TOPPAN 凸版印刷株式会社

当サイトは、コミュニケーションメディアのひとつである印刷表現の幅を広げ、クリエイティブに役立つ情報を発信するウェブサイトです。凸版印刷のグラフィック・アーツ・センター(GAC)が運営しています。

EVENT REPORT イベントレポートGACからのお知らせや関わったイベントをレポートします

デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

印刷博物館 P&Pギャラリーで開催された「第91回ニューヨークADC賞入賞作品展」の会期中である2013年10月5日、印刷博物館グーテンベルクルームにて、受賞者の居山浩二さんと長嶋りかこさんによるトークショーが開催されました。受賞作品やニューヨークADC賞、さらにはグラフィックデザイン界の現状など、興味深いトークが交わされました。

居山浩二 プロフィール

長嶋りかこ プロフィール

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

●ゴールドキューブ受賞作品「mt ex 広島, mt train, mt博」 ――イヤマデザイン

居山  :僕は2008年からカモ井加工紙さんのマスキングテープ、mtのブランディングに携わっているんです。テープのデザインやテープカッターといったプロダクツなど、幅広く関わらせていただいていて。今回、受賞したのは、mtプロジェクトの一つである展覧会なんです。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

長嶋  :mtのマスキングテープって、本当にいろんなところで見かけるようになりましたよね。居山さんがブランディングに関わるようになってからなんですか?

居山  :……そうだとうれしい(笑)。皆さんもご存じのとおり、もともとマスキングテープって工業用途で使われていたものなんですよね。テープに色や柄を加える、つまりデザインすることで文房具や雑貨としても支持していただけるようになって。主にラッピングやコラージュなど、デスクワーク的なシーンで使われていると思うんですけど、ブランディングに関わり始めて間も無い段階で、インテリアや空間デザインに展開していきたいと思ったんです。マスキングテープは貼ってもきれいにはがせるし、日本の住宅事情を考えると原状復帰は絶対ですよね。でも、これを使えば簡単に模様替えができるし、イベントやパーティーの装飾にも使える。いろんな可能性が広がると思って。それで2009年に、早稲田にあるギャラリーではじめてmtの展覧会を開催したんです。このときは今ほど規模が大きくなかったし、カモ井さんのスタッフの方といっしょに僕も壁にテープを貼ったりして。でも、そのおかげでテープの特性が分かったんです。

長嶋  :特性というのは、たとえばどういうことですか?

居山  :テープの色の違い、いわばインクの違いなんですが、それによって粘着の具合が変わるとか、紙は同じでも厚みが変わるとか……。このことは、のちのデザイン展開にも活かされているんです。それから、展覧会にはそこでしか買えない限定デザインテープも出してみたかった。テープって、たった数センチの幅のプロダクトなんだけど、デザインの可能性が限りなくて。それまではスタンダードなドットやストライプを中心につくっていたんですが、そこから一足飛びに斬新なデザインのものを商品化してしまうと、メーカーさんにリスクが出てしまうと思って。まずは展覧会で販売してみて、お客さんに人気が得られるようだったら商品化するというプロセスを踏んでいけば、実験的なデザインも可能になるし、お客さんもそこでしか買えないということに価値を見出してくれる。いろんな意味でメリットがあると思ったんですね。

長嶋  :なるほど、商品開発の機会にもなっているんですね。

居山  :まさにそうなんです。この2009年の展覧会はことのほかたくさんの人に来ていただいて、手ごたえを感じた。それからは東京のみならず、日本各地で、それから海外でも「mt ex展」を開催するようになったんです。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

長嶋  :「mt train」は電車のなかをマスキングテープで飾っているんですね。面白いアイデアですよね。

居山  :ありがとうございます。「mt ex 広島」の会場の最寄駅に行く路線の電車なんですが、mtファンの人はわくわく感が増すし、mtを知らない人でも「何があるんだろう?」と、興味を喚起できればいいなと思って。

