TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントークin TOPPAN vol.15「GRAPHIC TRIAL 2013 −燦−」

今年で8回目を迎える「GRAPHIC TRIAL」。毎年、第一線で活躍するクリエーターが凸版印刷のプリンティングディレクターとともにオフセット印刷の印刷実験に挑み、グラフィック表現の可能性を探っています。そして、今年も展覧会の開催に伴い、恒例のトークイベントを開催。参加クリエーターの佐藤晃一氏、成田 久氏、谷 廉氏、阿部拓也氏をゲストに迎え、クリエーターとタッグを組んだプリンティングディレクター(以下PD)の金子雅一氏、尾河由樹氏、長谷川太二郎氏、仲山 遵氏とともに和やかに語り合いました。

●第一部
グラフィックトライアルについて

前半はクリエーターとPD総勢8名によるトークです。印刷博物館学芸員・寺本美奈子氏の進行で、作品を巡って話を伺いました。

―― 参加のオファーを受けた時の感想は?

佐藤  :(オファーが来るのが)少々遅かったなと思いました。(一同笑)

成田  :「えっ? 僕??」というのが正直な感想ですね。これまでも資生堂の先輩たちが参加していたけれど、僕の仕事はちょっと違う方向だし、こういう機会をいただけるとは思っていませんでしたから。「マジ? 僕でいいの?」ってビックリしました。

谷  :電話をもらった瞬間、すごく緊張しました。すごく光栄だった反面、プレッシャーも半端じゃなかったですね。なんといっても大先輩がたくさん参加していた展覧会でしたから。ほんと、緊張しました。

阿部  :僕は毎年、勤務先の仙台から足を運ぶくらいグラフィックトライアルのファンで、アンケート用紙に「僕も参加したいです」と書いたこともあるくらいです。それがまさか本当に自分が参加できるなんて…。嬉しいけど、「どうしよう!」という感じでしたね。

―― 作品に至るコンセプトは?

佐藤  :テーマが「燦」だと聞いた次の瞬間には、もうイメージが私の中にできていました。ですから後はもう進めるだけでしたね。トライアルとしてはいくつか要素を盛り込んでいます。原画をぼかすということ、蛍光色に置き換えてホワイトで希釈するということ、それから切り抜きをして組み合わせることなど。方向は決まっていましたが、実験要素はいくつかありました。たとえばピントをぼかすと隣の色同士が混ざりあって色が濁りますが、その範囲や度合いをどのくらいにするかなどですね。
一番楽しくて時間をかけたのは、どの「きいちのぬりえ」の絵をどういう順番で使うか、でしょうか。この編集の作業が一番楽しかったし、ニヤニヤしながら最も時間をかけて考えました。(笑)


左より、佐藤氏、PD金子氏

金子  :最初の打ち合わせで、ほとんど最終形に近いイメージをいただけたし、進むべき道もだいたい引いていただいたので、他のチームに比べれば楽だったのではないかと思います。とはいえ、いきなりスムーズに行ったわけではありませんでしたね。インキの薄め具合と製版の兼ね合いや、色の濁りなどは試行錯誤しながら探っていき、最後に5枚が徐々に薄くなって見えるようにしていくのも、現場に張り付いて調整していきました。

成田  :最初は編集長をしているSHISEIDO THE GINZAのフリーペーパーのようなビジュアルも面白いかなと考えていたんです。そしたらPDの尾河さんたちに「成田さんには成田さんっぽいのをぜひやっていただきたい!」と言われて。「え〜っ? “僕っぽい”って、なに?!」と思った瞬間、あっ!と閃きました。こんな経験は二度とないんだから、やりたいことをやりきろう、って。そうして自分のビジュアルを使うことにしたんです。
印刷から先は尾河さんに委ねています。尾河さんとは僕が入社以来15年くらいのお付き合いなので、僕のことをわかってくださっているから安心してお任せしちゃいました! ポスターという領域を、印刷技術でアートとしてやりたい、僕をぎゃふんと言わせてください、とお願いしたんです。本当に遊ばせてもらいました。でも尾河さんたちはすごく大変だったと思いますよ。

