TOPPAN 凸版印刷株式会社

当サイトは、コミュニケーションメディアのひとつである印刷表現の幅を広げ、クリエイティブに役立つ情報を発信するウェブサイトです。凸版印刷のグラフィック・アーツ・センター(GAC)が運営しています。

EVENT REPORT イベントレポートGACからのお知らせや関わったイベントをレポートします

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

「GRAPHIC TRIAL 2013―燦―」に参加した谷 廉氏とカイシトモヤ氏によるギャラリートーク。(於:印刷博物館P&Pギャラリー、2013年7月24日)

展示会場内で作品を見ながら展開するギャラリートーク。2013年最後のトークは高谷廉氏とカイシトモヤ氏の対談です。雑誌のコラボレーション企画で出会って以来、プライベートでも仕事でも良い関係が続いているというお二人に、1時間半にわたって本音トークをお願いしました。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

トライアルでは不思議な発見がいろいろと

前半は谷氏のグラフィックトライアルを中心に話を進行。テーマの設定、実験のプロセス、最終作品と、順を追って高谷氏に話をしていただきました。

谷 :これまでも大御所の先生方がたくさん参加されていますからね、ほぼ技術の実験は出尽くしているし、僕はもうちょっと身体的な、少々危ういテーマでやってみようかと考えたんです。それでハレーションが面白いかな、と。

カイシ:ハレーションって、カメラで光が入って周りがぼやけることですよね。今回写真は使ってないけれど、色の表現でも基本的には一緒なんですかね?

谷 :いや、違うと思います。おそらく色のハレーションに関しては定義がないんじゃないかな。それに、光学的なハレーションはたぶんすべての人が感じますが、補色がせめぎ合った色の境目がぼやけるほうは人によって感じ方が違うみたいだし。とにかく色に関しては定説のようなモノがないんです。ピンクとグリーンのような色相環の補色関係で起こるというくらいしか手がかりがなくて。ほんと、手探りという感じでしたね。面白かったのは、色相環の中に入らない金や銀でもハレーションが見えたことですね。ブルーと金もけっこう見えるんですよ。

カイシ:金は黄色みがあるから、それが関係しているのかな。

谷 :そうかも。ゴールドを彩度の高いオレンジやグリーンと組み合わせると、黄色みが色に引っ張られるのか、銀色に見えてくるという現象もありました。

カイシ:不思議ですね。

谷 :ほんと、不思議でした。

カイシ:通常の4色は単体だととても鮮やかなのに、蛍光色と並べると途端に沈んで見える、という現象と同じように、対比効果なんでしょうね。

谷 :そうかもしれない。そうそう、もうひとつ面白かったのが、インキと紙地が反応してハレーションが起こったことです。ロベールというラフ系のグレーの紙と蛍光オレンジが、補色でもないのに反応したんですよね。

カイシ:花の部分は紙にそのまま色を刷ってなかったですよね。ドライダウン防止のためにオペ―クホワイトが下地として刷ってあるんでしたっけ。

谷 :そうそう!これはオペ―クホワイトと蛍光インキを重ね刷りしたことで印刷面が平滑になり、紙地のラフなテクスチャーと差が出たのではないかと。その結果、光の反射率に差が出て、それが擬似的に光ってるように見えたのではないかと推測しています。まあ、そんな感じで、けっこう面白い発見がいろいろあったんですよね。今後、もし再トライアルのチャンスがあれば、絶対ドライダウンしないインキとかにも挑戦してみたいし、もっと彩度が高いものやペールトーンのハレーションパターンを検証してみたいですね。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

元禄の燦々と輝く文化をモチーフに

一通りトライアルの内容について語り合った後は、最終作品のモチーフへと話は移りました。

カイシ:ところでビジュアルのアイデアはいつ思いついたんですか?

