし、僕以下にもしないで」と言われた、と何かで読んだのですが、確かにそうだなと思いました。例えば中身以上に、つい良く見せてしまうことがありますよね。そういう危険に陥りがちだと改めて思いました。
服部
そういうものは結局はバレますよね。それ以上に見せようとしても見透かされてしまう。自分がやったものの中でも、後から見てダサいなと思うものは「100円を1000円で売りつけるみたいなデザイン」をしたものなんですよ。どこかいかがわしいんですよね。でも、広告の仕事なんかだと「いかがわしい」とか「ダサい」とか言ってる場合じゃないこともありませんか?商品をよく見せる広告屋さんに徹するのは、それはそれで筋が通っているようにも思いますけどね。
長嶋
全てをポジティブに捉えられるかどうかも含めて、そのへんは本当に微妙ですよね。クリエイションの中でポジティブであることは良い結果を生むことが多いけれど、仕事そのもの、たとえば企業や商品そのものが良くないのに良いと変換するポジティブ文化は、逆に広告のネガな部分だと感じますね。
服部
長嶋さんは独立したてで、いよいよこれからどんな仕事をするかだからね。

お二人の話はまだまだ尽きることはなさそうでしたが、残念ながらここで時間となりました。素直な自分の言葉で語り合ってくださった今宵のギャラリートーク、自然体でデザインと向き合うお二人の話に会場は終始なごやかなムードに満たされていました。

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