尾河  :たしかに本当に大変でした(笑)。最初の顔合わせでほぼビジュアルは決まったのですが、なにせ一枚のポスターに30個以上の顔があるわけで、その数だけ作りこまなければなりませんから。はじめは正直、「どうしたものかな」と悩みましたね。そこで、まずは成田さんの普段のお仕事で重要なポイントとなる肌色をチャート状に展開することにしました。肌表現で重要なイエロー版・マゼンタ版のバランスをあり得ないくらい激しく展開してみたり、蛍光インキで表現したり、版の調子も硬軟極端に振ったりすることで、最初の手がかりを探していきました。

谷  :お話をいただいたときに、オフセットで何ができるのかなと思い、オフセットや印刷そのものの歴史を振り返ってもう一回勉強しなおすことから始めました。同時に、過去の参加者がまだやっていないことをやろうと考えて…、そうして見つけたのがハレーションでした。色相環の補色に対してハレーションが起こるというのは昔から言われていましたが、まだグラフィックトライアルで掘り下げた方もいませんでしたし。それに「燦々と光る」「燦々と燃える」という言葉があるように、テーマの「燦」とも共通するかなと思い、これをテーマにすることに決めました。


左より、谷氏、PD長谷川氏

長谷川  :谷さんからお話をいただいて調べてみると、実際にどうなっているかではなく、受容器である目がどう感じるかという問題だということがわかりました。ということは、感じ方に個人差があるということです。クライアントやデザイナーが望むことを客観視しながらモノをつくるというPDの立場から言うと、個人差のある感覚をベースにする曖昧なものが形になるかどうか若干不安でしたが、谷さんは、自分がどういう風に見えたかをとても丁寧に説明してくれるので、進めやすかったですね。

阿部  :一昨年、東日本大震災に遭遇したことで、今まで自分が生きてきた価値観をひっくり返されたように思いました。それからの2年間、自分なりに震災の体験や思いを少しずつ形にしていた時、偶然にもお話をいただいき、テーマは「燦」だと聞きました。そこで僕が思い出したのは被災当日のことだったんです。ひとつはライフラインが途絶えた夜、毛布にくるまって一本のろうそくを見つめながら過ごした夜のこと。そして、その日の夜、真っ暗な街で見上げた星空のこと。暗闇の中で、か細く光る尊さや美しさを「燦」としながら、「暗闇=黒の表現」をテーマに自分の思いをポスターに込めました。

仲山  :最初に感じたことは、阿部さんの場合は技術やビジュアルというより、物語から始まっているということでした。本の装丁や挿絵をつくるように、物語を形にしたいという気持ちを汲み取るのがPDの仕事だと感じたんです。そこで「この人は何をしたいのか」「何を表現したいのか」「どういうことを込めたいのか」を最初に消化することから始めました。そこからは博覧会を開くように黒をできるだけ多く展開し、阿部さんが自分の気に入ったものをセレクトできるようにしていきました。

――新たな発見はありましたか?

佐藤  :今回使用した「きいちのぬりえ」は私にとって必然でした。もしも「きいちのぬりえ」をコレクションしていなかったら、「燦」と言われた時に何を使っていいかわからなかったくらいです。
この「きいちのぬりえ」は色面のベタ面の構成で、しかもかなり彩度の高い色の組み合わせで画面がつくられています。これは日本の浮世絵からの平面的なイラストレーションのつくり方でもあります。もともと浮世絵自体も印刷物であることから、この構造自体が印刷に適している絵の描き方でした。今回のような試みが100%効果的にできる絵として「きいちのぬりえ」はまさにぴったりだったわけです。このトライアルによって、浮世絵の伝統の上に自分がちゃんとのれていたという安堵感、日本の印刷物の長い歴史に関われたのではないかという満足感を味わうことができました。

金子  :今回は佐藤さんに教えていただいた部分が多々ありました。ひとつは、ぼかした版に対して濃度の弱いシャープな版を抱かせることで、ぼけていてもディテールは見えるという手法です。また、蛍光インキを薄めるというのも初めての経験でしたし、刷り順でシアン版を最後に刷ることでまさに蛍光のシアンというようなきれいな青を発色したのも発見でした。こうした知識を自分の財産として、なにかの折に展開できればと思っています。