谷 :2月くらいに。テーマが「燦」だったので、文化が燦々としている時代をベースにしながら、現代風に昇華できたらいいなと思い、錦絵、歌舞伎、川柳とか江戸末期の文化をベースにしました。

カイシ:仕上がりがすごくモダンだから、パッと見では江戸時代の図柄をモチーフにしているとは思えないですよね。江戸って聞いて「えっ?!」って思うくらいでした。それが良いですよね。

谷 :ありがとうございます。1番目のパターンはおじいちゃんの家の欄間などでよく見かける組菱という伝統的なパターンをベースにしています。

カイシ:これって…よく見ると相当クレイジーだなあ!組菱の中にあるドットの中も、ハレーションを起こすように何分割にもなっているし。

谷 :ペールトーンでもハレーションが起こることがわかったので、行儀小紋という小紋柄に取り入れて、組菱と組み合わせています。外側のビビッドな色との対比によるハレーションも起きるかなと思い、細かく補色にしました。

カイシ:あと気になっていたんですけど、このポスターは色面が梨地のようにざらっとしていますよね。

谷 :そうなんです。このポスターと5枚目は単純な幾何学模様だけで作っているので、見る人が飽きるかなと思い、面に濃淡で調子を入れてみました。もちろん、境目になる部分はハレーションが起きるように100%ベタになるように調整しています。

カイシ:贅沢っ!!

谷 :(笑)次が紙地と起こすハレーションで、モチーフは琳派の鈴木喜一さんの千代紙の下絵を僕なりにアレンジしました。その次は面積の差異で起こるハレーションということで、歌舞伎役者が羽織っていたような雷の柄がモチーフです。

カイシ:これは左右の光が迫ってくるような感じで、面積が縮小しているような効果が見えますね。

谷 :4番目はちょっと艶っぽい江戸川柳をテーマに、黒い“ぐびき”という紙の上に色を乗せています。金色とオレンジの丸の境目がちょっと銀色に見えませんか?

カイシ:ちょっと湿った感じがするよね。

谷 :最後は五色幕。歌舞伎座などの定式幕を紐解いていくと、仏教の教えの五行五色に由来する五色幕に遡るんです。そこでハレーションになる色を嵌めて、僕なりの五色幕を考えました。トライアルに幕を閉じるという意味も込めてデザインしています。

カイシ:赤と青が俄然キテますね!赤も青も明度が低い色だから、かえって白く光って見えるのかもしれないですね。

谷 :確かに黄色よりもハレーションが強く見えますよね。

カイシ:黄色と紫だと紫の側にハレーションが出ていますね。明度の低い方にポコッと出ている感じがする。面白いですね。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

高谷氏の仕事を眺めつつ

トライアルについての話が一段落した後は、お二人のふだんの仕事についてお聞かせいただきました。まずは谷氏から。小型グラフィックなどの現物を会場で回覧しながら話を伺いました。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

谷 :これは中目黒にある牛とパンを食べさせてくれるレストラン「Meat & Bakery TAVERN」の仕事です。コンセプトはブルックリンにあるレストラン。CI、VI全般をやらせていただきました。ブルックリンらしさと言うことで、書体も開発しています。

カイシ:バックに影を付けたフォントというのはちょっと珍しいですね。

谷 :そうですね。主にメニューとか、インビテーションとかなどで使用しています。

カイシ:立体ですね。地図もオシャレだよね。

谷 :地図と言えば…僕、今年で37になるんですけど、最近小さい文字が見えにくくなってきて。

カイシ:そうなの?

谷 :若い頃は、カッコいいからって名刺の裏の文字とかをめちゃめちゃ小さくしていたじゃないですか。でも最近見づらくなってきて。

カイシ:(笑)以前は「文字が小さい」とか言われると、「何言ってんだろ、読めるよね」とか言ってたけど、だんだんクライアントさんから言われることがわかってくるんだよね。

谷 :だからね、最近、大きくてもカッコよくつくれるのが本物なんじゃないかと思ってきたんですよ。最近は使うフォントも級数が大きくなってきたし。

カイシ:ほぉ〜!!

谷 :昔は7級も平気で使っていましたけれど、今は最低でも11.5にしています。

カイシ:それは大きいですね!