長嶋  :ほかにも屋外の施設や建物の外観をまるごとマスキングテープでラッピングしているものがあったり。まさに「拡張し続けるmt」ですね。

居山  :mtプロジェクトでは、2012年に「mt factory tour」というイベントもやったんです。カモ井加工紙さんの工場は倉敷市にあるんですが、全国の人に来ていただきたかったからツアー形式にして。工場を見学してもらうだけでなく、いかにお客さんに楽しんでもらうかを徹底して考えて、mtにまつわる仕掛けをいろいろとつくったんです。たとえば、倉敷の駅前から工場までをテープで彩ったバスで送迎したり、宿泊先のホテルに「mt room」を用意したり……。それから、「mtサポートショップ」として倉敷市内の飲食店などにも協力してもらって、倉敷の街に貢献できることも考えたり。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

●シルバーキューブ受賞作品「BE NOISY」 ――長嶋りかこ

長嶋  :ニューヨークADC賞は、私にとってとても思い入れのある賞なんです。ずいぶん前になりますが入社してすぐの2004年に学生時代につくった作品で入賞したことがあって、それがすごくうれしくって。

居山  :その作品、よく覚えてますよ。なんで覚えているかというと、実は僕もその年のニューヨークADC賞で受賞したんです。海外のコンペで入賞したのはそれが初めてで、その年の年鑑はよく見ていたんですよね。そこに長嶋さんの作品があって。

長嶋  :そうだったんですね! 私も初めていただいた大きな賞だったし、それからずっと、もっといいものをつくってニューヨークADC賞に出したいなって思っていて。それで3年前に、ラフォーレ原宿のポスター、「I wear taboo」で受賞したんです。この作品は裸の女性がモザイクを着ているというビジュアルで、カラーとモノクロの2パターンがあるんです。でもね、審査員に「カラーはいやだ」って言われちゃったらしく、カラーは入賞していないんです。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

居山  :それはどうして?

長嶋  :うーん、それがよく分からないんですよね。「なんとなく色がいや」とか言われてたらしいです(笑)。昨年、ニューヨークADC賞の審査員をやらせていただいたのですが、海外の審査員って、好き嫌いがけっこう激しい印象でした(笑)。

居山  :「なぜ嫌いか」という理由は、きっと明確にあるんでしょうね。

長嶋  :すごく明確な場合と、そうでもない場合と、両方ありますね。ニューヨークADC賞の審査って投票制なんですが、最終選考ではなぜその作品が良いと思うのか審査員同士で白熱した議論をするんです。ラフォーレで受賞したときはもうひとつファッションブランドのカタログの「Black and White diamond」も賞をいただいたんですが、後で聞いた話では、あれはそうした議論がまったくなかったそうなんです。「うん、これがなんとなく良いんじゃない?」みたいな(笑)。なんというか、理屈抜きに、感覚的に良いって思ってもらえたみたいで。

居山  :そういう捉えられ方もあるんですね。

長嶋  :逆に「I wear taboo」は、コピーがビジュアルでしっかりと絵解きされているから、海外の人にも受け入れてもらえたのではないでしょうか。それは「BE NOISY」も同じだと思います。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

居山  :すごくインパクトのあるビジュアルだよね。モデルの顔の上にあるからまった黒いかたまりって、針金でできているんだよね? どの段階で針金にしようと思ったんですか?

長嶋  :かなり最初の段階です。何かこう、ぐちゃぐちゃっとしたものを使うことは決めていたんですけれど、一見簡単そうな絵作りなのに実はよく見てみると手間をかけている感じにしたくて(笑)、それであえて鉛筆の線ではなく針金に。

居山  :そうなんだ(笑)。でも、それがすごくいいなって思ったんです。

長嶋  :遠くから見るとやわらかい質感に感じられるんですが、近づくと針金と分かる。でも、手間をかけることで密度がより増して、画面に重みも出せるんです。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

●ニューヨークADC賞では、何が求められるのか

居山  :デザイン全般にわたって言えることなんですが、特にニューヨークADC賞はコンセプトをロジカルに解説できているかが求められると思います。だから長嶋さんの「Black and White diamond」のように、「感覚的に良い」という理由で迎え入れられるのは、かなり珍しいケースですよね。

長嶋  :そうですね。基本的にはアイデアとか、コンセプトがきちんと伝わるかどうかが評価の対象になります。でも、私が審査員を務めたときに感じたのですが、審査では審査員全員が立ち止まるような作品もあって。それはきっと「なぜこの作品が良いのか?」という理由というよりも、ロジックを越えた表現の良さがあるんだと思いました。よく「審査は水物」って言いますが、それは本当。ただ、ロジックや流れを越えていくタフな作品も絶対にある。ロジカル重視の厳しい議論をくぐり抜ける強さを持つ作品であれば、結局は残るんです。そこで淘汰されてしまうものは、表現なりコンセプトなりコミュニケーションなり、どこかに何かしらの弱さがあるということだと思うんです。