成田  :普段の仕事では会社やクライアントさんの意向を考えて進めますが、今回は自分の意向だけで自分が好きなものをやらせていただきました。こんなことはもう二度とないだろうから、金のお城をつくるみたいな気持ちでこの豪華な5点の作品をつくったんです。
ここで発見したことをなにかに使っていきたいと思っているし、自分のアート作品にもいろいろ生かしたいし、生かそうと思っています。インスタレーションでもやってみたいし、自分の家の壁紙にしたいし……。なんだろうな、ほんとにやればやるほど面白いことがあるとわかって、表現の幅が広がったという気がします。とにかく、できて「超ラッキー!」って感じです。


左より、成田氏、PD尾河氏

尾河  :私はグラフィックトライアルに参加したのは4回目なので、自分も今までやった事がないものに挑戦しました。成田さんというと蛍光色のイメージがあるので、蛍光の紙で何かできないかと初めて使ってみました。製版的には、紙色を一色に換算して版を設計し、ネガ版を多用したり、ホワイト版の設計を色々と工夫したりしています。一番難しかったのは紙のつなぎ目です。オレンジ、グリーン、ピンクと異なる色の紙のつなぎ目ができるだけ自然になるように版設計をしているのですが、多いもの30版以上になる印刷なので、事前に実験できたのは2種類だけ、ほぼぶっつけ本番で制作していますが、思った以上にスムーズにつながってくれました。

谷  :今回のトライアルでは凸版さんからのアイデアで、ペールトーンのような薄い色や、ディープ(ダーク)トーンのように深い色でもハレーションを起こすかどうか試してみました。かなりの色数で試した結果、結論的には彩度が高いレッドやブルー、グリーンが最もハレーションが起きることがわかりました。
また、紙地や金銀とハレーションを起こす組み合わせなど、予想していなかったもので面白い効果もたくさん見ることができました。中でも、一番面白かったのが金。金の隣に彩度の高いオレンジやグリーンを置くと、色味が引っ張られて銀色に見えるんです。その隣に銀を刷ると、また違う雰囲気の銀があるように見えてくるし…、目の錯覚ではあるのですが、これを見つけた時にはPDの長谷川さんと「すげえ!」とはしゃいでしまいました。

長谷川  :なんといっても2時間も校正刷りに立ち会っていると目がおかしくなって、ハレーションなのかエッジが甘いのか確認できなくなるのが大変でしたね。(笑)
今回、谷さんには、応用の効かないものや実用的でないものにはしたくないという意向があり、なにかの時使えるモノにしたいという方向で設計していきました。今回はベタ色だけで攻めていますが、他の方法も考えられますし、この先、さらに面白いことができる余地もありそうです。とても伸びしろのあるトライアルになったと思っています。

阿部  :挑戦したことの一つに、一般的な黒インキを使いながら刷り順やメジウムの重ね刷り、刷り回数だけでどこまで色の表現ができるかがありました。それにしても、ここまで黒が幅広いものだと知って本当にビックリしました。たとえば、ホワイトオペークを下に引いて黒のインキを刷り重ねていくと、2回目以降から急激に黒くなります。まさに漆黒、漆のような黒になるんです! また、ブラックライトに反応する蛍光メジウムを上に刷ると群青色の発色に変化することにも驚きました。パールメジウムを刷り重ねるとクールな銀色になるのも発見でしたし、このようにいろいろな表現のヒントを発見できたことがすごく面白かったです。


左より、阿部氏、PD仲山氏

仲山  :阿部さんの作品には、見た目以上にいろいろな印刷技術的が使われています。しかもすぐに見てわかるものと、見ただけでは全然わからないものが硬軟織り交ぜて等しく混在しているのが面白いところです。たとえば黒のインキをまったく使わず、紙色の黄色を一色に見立てて紫を刷ることで黒をつくりだしたり、モノトーンのインキだけで色を表現したり、いろいろ技術が隠れています。実験からポスターに展開する際の印刷技術の転用の仕方が比較的わかりやすいものになっていると思いますので、ぜひじっくり見直してみてください。

●第二部
フリートーク

第二部は参加クリエーターの方々に、デザインや印刷についての思いや考え方を伺いました。

――デザインでいちばん大事にしていることは?