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

谷 :これは6月まで新国立美術館で開催されていたカリフォルニアデザイン展の館内ガイドです。

カイシ:題字が全部手書きなんですよね。ウチのスタッフに見せたら「イラストレーター壊れてたのかな?」だって。(笑)うちならイラレでやっちゃいますけどね。

谷 :単純な造形にすると軽いイメージになってしまうので、丁寧に手で描くこともけっこう多いんです。この展覧会の時代は、モジュールを組み合わせて機能的・合理的につくるというデザイン文化があったので、それをイメージしてスチールパイプをモチーフに書体を全部つくりました。

――タイポグラフィを自分で描くことは多いんですか?

谷 :多いですね。この時はオリエンテーションの時に方眼紙を持っていたので、「こんな感じですかね」って、その場で描いて決めていったんです。僕はアイデアが出なくて悩むのは嫌だから、オリエンテーションで決めていくことも多いんです。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

谷 :これはフレンチとモロッコをテーマにしたクイック系のお店です。駅の連貼り、縦長のポスターや天井からの釣り下げPOPなど、それぞれの訴求ポイントに合わせて情報の増減をして緩急をつけています。

カイシ:これ、モザイクタイルみたいだけど?

谷 :モチーフは全部モザイクタイルです。ロゴも新たにつくらせていただいています。

カイシ:飲食の仕事が多いのが羨ましいですね。

谷 :僕、食べることがなによりも幸せなんですよ!“食べる”ってすごく人を幸せにしますよね、それをデザインでやりたいと思って願っていたら、去年くらいからそういう仕事がちょこちょこ来るようになってきました。

カイシ:やっぱり好きなものは来るんだね。谷君、そういう引き寄せるなにかを持ってるんじゃないですか?

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

カイシ氏の作品を巡りながら

続いてカイシ氏。今回はポスターを中心に紹介いただきました。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

カイシ:僕は意外とグラフィックデザインに目覚めたのが遅いんです。これが最初に自分でつくろうと思って制作したポスターで2007年頃でした。この時にはじめて「グラフィックって面白いな」と思ったんです。それまでフォトディレクションを中心に、仕事のだいたい95%はCDジャケットをデザインしていたのですが、このポスターをきっかけにグラフィックで「ちょっとやらかしたい」と思うようになったんです。

谷 :カイシさんの作品って一瞬女性的なものも感じるけれど、芯の強さが男っぽいんですよね。でもすごく美しくて。

カイシ:女子っぽいってずっと言われているんですよね。「ガーリー男子」みたいに言われて、女子と話が合うというイメージがあるらしいんですよ。でも、実はめちゃくちゃ男っぽいんだぜ!

谷 :だぜ、って!(笑)カイシさんは芯がドンとあるという感じで、それが男っぽい。僕の場合は線が細いところがあるけれど、カイシさんは細くないんですよ。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

カイシ:これはオーバープリントで字をつくった時の図版が面白かったので、それを引きのばしてつくったものです。要はイラストレーターのパスのカタチです。あまり意味はないのですが、こういう感覚的な、よくわからないけど気になる形をつくるのが好きなんです。

谷 :仕事でビジュアルをつくる時はロジカルに説明しなければいけないことがほとんどですよね。もちろんそれは当然のことなのですが、皆、「なんかいいな」「美しいな」という感覚だけでつくらなくなっているように思えるんです。安心材料としてロジカルにしなければならないというプロセスができているんですが、そのことについて僕は最近、かなり疑うようになりました。そういうやり方をしていると、自分の知識の範疇内でしかつくれないのではないかと思えて。感覚でつくっているものを頑張って言語化していくようにしないと成長しないんじゃないかなと思うんです。

カイシ:でも感覚って難しいですよね。大学で教える時にも、世の中とコンタクトをとるためにもコンセプトは重要だし説明もできる。ところが理屈抜きに「いい」ということを教えるのは難しい。

谷 :確かにそうですね。

カイシ:でも本来は両方ないとね。コンセプトがないのもダメだし、コンセプトがめっちゃ良くてもカッコ悪いのもダメ。そこが難しいね。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

カイシ:これは宮崎県立美術館でJAGDA年鑑に掲載された3年分の作品展のポスターです。最初は皆さんの作品をコラージュして普通につくろうと思っていたんです。ところが、それをある先輩のグラフィックデザイナーに相談したら「ふざけるな! 自分の作品をつくるくらいの勢いでいけ」って言われて。

谷 :へえ〜、そうだったんですか!