居山  :たしかにそうかもしれませんね。

長嶋  :審査員をしたときに帰りの飛行機で、現代美術家の女性と席が隣になったんですね。彼女とニューヨークADC賞の審査の話とか、現代美術界はどうなのかとか、いろんな話をしたんですが、そのときに「表現の定着の部分のクオリティが高くて賞を獲る作品もあったけれど、クオリティが高くてもコンセプトが弱くてだめだったものが多かった」って話したら、「同じことは現代美術界でも顕著にある」って言っていて。日本人の作品は仕上がりがかなりきれいで、海外の人は真っ先にそこに興味を持ってくれるそうなんですけれど、コンセプトの話になると「これはつまらない」って言われちゃう傾向にあるって。つまり、コンセプトと作品が両立していないんですね。

居山  :グラフィックデザインや現代美術、建築やプロダクトなど、フィールドが何であれ、海外ではコンセプト重視で評価される傾向はたしかにありますね。

長嶋  :海外のアートの教育って、見た人にどれだけインパクトを与えられるかはもちろんですが、その人たちに対していかにロジックを持って伝えられるか、納得させられるか、そこをメインに教育しているそうなんです。ディベートで何を言われても絶対にロジックで返せるような、そうした強靭なコンセプトをいかにつくれるかを勉強するそうなんです。

居山  :幸いグラフィックデザイン界は、豊かな表現力でもってロジックを越えていくことがまだ可能だったりしますけどね。

長嶋  :私は日本のADC賞の審査もやらせていただいているのですが、ニューヨークと比べてみると、正直、作品の仕上がり自体は日本のほうがレベルは高いと思っています。でもああいう審査会場で海外の作品と同じ土俵に立つと、コンセプトの弱さが垣間見えて、表現がアブストラクトすぎると感じられてしまう。定着力はあるのだから、タフなコンセプトが備われば、日本勢はもっと海外でも活躍できるはず。自分ももっとやらなきゃいけないって思っています。

居山  :作品づくりというよりも、知的ゲームみたいな感じはあるかもしれない。いかにそれまでのものとコンテクストを違うところを提示できるか、そういうことが評価につながるんですよね。

長嶋  :ちなみに私が審査員をやらせていただいた年にニューヨークADCのトップの方が交代したんですが、「これからはクラフト感だ」って言っていました。時代はデジタルの方向に向かっているけれど、ニューヨークADCとしてはだからこそクラフト的なものを大切にしていきたいって。その感覚って、日本勢は絶対に強いと思うんですよ。

居山  :クラフト的なものに対する評価って、たしかに上がっているのかもしれませんね。たとえば今年のカンヌ国際広告祭で日本勢がたくさん入賞していましたが、ほとんどの作品にその傾向があったんです。フィールドは異なるけれど、国際的な舞台でクラフト的なものが実際に評価されているわけだから、グラフィックデザイン界だけの評価軸ではないんでしょうね。

長嶋  :とは言えもちろんコンセプトも大切。カンヌの受賞作も、コンセプトはしっかりしていましたよね。

居山  :表現だけが優れていてもだめだし、コンセプトだけでもだめ。両立させることは大前提ですね。

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

●グラフィックデザインで人の気持ちを動かしたい

長嶋  :私たちグラフィックデザイナーは、いわば形をつくっているんですけれど、私のなかでは「形じゃないものをつくりたい」という意識があるんです。それはどういうことかというと、それを見たときに受け取ってもらって、さらに持ち帰ってもらえるような何か、たとえばメッセージだったり、感覚的なものだったり、形じゃないものを届けたいと思っています。