佐藤  :僕はあまりそういうことを考えたことがないんです。ただ、何をいちばん大事にしているかと言うと…締切ですね。(一同笑)当然のことだと思いますし、意識したわけではないのですが、締切の中には相手の立場に立って迷惑をかけないようにするとか、自分のわがままを表に出さないようにするとか、そういうことが全部含まれているのではないかと思います。今まで一度も遅れたことがないのですが、それが自分としてはちょっと自慢の種にしていい事かな、とも思っています。

成田  :キャラ性が高いと思われている僕ですが、デザインではオーダーされたことに対して純粋に「演じます!」「やります!」とやっているし、そういうやり方が好きですね。オーダーしてくださった方の気持ちは絶対に汲みたいし、なおかつ絶対に気に入ってもらいたいんです。だって、コミュニケーションもプロダクトも最終的には誰かのものになるわけだし、その方に愛してもらえるものになってもらいたいですから。それに「自分でスタイルを決めない」と決めた時点からデザインやコミュニケーションとしては広がって行けたようにも思っているんです。でも基本は絶対、楽しんでやりますけど。

谷  :デザイナーですから、いいものをつくるとか、美しいものを追求するとか、ディテールにこだわって仕事をするということは当たり前のことだと思います。それをクライアントさんに気に入っていただき、なおかつそれが機能して経済的な効果をもたらした時、初めてデザインの価値というものが出てくるのだと思います。さらに、それが文化的に優れていれば時代的に淘汰されても残っていくことになるのではないでしょうか。僕自身、そういうことを意識して仕事をしています。

阿部  :僕は相手に喜んでもらい、それを見て僕も同じように幸せになりたいと思っています。自分がつくったものを通じてお互いがいい状態になれるように、また、そういった関係性を一人でも多くの人とつくっていけるように仕事をしていきたいです。そのためにも、できるだけお客さまと直接お会いして、微妙な空気感を感じとりたいと思っています。ちょっとしたおしゃべりや表情からアイデアやヒントが生まれることも多いような気がします。

―― 印刷について熱い思いを語ってください。

佐藤  :もはや印刷では昔のように苦労することはなく、入れれば出てくるという時代になり、印刷も標準化されてきました。これはもともと人類が目指していた印刷の理想のカタチでもあり、それが実現されているということだと思います。
印刷がさらに新しい可能性を帯びるかどうか。まずはマシンの精度やインキや紙の開発など、課題はまだまだたくさんあります。しかしなにより、グラフィックデザインをやる人間が仕事に希望を持っていれば、新しい表現は必ず出てくるのではないでしょうか。「つまんないなあ…」と思ってやっていたら印刷がつまらないものになるのは当たり前ですからね。

成田  :僕は、皆さんにくらべると印刷に関する知識がまったくないんですが、でも今回はないからこそ純粋に楽しめたかな、と思っています。大したことではないかもしれないけれど、自分にとってはすごいことがいっぱいあって、広がりを感じました。こういう表現の仕方もあるのかなというのもたくさんあったし…。印刷技術の発展というより、自分にとって楽しめる印刷というのがいっぱい見えたし、やれることの幅、やりたいことの幅が広がった気がしていて、それがこれからどんどん表現や形になっていきそうです。

谷  :テクノロジーとして成熟期を迎えた印刷は、一方では活版やシルクスクリーンが見直されるなど、今はいろいろな方法をチョイスできる時代になっているように思います。紙というメディアに情報を残していくというのはある意味エゴイスティックな作業です。紙媒体を主な生業としている僕としては、原研哉さんの「時代に祝福されている情報が残っていく」という言葉を助けとしながら、夢を持ってデザインの手法を考えたり、誰かに教えたりしながら好きな印刷と関わり続けていきたいと思っています。

阿部  :印刷の面白さを一人でも多くの方に知ってもらえたらと思います。今回のトライアルで、オフセット印刷も人の手で扱っている“生きもの”なんだなと改めて実感しました。日本の印刷技術は世界でもトップクラスですが、それでも基本が人間の手を介して生まれてくるものだというところは変わりません。いくら技術が開発されても人の手触りは残っていきます。そういうことも含め、これから多くの人たちに印刷のことを伝えていきたいと思っています。

それぞれの方がトライアルによって新しい発見に出会い、印刷の魅力を再発見したようです。和やかな雰囲気のなか、あっという間の2時間となりました。

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