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GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

「GRAPHIC TRIAL 2013―燦―」に参加した阿部拓也氏と、ゲストとしてアートディレクター新村則人氏を招いたギャラリートーク。(於:印刷博物館P&Pギャラリー、2013年7月19日)

展示会場内で作品を見ながら展開するギャラリートーク。至近距離で参加クリエーターの話を楽しめるグラフィックトライアルならではの企画です。第三弾は今年の参加クリエーター阿部拓也氏と2010年参加クリエーターの新村則人氏が登場しました。毎年仙台で開催される「デザイングランプリTOHOKU」で審査委員長を務める新村氏と仙台の凸版印刷として審査員を務める阿部氏。今回は阿部氏のたっての希望により、新村氏との対談が実現しました。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

作品に込められたレクイエムの思い

トークは阿部氏の作品解説からスタートしました。以前からグラフィックトライアルのファンだったという阿部氏の作品は、一昨年に発生した東日本大震災の被災体験を表現したものでした。

阿部  :ポスターは時系列に沿ってつくりました。最初のろうそくは震災当日の夜に余震に震えながら夜を過ごした記憶、その隣はその当時に外に出て見上げた星空、3枚目はライフラインが復旧して街に電気が戻ってきた時のほっとした気持ちを表現しました。4枚目は海で、海の向こうから朝日が昇ってくるイメージで、大きな被害を与えた海をあえて肯定的に捉えてみました。5枚目は僕の心理的な部分です。被災後、ボランティアや取材で被災地を歩いたなかで、強く生きていかなければという思いが芽生えていったことからイメージしました。

新村  :1個1個にタイトルがついていますが、最初からつけようと思ったんですか?

阿部  :最初は自分の体験も文章で入れようかと思ったのですが、それだと生々しすぎるのでやめました。「3.11」などの具体的な情報も一切入れないでつくることにしたんです。

新村  :ポスター自体のメッセージ性が強いので、情報がなくてかえってよかったと僕も思います。

阿部  :でも何かしら伝えなければならないという思いはあったので、タイトルをつけることにしました。それぞれ「小さな希望」「星たちは語る」「街の灯」「明日はくる」「生きていこう」と、タイトルにひっそりと自分の思いを込めさせていただきました。

新村  :タイトルをつけたという発想がすごいなと思って。これまでのグラフィックトライアルでも一枚ずつタイトルがついた作品はなかったと聞いて、余計にそう感じました。あと、実は僕ずっと気になっていたんですけど、すべてのポスターに縁をつけたのはなぜですか? というのも、僕ならたぶん、全面縁なしにするだろうから。

阿部  :僕にとってこの5枚はレクイエムという意味もあるので、縁は震災の悲惨な体験の記憶を枠で閉じ込めて保管しておきたいという思いからつけたんです。

新村  :保管?

阿部  :はい。この先、絶対忘れることのない記憶だと思う一方で、この先ずっと抱えて生きていくのは辛いような気がするので…。

新村  :その意思が縁に込められている?

阿部  :そうですね。自分の中で一つの区切りをつけたという気持ちで、アルバムに写真を収めるのに近い感覚で縁をつけました。

新村  :そうなんだ。……ちょっと感動しました。たぶん僕だったらイメージだけでつくってしまうだろうけれど、この作品がそうじゃないと感じるのは、そのせいですね。あらためて、震災に遭遇していない僕がむやみにヘンなものをつくっちゃいけないと思いました。

阿部  :実は僕もこのポスターをつくる際に強い葛藤があったんですよ。結局のところ、震災を材料にするわけですし、思い出したくもない人もたくさんいらっしゃるなかで、その気持ちを無視してこういう表現をしていいものかずいぶん迷いました。自分も被災したとはいえ、あまり震災のことを言い過ぎるのもどうかなと悩みましたね。

新村  :でも阿部さんは本当にそこにいたのだし、そのことを知っているのだから逆にメッセージすべきだと思います。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