居山  :それは僕も同じですね。たとえばmtのプロジェクトなら、展覧会のポスターでもなんでもいいのですが、僕らがつくったものを見て、直感的に商品の良さや楽しさを感じてもらいたいと思っていて。それをきっかけに商品に興味をひいて実際に手にとってもらうといったように、見た人のアクションにつなげていきたいんです。デザインを投じることで受け手にいかにコミュニケートしていくか、コミュニケートするためにどういう形をつくっていくか、そこは最も重視しています。たとえすぐに結果が出なくても、きちんと受け手の記憶に残るとか、もしかしたらそれでも十分なのかもしれません。少しずつ積み重ねていくことで、手に取ってもらえるところまで導いていけるのかもしれないし。

長嶋  :それまで興味のなかった人の興味をひくというのは、いろんなテクニックが必要ですよね。たとえば春、桜を見てその美しさに思わず見入ってしまうことがあると思うんですが、桜のように、私たちがつくった形の前を通る人の足を止められたらって思っていて。形のクリエイションのクオリティを上げるために、とことん試行錯誤することはとても大切ですよね。

居山  :言わずもがなですよね。常にそうしたマインドで取り組まなきゃいけないよね。

●これからのグラフィックデザインとは

トークショーの終盤には、来場者から質問が寄せられました。

――先ほどクラフト的なものが注目されているというお話がありましたが、それは具体的にどういうものなのでしょうか?

長嶋  :たとえば去年の事例だと、3Dプリンタで出来上がる‘立体物’を「記念写真」と言ってプロモーションしたものは、3Dプリンタそのものはデジタルの匂いがするのに、ここでは人の「記念」というある種アナログでエモーショナルなアプローチに変換しているんですけど、これもクラフト的と言えるのかなと思います。

居山  :あとは単純に、手が込んでいるようなものでしょうか。一時期はインタラクション的なものに人々の興味が集まっていましたが、そういう時期があったからこそ、振り戻しているところがあるのかもしれませんね。クラフトっぽさだけを狙うのではなく、コンセプトと両立させることは欠かせません。それが合致してはじめて高い評価を得られるという傾向はあります。

長嶋  :今日のトークに参加されている方々は学生やデザイナーが多いと聞いています。今後、皆さんの手からニューヨークADC賞を盛り上げていくような作品が生まれていってほしいなと思います。

居山  :そうですね。期待しています!

画像:デザイントークin TOPPAN vol.16 居山浩二(イヤマデザイン)×長嶋りかこ(博報堂)トークショー

お二人のものづくりに対する姿勢や視点もたっぷりと語られたトークショー。今後の活躍がますます楽しみになるようなひとときとなりました。

居山浩二

アートディレクター/グラフィックデザイナー
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。日本デザインセンターを経て、イヤマデザイン設立。主な仕事に集英社「ナツイチ」キャンペーン、カモ井加工紙『mt』ブランディング、NHK大河ドラマ「龍馬伝」アートディレクション、ANA「Inspiration of Japan」、東京大学医科学研究所など。JAGDA新人賞、カンヌ国際広告祭金賞、SPIKES ASIAグランプリ、ニューヨークADC金・銀・銅賞、D&AD銀賞、ONE SHOW銀賞、SDA最優秀賞、red dot award:communication design 2012、ブルーノ国際ポスタービエンナーレ The Union of Visual Artists of the Czech Republic Awardなど受賞多数。

長嶋りかこ

アートディレクター・デザイナー
1980年茨城県生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業、同年博報堂入社。「ラフォーレ原宿」の年間イメージ広告のアートディレクション、ロサンゼルスのプライベートチョコレート「YVAK VALENTIK」のパッケージデザインやブランディング、ハンドメイドアートストア「BONDO」のロゴマーク、ミュージシャンのアートワークやミュージックビデオ、建築物のサイン計画など、広告をはじめブランディング、空間、CI、プロダクト、映像などのアートディレクション、グラフィックデザイン、ディレクター等幅広く手がける。2013年には自身のブランド「Human_Nature」をスタートさせた。主な受賞に、毎日広告デザイン賞(2006)、日本パッケージ大賞金賞(2013)、東京ADC賞(2006、2011)、ニューヨークADC銀賞(2011、2012)、カンヌデザイン部門銀賞(2011)、アジア太平洋広告祭グランプリ(2011)、JAGDA新人賞(2010)、ロンドン D&AD銀賞(2012)など国内外の受賞多数。

  • ご意見・ご感想・お問い合わせ 
  • 著作権について 
  • 個人情報保護方針
© 2002 TOPPAN PRINTING CO., LTD.