カイシ:それで改めてグラフィックの基本的なところを考えてみたんです。例えば、デザイナーという仕事って、親に説明しようとすると大変ですよね。絵を描いているわけでもないし、写真撮っているわけでもない。文章を考えているわけでもない。まあ、自分でイラストを描く人もいるけれど僕の場合は絵が描けないから、要素はそれぞれプロフェッショナルの人にお願いするわけです。とするとデザイナーの仕事ってなんだろう?と考えて…デザイナーとは関係性を定義する仕事なのではないだろうかという考えに至りました。

谷 :うんうん。

カイシ:ということは、要素はマルでも四角でもいいし、かえってそういうものの方が関係性だけでつくっているという感じがわかるかなと思い、つくったのがこのポスターです。ものとものとの関係性を美しく見せるものをつくりたかったんですね。

やっぱり、ポスターは面白い!

お互いの作品を眺めながら、話は徐々にグラフィックデザインの深い話へと移行していきました。

カイシ:最近はウェブやデジタル媒体が台頭して、グラフィックデザインより面白いものはごまんとありますよね。昔はグラフィックデザインがメインストリームだったかもしれないけれど、今やアニメやらゲームやら、昔で言うサブカルがメインストリームになっています。そういうサブカルは僕も好きだし、アニメの仕事だってしていますが、グラフィックデザインならではの面白さってあるんです。こうやってつくっていくプロセスや、現物を生で見ると、改めて面白いと思うんです。おそらく一般の方もこういうのを見ればやっぱりときめくだろうと思うし。そういうのを伝えたくないですか?

谷 :伝えたいですね! 最近は仕事でも、この案件をどう考えるかといったディレクションの時点から参加することも多くなっていて、考え方をも含んだ仕事にシフトしてきているような気がしています。それをアウトプットした時に、ポスターになったりウェブになったりするわけで……。

カイシ:最近はデザインという言葉がどんどん広がって、どんどん崇高なものになってきていますよね。“ソーシャルデザイン”とか、以前のグラフィックデザインとは異なる、別な角度からのデザインが出てきていて、「ポスターなんてつくっている場合じゃないよ」という声も多々聞こえますが。

谷 :確かに。

カイシ:そこがこれからデザインの議論の対象になっていくと思います。でもね、僕はポスターがすごく好きなんです。亀倉雄策先生の言葉に「ポスターはデザイナーの故郷だ」というのがあるんですが、これを聞いた時にすごくいい言葉だなと思ったんです。グラフィックデザインって、物の関係性をどう改善していくか、どうやって解決していくかという大きな考え方を小さな箱庭的世界で表しているものですよね。ということは、俯瞰的に考えれば、実はその考え方自体にいろいろなものを解決する力があるんじゃないかと思うんです。グラフィックの技巧には、社会問題や社会の関係性を見直したりつくりあげるメタファー的なものがあるような気がしているんです。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 谷 廉×カイシトモヤ

グラフィックデザインを巡って話はどんどん熱を帯びていきましたがギャラリーの閉館時間でやむなくタイムアップ。「もう少し話したいんだけど」「まだいいでしょう?」と言うほど話は盛りあがるなか、やむなくトークイベントは終了となりました。それぞれのデザインに対する熱い思いや向き合い方の片鱗をリアルに感じられた1時間半となりました。

  • ご意見・ご感想・お問い合わせ 
  • 著作権について 
  • 個人情報保護方針
© 2002 TOPPAN PRINTING CO., LTD.