阿部氏の仕事 ― 会社の仕事と個人の仕事

続いてお二人のふだんの仕事をスライドで紹介していただきました。

阿部  :会社ではアートディレクターとして企業のポスターやカレンダーなど、主に紙媒体の仕事をしています。それとは別に個人的に地元でグループ展やJAGDAの地域の作品展に出品もしています。
これは2011年の年末に個人的につくったポスターで、言わば今回のトライアルの素になっている作品です。自分の震災の体験を思い出しながら鉛筆で書きなぐったものを一枚のポスターにまとめました。日記のように、「こんなことがあった」と思い出しながら描いたものです。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

阿部  :これも個人的な作品で、2009年度の「デザイングランプリTOHOKU」に出品してグランプリをいただいた作品です。

新村  :このときのテーマは何でしたっけ?

阿部  :「間(ま)」です。これは0と1、つまり無と有の間にある無限の可能性のようなものを表わしたかったんです。これがきっかけで翌年から審査委員をやらせていただくようになりました。思い出深い作品です。

新村  :この年から同じ審査委員になったんですよね。

阿部  :そうですね。新村さんが審査委員長になられた年でしたよね。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

阿部  :これも個人的な作品で、凸版印刷の仙台支社で毎年開催しているグループ展に出品したものです。テーマは「笑い」。ちょっと楽しい感じにしたいなと思い、消しゴム版画を使って制作しました。とても気に入っている作品です。

――イラストを使った作品が多いですね。

阿部  :絵を描くことは昔から好きなんです。手で描いたイラストは、微妙な手のブレなどで内面を伝えてくれるような気がして、よく使います。PC上の直線だけだと自分のつくったものでないと思うことがあるので、下手でもいいから痕跡を残せるようなものを必ず入れるようにしています。

新村  :僕は絵が下手だから、絵が描ける人が羨ましいなあ。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

阿部  :これは宮城県の環境保全米のロゴマークです。農薬をおさえて環境にやさしいお米をつくろうというプロジェクトを一般的にPRするためのロゴで、コンペで採用になりました。僕は会社ではディレクターという立場なので直接デザインせずにデザイナーにお願いすることがほとんどなのですが、これは自分でデザインもした、ちょっと思い入れの深い仕事です。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

新村氏の仕事 ― 地域関連の仕事を中心に

新村  :これは山口県漁連と仕事をしたもので、環境問題をテーマにしたものです。「海の魚は森に育てられる」というコピーで、葉っぱを魚に見立てて撮影したもの。それと、「魚の子孫まで獲られている」というコピーで、一本のリールから何本も釣針が出ている道具をつくって乱獲の象徴にしたものです。

阿部  :新村さんの仕事はとてもわかりやすいものが多いですよね。こういうアイデアって、長い時間かけて考えているんですか?

新村  :実は意外とパッと出てくるんです。「乱獲、乱獲、乱獲、乱獲…」という感じで頭の中でテーマを繰り返していると、そのうちパッと浮かんでくるんですよ。あ、そうそう、アイデアって朝出ることが多いんですよね〜。

阿部  :あ!それ、僕もわかります。朝はなぜかそういうこと多いですね。

新村  :朝、起きた時に閃いて、「あ、いいかも!」って。ただ、そんなにしょっちゅうあるわけじゃないですけど。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

新村  :僕の実家は漁師で水産会社を営んでいまして、十数年前からつくっているその水産会社のポスターです。

阿部  :これ…どうやって撮ったんですか?

新村  :「新村水産」という文字を入れた網をつくって海に沈めて、あらかじめ前日に釣っておいたエイを泳がせて撮影しています。

阿部  :すごいなあ! 合成じゃないんですよね!

新村  :合成じゃないです。もうひとつのほうも、よく魚を放り投げて撮影したのかという人もいますが、小さな水槽に魚を泳がせて、人物の前に置いて撮っているんです。「次はどんなポスターにしようかな」と考えていたとき、魚が海じゃなくて空や島の景色の中を泳いでるのがいいな、どうせなら人物も入れたら面白いかな、と思ってつくりました。ちなみにこのモデルは僕の実の兄で、漁師です。

阿部  :お兄さんだったんですか?! しかもこれも合成じゃなかったって…今日初めて知りましたよ!

新村  :え? そうなの?

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

新村  :これはわりと最近の仕事で、白馬村観光協会の仕事です。「白馬に行けばこういう動物がいるよ」って、ストレートに表現しました。これは「プリントごっこ」でつくっています。

阿部  :これ、紙を貼り合わせているように見えるんですけど。

新村  :「プリントごっこ」で直接印刷したように表現したかったのですが、「プリントごっこ」はA4サイズまでしか刷れないので、A4サイズで刷ったものをフォトショップ上で合体しています。それを並べた時に重なった部分が濃い色になって貼り合わせたように見えるんです。

阿部  :そうだったんですね! 僕も「プリントごっこ」は小学生の頃に使っていましたよ。

新村  :僕は逆に、実は子どもの頃は使ったことがなかったんです。でも、友だちが毎年「プリントごっこ」で年賀状を送ってくれ、その不完全な風合いがすごくいい味で気に入っていたんです。それで仕事に使ってみようと、45歳くらいから始めたんです。

――イラストはご自身で?

新村  :実は僕はあんまり絵が上手じゃないので、いつもウチのスタッフがイラストを描いています。絵を描けるようになりたいなと思ってはいるのですが。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

デザインの道に入ったのは…

ここで、お二人がなぜデザインの道に入ったかを伺いました。

――デザインの仕事をしようと思ったきっかけは?

阿部  :子どものころからずっと絵を描く仕事に就きたいと思っていましたが、デザイナーになりたいというように具体的な職業を目標にしていたわけではなかったですね。ただ、なにかをつくりたいという思いだけはずっと変わらずにありました。自分なりの作品をつくったり、なにかをつくる仕事に関わったり、なにか良いものを残せるのであれば、アートディレクターでもデザイナーでもイラストレーターでもなんでもよかったんです。職種についてのこだわりはありませんでしたね。

新村  :僕の場合は小学生の時にはもうデザイナーになりたいと思っていました。4年生の時に、デザインを教えてくれる先生に出会ってポスターをつくるのが好きになって。6年生の時には既にポスターをつくる人になりたいと思っていたんです。中学・高校でも美術の先生はいましたがデザインは教えてくれなかったので、通信教育を受けたりしながら独学で勉強しました。でも、昔から絵が描けないんですよね。文字や、マルやシカクで表現した絵で表現するのが好きだったけど、デッサン的な絵はダメだったんです。

阿部  :新村さんにとって、絵を描くというのはデザインとは違うものだったということでしょうか。

新村  :そうなんです。僕から見ると絵を描ける人はデザインに味が出せるのでちょっと羨ましいですね。

阿部  :そういえば、子どもの頃に憧れのデザイナーはいました?

新村  :それがいないんですよ。デザインの勉強はしていたのに、デザイナーの知識は全然なかったんです。専門学校の時もいなかったし、憧れのデザイナーができたのは就職して22〜23歳になってからかな。この頃、初めて東京のデザインというものを意識し始めて、「東京のデザインってすごいな」と思うようになって。それからはこの先生がいい、あの先生がすごいって思うようになりました。そういうことに関してはすごく遅かったんです。

阿部  :へえ、ちょっと意外な気がします。

新村  :とにかく知識がなくて。有名なデザイナーの名前もほとんど知らなかったんですよ。

阿部  :でも僕もデザインについて勉強し始めたのは就職してからなんです。学校では絵のことしか勉強しませんでしたから、最初に入った小さな印刷会社では学んできたことが全然使えませんでした。それが悔しくて、それからすごく勉強したんです。デザイナーの名前や書体のことなどを知ったのはそれからでしたね。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

つくることから何かが見つかる

ふだんの仕事に関わるお話も伺ってみました。

――お二人はふだん、どこからインスピレーションを得ていますか?

阿部  :ADC年鑑などデザイン系の本はもちろんたくさん読みますが、実際にアイデアを出す時にはそういう情報を一切遮断するようにしています。見てしまうと影響されてしまってぶれてしまうから、あえて見ないようにしているんです。情報はあくまで知識として置いておいて、できるだけまっさらな状態にしてアイデアを考えますね。ふだんの生活で気づいたことなどは無意識のうちに自分の中にインプットされるものだと思うので、アンテナを張る努力は常にしています。

新村  :僕は逆かな。けっこう影響されちゃうけど、いろいろ見るタイプです。ただ、見るのはデザイン系の年鑑とかではないんです。昔から雑誌などの切り抜きをストックしていまして、アイデアを練る時に、それをバーッと見ていってそこからアイデアのソースをいただくという感じです。先ほどの網のポスターも、ある雑誌に網に女の人が絡んでいる写真があったのを見て「網って面白いな」という発想を得て、網を使ってなにかやろうと思ったんですね。切り抜きをめくりながら、いつもそういうちょっとしたアイデアを閃かせていきます。

――たとえばどんな雑誌が多いのですか?

新村  :洋書ですね。僕は英語が全然読めないので、洋書だと絵本のような感じで要素だけを見ていくことができるんです。そこで知識というより視覚的に面白いものやピンときたものを切り抜いてとっておきます。20歳の頃から始めたから…もう何万枚もありますよ!

――デザインの仕事に就いて良かったことはなんですか?

阿部  :一番は相手に喜んでもらえるということでしょうか。お客さまにデザインを見せた瞬間、顔がパッと明るくなる人もいれば、曇ったようになる人もいます。その一瞬で全部わかるような気がして、「わっ!」と喜んでいただいたときは本当に嬉しいですね。

新村  :僕もやっぱり相手が喜んでくれた時は嬉しいです。

――逆に後悔や失敗などは?

阿部  :僕はふとした時に自分を出してしまう癖があるんです。お客さんの「こうしたい」という意図だけでなく、自分で勝手に捻じ曲げた思いを入れてしまうと言いますか…。気づかないうちに自分の思いだけが先走ってしまい、客観的に見れなくなってしまうことがまだ時々あって、よくがっかりするんです。それはいつもすごく反省しています。

新村  :デザイナーになったことは後悔していないし、あまり嫌な思いもしていないのですが、僕ってちょっと嫉妬深いところがあるみたいで、他の人のいい仕事や作品を見ると「(その作品と比べて)自分ってダメだな」と思うことがすごくありますね。落ち込みます。

阿部  :それをリカバーする方法はありますか?

新村  :とにかくいろいろつくるしかないと思っています。失敗することもあるけど、やっぱりつくらないとどうにもならないですからね。つくっているほうが励みになるし、自分が落ち着きますよね。つくらないとどんどん不安が大きくなるから。

阿部  :つくっているうちにアイデアが浮かんでくるというのもありますよね。

新村  :それもありますよね。頭や手を動かしているほうがいい気がします。

GRAPHIC TRIAL 2013 ギャラリートーク 阿部拓也×新村則人

最後の質問コーナーでは、会場から阿部氏に「この次、6枚目のポスターをつくるとしたらどんなものを?」という質問が。今後も「これまでのこと、これからのことをどうやって伝えていくか考えていきたい」と阿部氏が回答すると、「僕もぜひ見てみたいです。楽しみにしています」と新村氏。終始和やかな雰囲気に包まれたなかにお二人のデザインに対する真摯な姿勢を感じとることができました。

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